862 :Fate×ネギま ◆MnGA8SFSbU:2007/12/03(月) 08:28:45
「次はこの都市について、かな」
「へえ。随分慎重だね、衛宮」
「そりゃあ、迂闊に変な事したらデッドエンドだからな」
それに地理について把握しておいた方が、今後の都合がいい。
万が一の事を考えれば、街からの逃げ道なんかも見通しとかなくてはならない。俺だけでなく慎二もいるのだ。こんなこと考えるのは嫌だが、最悪の状況を考えとかなければならないだろう。
まあ、他にも理由はあるのだが。
「まあその辺はお前に任しとくよ。とにかく、明日は街の調査ってことでいいんだな?」
「ああ」
「それじゃあ明日の予定も決まったことだし、とりあえず一眠りさせてもらうよ。
お前はどうするんだ?」
「俺は起きてる。警察や駅員に何か言われると厄介だし。
そういうわけだから、慎二は気にせず寝ててくれ」
「別に気にするつもりはないけどね」
「そりゃ助かる。それじゃ、お休み」
「………、…ん…。……、し……」
「ん~…」
「し…じ、しん…!」
「ん~~? ん……」
「………。ふん!」
「ぐふっ!」
朝の4時。ぐっすり寝ていた慎二の朝は、俺のパンチから始まった。
「始まった、じゃないよ! 何でいきなり殴るんだよ!」
「あまり大きな声出すなって、慎二。駅員さんに目つけられるぞ」
「そんなのはどうでもいいんだよ!」
「お前がいくら起こしても起きないから、仕様がなく最終手段に出たんだよ。おかげで目が覚めただろ?」
「全然おかげじゃないんだけど! だいたい、起こすのが早すぎじゃないか?」
確かに、時刻はまだ朝の5時。朝日も出ていない時刻であるが。
「出来るだけ早めに動いておかないと、後で大変になるぞ。特に食事関係がピンチだ。せめて水を常に確保できる場所を見つけないと」
「そういうことになるなら先に言っとけよ。別に寝なくても良かったじゃんか」
「それは確かに説明不足だった。すまん」
「……ふん、まあ過ぎたことだし、許してやるよ。
で、今日は都市についてってことだけど。具体的に何するんだよ」
「具体的なことはまだ決まってない。とりあえず、まずは見晴らしのいい所から街全体を見て。細かいことはその後で決こうかなと」
「この都市を調べるって言う割には、随分アバウトな感じだね、それ。て言うか、そんな方法で調べられるのかよ?」
「その辺は問題ない。俺の目なら4キロ先の人間だって識別できるから。街全体の構造見るぐらいなら、見渡せれば十分だ」
目の良さなら、俺の数少ないちょっとだけ自慢できるものである。まあ強化を使う前提だけれども。
「それ、目がいいってレベルじゃねーぞ!」
「とにかくそう言うわけなんで、今日はまず見晴らしのいいところまで行くぞ」
「それはいいけど。見晴らしのいいって、そんな場所都合よくあるのかよ」
「慎二、俺だっていつまでも勢いだけで発言する男じゃないぞ。ほら、あそこ見てみろ」
そう言って、建物の向こうに僅かに見える高台らしき場所を指す。その高さから、街を見渡せるんじゃないかという予想だ。
俺だって、一晩中起きてて何もしないほどボケた男じゃない。
「結構遠くないか?」
「そうか? そうでもないと思うけど。まあ遠いからって、行かないわけにもいかないだろ。結局どこ行くにも足で移動しなくちゃならないんだし、我慢してくれ」
「はあ。まったく、遠坂のせいで本当に面倒なことになったね」
駅を出てどれ程経ったか。馬鹿に慎二のやつが静かだと思って横を見ると、慎二が何か考えてる様子なのに気付いた。
慎二が黙り込んで考え事をしているのは結構珍しいんじゃないだろうか、何て思っていると、突然慎二が話を聞いてきた。
「なあ衛宮」
「ん?」
「あのさあ、さっきから考えてたんだけど。なんで今日はこういう事になったんだよ」
「こういうって、街を調べようって事か? それは昨日からそう決めてたからだろ」
「そういう事じゃなくて。なんでその方法が、こんな面倒くさいのかって事だよ。よく考えたらこの方法、いくら危険を考えたからって、回りくど過ぎだろ」
「さっきも言ったとおり、俺なら遠くからでも街を把握できるからな。面倒なことはないぞ」
「―――衛宮。お前、僕に何か隠してるだろ?」
なんというか。慎二がこんなに勘がいいとは思わなかったな。もしかして、俺は知らない内に、表情に出してたんだろうか。
しかし、確かに慎二に言ってないことはあるが。それは何と言うか、まだ確信を得ていない想像だからと言うか、俺の担当分野と言うか。なにより。
「こう言っちゃなんだけど、慎二には余計な心配は掛けたくないんだよ」
「相変わらずの変な気遣いと鈍さだね。そんなんだから桜のやつ『先輩の鈍さはノートに書きとめておきたくなるほどです…』とか言われるんだよ」
