257 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/07/13(木) 03:03:55



 ――――――正気か?


 かぐや姫と書いた後に「有彦に一票」と書いた直後に俺は強く消しゴムを握った。
 OKOK。まぁアイデア自体は悪くないさ、何せ女の比率の方が多いんだからな、それも一興さ。でもな、でもだぞ、

 い く ら な ん で も 有 彦 に か ぐ や 姫 は あ ま り に も 目 の 毒 か と。

「………………………………」

 他の役の投票も決めずに初っ端から頓挫してしまった。っていうか何だ、本当に俺は有彦に入れるのか?
 万が一、億が一にでもアイツに決まったらどうするつもりだ? アイツなら逆に喜びそうで恐いんだが。

「……………………」
「もうすぐ投票してもらいますよ~」

 どうする俺。何ていうか世界の外からそうしろという力が働いて他の名前を書くのが躊躇われる。
 アルクェイドが言ってたっけ。これが抑止力ってやつですか、先生。

「まぁそんなに時間かかるもんじゃないと思うんで締め切りま~す」

 主役を決めるのにうんうん唸ってる俺は阿呆ですか?

 ――――えぇい、ままよ!

 俺は結局有彦の名をかぐや姫に投じ、他の配役も当たり障りない人に投票した。

「そういえば、アルクェイドさんはどうするんですか?」
「あんなあーぱーいなくても舞台には影響はない……むしろ改善されたと思いますがね」

 やっぱりシエル先輩、アルクェイドには厳しいな。当たり前か。
 と、

「ちょぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁ~!」

 ブレーキ音が聞こえそうになるほど廊下を爆走してきたアルクェイドが教室のドアを勢いよく開け放つ。

「あ、帰ってきたんだ」
「あったりまえでしょ志貴! あたしがいなくて何が舞台よ!」

 いや、きっとお前がいないからこそ舞台が成り立ったかも分からんよ。

「まぁまぁ。アルクェイドさん、今配役の投票をしてるんでアルクェイドさんも書いてください」
「ん~、自分で決めれないの? 何か面倒だなぁ」
「わがまま言うな。何なら自分で自分に投票すればいいだろ」
「ふ~んだ。最初っからそうするつもりですよ~だ」

 あ、自分で言っちゃったよこいつは…………。
 まぁどうせ誰もアルクェイドに投票しないだろうから恥かくだけだけどな。

「ハイ、じゃあ集計しま~す」
「投票用紙で、投函です」

 各々が四つの箱に自分の用紙を入れていく。その時の表情は人それぞれだった。
 表情を見せないようにしている者、期待に満ちている者、自信満々といった顔の者、何を考えているのか分からない者、様々だった。

「それじゃあ少々お待ちください。翡翠さんそちらお願いできますか?」
「かしこまりました、瀬尾様」

 そうして教壇の上で黙々と作業をこなす二人を尻目に何もする事がない俺達は雑談をするしかなかった。

「なぁ遠野、お前は主役に誰選んだんだ?」
「ばっ、何で有彦に言わなきゃならないんだよ」

 俺は明らかに動揺した。そして一瞬だけだが有彦が厚化粧をして十二単を着た姿を幻視してしまった。

 ――――やばいっ! 眼鏡はずしてぇっ!

 どうしようもない怒りを何とか押し殺し、俺はヘラヘラ笑っている悪友を睨んでいた。

「オイオイ遠野、そんな恐い顔すんなって。ちょっと聞いてみただけじゃねぇか」
「もちろん遠野君は私を主役に選んでくれたんですよねー」
「何でシエルなんかに入れるのよー。あたしに決まってるでしょ、あたしに」
「まるで分かっていませんね。兄さんは私に投票したんです。妙な勘違いをしてくれては困ります」
「………………ハハハ」

 乾いた笑いを漏らすしかなかった。だって誰にも入れてないんだから。これは死んでも言えないな。

258 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/07/13(木) 03:07:10

「はい、それでは結果を発表します」

 晶ちゃんの一言でざわめきが一瞬にして消え、水を打ったように静まった。

「それではまずは中堅どころのおじいさんとおばあさん役です」
「瀬尾、まずは主役を発表するべきじゃないの?」
「色々思うところがあって実は主役のかぐや姫役の票は開票してないんですよ。楽しみは最後に皆で楽しもうという事で」
「……まぁ先に瀬尾と翡翠だけ分かっていたら不公平ですからね」

 では改めて、と咳払いをして集計した紙を眺めて一息で読み上げた。

「おじいさんに乾先輩、そしておばあさん役がシエル先輩です」

 わずかなどよめきの中、俺は密かに納得していた。まぁ妥当な線だよな。ところが、

「異議ありっ!!!!!!!!」
「ハイ、何ですかシエル先輩?」

 今までで一番気迫があるんじゃないかっていうくらいの挙手で晶ちゃんに物言う先輩。

「主役をやるのにおばあさん役はできません!」

 もはや決定事項ですか、先輩。まだ開票してないって言ってたのに。

「それに関しては大丈夫ですよ。投票で複数の役に選ばれた時は本人の希望を優先しますから」
「あら、そうなんですか。それじゃあ問題はないですね」

 と、何もなかったかのように席に座り直す。

「何勝ち誇ったような顔をしてるんですか、代行者。結果も出ていないのに」
「そうよーシエル。ぴったりじゃない、おばあさん」
「あなたに言われたくないですっ!!!!!」
「えーっと、続けていいですか……?」

