557 :371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg:2008/01/11(金) 18:47:14
「だって、足りないところは助け合うのがパートナーだろ?」
自信たっぷりに、そう言ってやった。
……あ、水銀燈が驚いてる。
が、すぐにまたぷいっとそっぽを向く。
「な、何言ってるの。
私は貴方を捨てたのよ。
貴方なんか、もうミーディアムじゃないわ」
「でも、これはまだあるじゃないか」
そう言いながら、左手をアピールしてやる。
左手の薬指にはめられているソレは、差し込む日光を受けてきらめいている。
横目でソレを見た水銀燈が、ゆっくりとその名前を口にした。
「薔薇の、指輪……」
「これが残ってたから、俺は水銀燈を探すのを諦めずにすんだ。
……水銀燈、契約を破棄しないで居てくれてるんだって、分かったから」
「…………」
俺の左手に注がれていた視線が、ふと逸らされる。
水銀燈は、自分の指にはめられている指輪をじっと眺めていた。
「自惚れかも知れないけど。
水銀燈が、まだ俺のことを見捨ててなかったこと、嬉しかったんだ」
「……ただ、破棄するのを忘れてただけよ。
私にとっては、ミーディアムなんか居ても居なくても同じだし。
それだけよ」
こちらを見ることなく、弁明する水銀燈。
居ても居なくても同じ、か。
俺は水銀燈から視線を逸らさずに、一番言いたかったことを口にした。
「あのさ、水銀燈。
俺、アリスゲームにミーディアムが必要な理由が、ようやくわかったよ」
ミーディアムが必要な理由。
その言葉を聞いた水銀燈は、反射的に眉をひそめた。
「……話を聞いてた?
私には、ミーディアムなんて必要ないのよ」
「聞いてたよ。
でも、俺にそれを教えてくれたのは水銀燈だぞ」
「は……私が?」
全く身に覚えがない、と言いたげに、怪訝な顔をする水銀燈。
ううん、やっぱり意図して言ったわけじゃなかったのか。
「忘れたのか?
二人で藤ねえのところに、これを貰いに行ったときに言ってたじゃないか」
「……?」
「人形とは、持ち主の想いが篭もるもの。
長い時間を一緒にいればいるほど、想いは積み重なっていく……ってさ」
「あっ……」
水銀燈の眼が再び驚きに見開かれる。
そう、確かに水銀燈は人形だから、人間のように背が伸びたり、体重が増えたりはしない。
でも、心は。
心が変わっていくことは、成長とは呼べないだろうか?
そしてそれが、ドールたちを残して消えたローゼンの意図だとしたら?
「もし、俺がミーディアムになったことに、意味があるんだとしたら。
それはきっと、水銀燈の助けになるため。
……俺はそう信じてる」
俺は、最後まではっきりと、水銀燈の眼を見ながら言い切った。
言いたいことは全て言った。
言うべきことはもう何もない。
後は……水銀燈の気持ち次第だ。
「……ふん。
恥ずかしいことばっかり言うわねぇ、士郎は」
「うっ、それは言わないでくれ」
水銀燈の指摘にドキリとする。
実を言えば、途中から自分でもかなり恥ずかしかった。
「でも……面白いわ。
ミーディアムと二人で協力して、ね。
そんなこと……今まで考えたことも無かったわぁ」
「あ……」
心臓が高鳴った。
さっきとは比べ物にならないくらい、ドキリとした。
水銀燈は、眼を覚ましてから初めての、落ち着いた笑顔を浮かべて。
「士郎……こんなジャンクの身体になった私だけど。
一緒に、居てくれる?」
「もちろん。
俺の力が及ぶ限り」
二人の薬指にはめられた、対の指輪をそっと重ねて。
俺たちは今、二度目の契約を結んだ。
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最終更新:2008年01月27日 21:32