俺の態度が気に食わないのか、慎二は見るからに機嫌を悪くする。
て言うか、桜はそんな事言ってたのか。
「心配掛けたくないなんて今更なんだよ。だいたい、言わない方が不安だっていうんだ」
「そういうもんなのか?」
「そういうものなんだよ! 変なトコにこだわるね、お前は。ほら、さっさと言えよ。その隠してることをさ」
「……分かったよ。けど、驚いて変な声上げたりとかするなよ」
本当に大丈夫なんだろうかと思わなくもないが、慎二がそこまで言うのなら、この際信用してみることにしよう。
そう決め、周りに誰かいないかを確かめて小声で話す。
「もしかしたらだけど。この世界に、そしてこの街に魔術師がいる可能性がある」
その説明に、慎二があからさまに嫌な顔を見せる。
「…………本気で言ってるの、それ?」
「こんな状況で、さすがに冗談なんか言わないぞ。まあ魔力の存在自体は、こっちに来て直ぐに気付いたんだが。昨晩落ち着いてから、もう少し詳しく調べてみたらな、この街に結構な魔力が存在するってことまでは何とか調べがついた。
けど、考えたらおかしく話だろ。俺達の世界に魔力があるなら、こっちにあってもおかしくないし、魔術師だって然りだ」
「それは一理あるね。けど、その話がどうして、この街に魔術師がいることになるんだよ?」
「さっきも言ったけど、この街にかなりの魔力があるんだ。そういった土地は管理であれ探求であれ、何かしらの理由で魔術師が寄って来る。
つまり、この世界に魔術師が存在するって事になると、自然にこの街にも魔術師がいることになるわけだ。
まあ学園都市ってぐらいだし。魔術師が根付くには不十分だし、数は少ないかもしれないけどな」
まあ、あくまで危険を考えた上での結論なので、魔術師がいない可能性もある。正直、魔術師という連中はどうにも気が合わないので、いて欲しくはないのだが。
「ふーん、なるほどね。昨日と打って変わって、随分頭が働いてるじゃんか」
「それはどうも。けど俺としては、慎二がこんなに冷静なほうが感心なんだけど」
慎二の事だから、もっと怒ったり騒いだりすると思ったんだが。だからこそ話すのを躊躇ったのだが。
やはり歳月というのは人を変えるものなのか。昨日も意外と落ち着いてたりしたし。
「魔力があるから魔術師もいるかもって話なだけだろ。そもそもいてもあんまり数がいないなら、別に問題ないじゃんか」
訂正。相変わらず慎二は慎二のままでした。
「慎二。昔も言った記憶があるが、お前に足りないのは用心深さだ。
……まあ魔術絡みの事になったら、結局俺が何とかすることになるだろうけど。一応そういうこともあるんだってことは、注意してくれよ」
「分かってるよ、それぐらい。
―――それより。目的地ってあそこだろ」
「そうそう。思ったより近いな」
「意外と早く着きそうじゃんか。けど、これならこんなに早く移動する必要なかったんじゃないか?」
「確かに、予想以上に早かったな。まあ早く着いたら着いたで余裕が出来るし、上手くいけばしっかりとした寝床や食事にまで辿り着けるかもな」
「へえ、そりゃいいね。そういうことなら、早く行こうぜ」
「俺が言うのもなんだが、お前も現金なやつだな…」
「なんか言ったか?」
「いや、別に。
それより、急ぐのはいいけど、調子に乗ってると後半きつくなるからな」
「大丈夫だよ。そういうところが要らないお世話なんだよ」
「そうならいいけどな」
やる気を出してからどれ程経ったか。ようやく目的地にたどり着くと
「はぁ……はぁ……。くそっ! 誰だよ、早く着きそうとか言ったのは!」
慎二がキレていた。
「とりあえず着いたんだから、落ち着けって慎二。」
「くそ! 当分歩かないぞ、僕は!」
言ってることは自分勝手極まりないが、まあ慎二が怒る理由も分からないでもない。
直線距離では大したことなかった目的地までの距離も、街中を通ると何倍も長くなるのだ。しかもこの都市、造りが道が妙に凝っている。さらに建物の高さが高く、連なってる所為か、一度目標を見失うと、道がさっぱり分からなくなるのである。
そんな訳で迷いに迷って、高台に来る頃には日が上の方に来てしまっていた。
「急いだ意味が全くなかったじゃんか!」
「そうでもないさ。これでも予想していたより早く着いたし、休んでていいぞ」
「ああ、言われなくても休むよ」
兎にも角にも、目的を果たさなければならない。ここまで来たのは、何も街を見やすいからと言うだけではない。魔術師がいる可能性が出てきた今、出来うる限り自分たちの存在を隠しながら情報を得る事が必要だ。