 そうして次は帝役の発表なのだが…………、

「ダントツで遠野先輩のお兄さんです」
「まぁそうですよね、もう男は一人しか残っていないんですし」
「私も入れましたし」
「あ、シエルも志貴に? あたしもあたしもー」
「私も志貴に投票しました」
「………………(コク)」

 女性陣がさわいでる中、俺はうなだれていた。
 俺はチョイ役でいたいのに……………………………………。

「はい、ではお待ちかねのかぐや姫の開票にいきたいと思います」

 そうして、かぐや姫と書かれた箱が晶ちゃんの前に置かれる。翡翠は黒板にコレまでの結果を記していた。
 さながら晶ちゃんが議長で翡翠が書記といったところか。

「ではまず一票目は…………」

 緊張の一票目。女性陣、特にいつも仲悪いトリオは目が血走りそうなほど晶ちゃんの挙動を凝視していた。
 四つ折りにされた紙が開かれる。



「琥珀さんです」
「「「えええぇぇええぇぇぇぇえぇぇええ!?」」」
「あらはー、照れますねー」



 思惑とかけ離れた名を呼ばれて三人はコントよろしく椅子から転げ落ちた。

「納得いきません!」
「取り消せ~!」
「やり直しを要求します!」
「いや、三人とも……まだ一票目だから」
「「「何!?」」」
「う………………」

 なだめようとしても三人の目は殺気に満ちていた。だめだ、これは黙ってるしかない。

「…………では殺されないうちに二票目いっちゃいますね。次は………………え? えっと、入れ間違いじゃないですよね……
 乾先輩って書いてるんですけど」

 あぁ、俺のか。

「ハッハッハ! 誰だそんな面白いことやった奴は」

 隣にいますが何か問題でも?

「今のところ三人とも横並びね」
「まぁ先に票を得るのは私ですけど」
「あら先輩、何を言ってるのかしら。冗談は年齢と体重だけにしてください」

 あぁぁ、まだあっちでは水面下でバトルってるよ。

259 名前: ブロードウェイを目指して ◆bvueWC.xYU [sage] 投稿日: 2006/07/13(木) 03:08:11

「それでは三票目………………お」

 驚いたように開いた紙の内容を目で読む。そして、

「遠野先輩です」
「なっ…………」
「何で妹がー!?」
「ふっ、まぁ当然の結果ですかね」

 何か傍観を決め込もうと決めたら異常に面白いな、この三人。

「じゃ、じゃあ次行きますっ。えっと…………アルクェイドさん」
「よっしゃー!」
「出遅れた…………」

 あ、シエル先輩が落ちた。

「さくさくいきます。次は…………お、新しいですね。弓塚先輩です」
「え?」

 素っ頓狂な声を出したのは他でもない弓塚本人だった。よほど意外だったのか、口が開けっ放しだ。

「へぇ~、さっちんがねぇ……」
「でもきっと立候補でしょう? それなら必ず一票入りますし」
「………………………………」
「まぁとにかく次です次!」
「あぁ、ハイハイ」

 シエル先輩に急かされて慌てて次の票を開く。

「はい、次はシエル先輩です」
「やりました!」

 (カレー以外の事では)珍しくガッツポーズを取る先輩。他の二人は舌打ちをせんとばかりに面白くない顔をしている。
 仲良くしようよ。

「中々飛びぬけてきませんね。では…………またシエル先輩」
「「ちっ」」

 あ、本当に舌打ちしたよ。

「ケ、ケンカは駄目ですよ!? 次は…………遠野先輩です」
「……………………」

 もはや騒ぐ元気すら起きなくなったのか、アルクェイドが口から煙を出している。

「残りも少なくなりましたね。…………弓塚先輩です」
「へぇ~」

 思わず俺は場の雰囲気も考えずに感嘆の声を漏らした。

「「「……………………む~」」」

 もちろん睨まれたけど。あれ、アルクェイド魔眼になってない?

「これで秋葉様、シエル様、弓塚様が二票。アルクェイド様と乾様と姉さんが一票です」

 これまで出てきた人の名前の下に正の字を書いていた翡翠が実況する。随分とばらけたもんだ。

「ではラスト二票です。これで落選が決まっちゃう人も出てきますね…………」
「………………」
「………………」
「………………」

 三人が固唾を飲んで晶ちゃんを見つめる。アルクェイドに限っては真剣さそのものだった。
 何しろ他の二人と違ってこれが自分の票にならなければ落選なのだから。

「……………………………………アルクェイドさんです」
「……よし」

 小さく重みのあるガッツポーズをしてみせる。他の二人はただ黙って周りを牽制していた。

「いよいよ最後ね」
「恨みっこなしですよ」
「そっちこそ後悔しても遅いですよ」
「最後の票を開けます」

 言っていよいよ最後の開票。

「………………………………………………………………………………………………」

 カサ、と紙が開く音だけが教室に響く。そうして、晶ちゃんが票の名を読み上げて……、

















「……………………………………………………………………………………………………弓塚先輩です」

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最終更新:2006年09月05日 15:10