街を見下ろすと、思ったとおり街が見渡せた。かなりの大きさではあるが、学園都市という特殊な街のおかげか建物が密集していて、俺の目なら十分に街全体を確認することが出来る。
「同調、開始」
目に強化の魔術を叩き込む。
細部まで見落とさぬよう街を見渡す。先ほどまでいた寮から、左へと視線を移していく。その最中。
「え?……」
ありえないと、そう思うしかないモノを見た。
「どうしたんだ、衛宮? なんかあったのか?」
慎二の問が聞こえないかのように、先にあるモノと更に左側の景色を睨むように見てゆく。
そうして数分後。見たモノから導かれる答えを、そのまま慎二に伝えた。
「慎二。悪いが予想外の展開になった」
「なんだよ。そんな真剣な顔して」
「―――この街に魔術師がいる。いや、この街自体が魔術師たちの根城の可能性がある」
「は? ちょ、ちょっと待てよ! さっきと言ってることが全然変わってるじゃんか! もし魔術師がいても、そんなに数はいないんじゃなかったのか!?」
「確かにそう言ったが、状況が変わった。いや、正しい状況が見えてきた、ってとこかな」
「どういうことだよ」
「慎二。正面に見える湖にある建物が見えるだろ?」
「ああ見えるね。で、それがどうしたんだよ?」
「あの建物、間違いなく魔術、神秘の類に関係するものだ。しかも、かなりのな。それだけじゃない。向こうの校舎の方にも、結界の類が見える」
「おい! それって本気で拙いんじゃないのか!」
湖の建物に、いくつもの魔術の痕跡。それは、この街に魔術師が巣食うと判断するには、十分な材料だ。
だが、そうでありながら、俺はこの状況を拙いと言い切れなかった。はっきり言って、俺の知る魔術の常識から言えば、この街の状況はおかしな点ばかりだ。
神秘を隠匿するのなら、わざわざ街中に魔術を施す理由がない。隠しておきたいのなら、神秘を一箇所に集め、目の届かない地下にでも仕舞って置けばいいのだ。だからこそ俺達の世界には魔術協会が存在する。
だと言うのに、この世界では神秘が街中に存在し、かつ『何箇所』にも見られるのだ。いったい何故そんなことをするのかが分からない。
「どうするんだよ、これから。こういう時こそお前の出番だろ」
「…………」
確かに分からない、が。
「学園長に会いに行く」
この世界の魔術師は、俺達の世界よりも『人間』よりだと予想できる。
「学園長に会いにって、本気かよ!」
「もちろんだ。この街の様子からいけば、学園長がこの都市の魔術師のトップだろうし。まあそうじゃなかったら、最初に考えてたとおりでいくから」
「そんな事はだいたい分かるよ! 僕が言いたいのは、そのトップに真正面から会いに行って大丈夫なのかって事だよ!」
「俺だって考えなしじゃないさ。
この世界に魔術師がいるっていうのは間違いない。けどな、その魔術師が、俺達の言う魔術師とは違うんだ。特に、魔術に関する考えや思想がな」
かなり希望的観測による結論だが、慎二を説得させるためにはこれぐらいで言っておくほうがいいだろう。
それに、この推測には自信がある。この街の魔術は、生きては入れず生きて返さない、といったものが感じられない。それよりも、人の出入りを許し、ただ守るためだけにある、まるで衛宮家の結界のような雰囲気さえ感じるのだ。
「だいたい、逃げるたり隠れたりする選択は、昨日あの娘達に会う前にするべきだったろうな」
「そりゃそうだろうけどね。けど、本当に大丈夫なのかよ。失敗したら、即鉄格子の中、ってことになるかもしれないんだぞ」
「俺だって考えた上でいってるんだから、大丈夫だって。
それに、いざとなったら俺の切り札でなんとかするから」
もしそんなことになったら、遠坂やセイバーが本気で怒りそうだが、そこは慎二のためってことで何とか許してもらおう。まあ無事帰れたらだけど。
「何だよ、その切り札ってやつは?」
「悪いが言わないでおく。まあ安心しろって。あの遠坂が殺意を覚えたほどの代物だからな。交渉材料としては十分だ…………………と思う」
「いや、そこは自信持って言わないと安心できないだろ」
「こういう性分なんだよ。まあ、今はそんなことよりも」
会いに行くタイミングが問題だ。
どれだけ希望的な思考をしたって、危険であることに変わりは無い。しかも、俺達の事情を理解してもらって、助力を得ようと言うのだ。下手に邪険にされる訳にはいかないのだ。
学園長という人物が、どういった人間なのかはさっぱり分からないが、昨日の娘の反応からいけば、表向きは学園長としてしっかり働いてるんだろう。その点を考慮すれば、学園長が『学園長』である内に会いに行く方がやり易いだろう。が、学校の窓口で昨日のような嘘はさすがに無理だろうし。
さて、どうするか
最終更新:2008年01月17日 23:27