403 :エルメロイ物語 ◆M14FoGRRQI:2008/02/16(土) 22:52:28
「アーイ、ラーブ、ロリーター!!!」
「おい」
後ろから掛けられる声。エミヤは気付かない。
「私がフルボッコにしたのは誰だったのー!!!」
「時計塔でゴースト風情が何をしている」
ポンと肩を叩かれる。エミヤは気付かない。
だがさすがにアルバゼッチャダはエミヤの後ろから声を掛けるその人物に気付く。
頭に包帯右足にも包帯のその男、アルバは知っている、この男を。
チャダはちょっとだけ知っている、この男を。
バゼットは全然知らない、この男を。
「おっぱいぶるるーんぞうさんびろーん!!!」
「殴っていいのか?おい?それとも殴られるのを待っているのかこいつは?」
狼の様な目と狼並みの脳味噌を合わせ持つ小柄な40前後の男、ケーン・アーチボルト
(常人ならば全治一ヶ月の状態)は三人に確認をとる。
「ああ、その下級霊の事は好きに殴りたまえ」
「暴力は良くありませんが―、悪霊にはいい薬です」
「むしろお願いしたい。それには信仰を裏切られたばかりなので」
立場の違う三人、しかし答えは見事に一致。
「では」
軽く咳払いをしてからケーンは拳を振り上げ―、
「聞け、風よ。我が拳と敵との間に汝あるべきではない」
詠唱が始まった。
いや、そこまでしなくてもと思う三人。だがそれ以上に殴られた時のリアクション
見てみてー、酷いかもしれないけどどうせエミヤーマンだしという気持ちの方が
ちょっとだけ強かったので止めない。
「我が払う代償、それは魔力。
今この一時の為汝に我が魔力捧げよう。
そしてもし魔力で足らぬならば、筋肉で補おう。
今我が拳と敵の前に風は無し。
この一撃に全ての技巧を。この一撃に全ての思いを。この一撃に全ての筋肉を。
我が技巧至らぬ所あれば筋肉で補う。
我が思い届かぬ部分あれば筋肉で補う。
我が筋肉足りぬならば筋肉で補う」
ケーンの右腕が蛇のごとく歪む、いや歪んでいるのは腕の周囲の空気の層。
拳の周りの空気を薄くする事によって空気抵抗を減らしパンチを加速させる。
これがケーンの得意魔術、筋肉マッハ筋肉パンチである。
「ひどい魔術ですね。誰だか知りませんがあんなのでも時計塔の魔術師ですか」
バゼットは落胆しながらこっそりとアルバに耳打ちする。
「ああ、ひどい魔術だ。まず、構成全体が美しくない。ならば実践的かというと
そうでもない。詠唱が完了するまで一分以上も掛かっている。そして射程も無いに等しい。
あんなのを喰らうのはよっぽど慢心している魔術師ぐらいだ。あ、ちなみに彼は君が
会いにきたロード・エルメロイと同じアーチボルト家の魔術師らしいのだが」
「・・・名門といってもピンキリなんですね」
「ああ、ピンキリだな」
的確な意見を言う正真正銘の名門の天才アルバ。そして胸をさすりながら、ついさっき
教室内で彼に自分を殴らせてしまった事をわずかに後悔した。
あの時、安易に首を縦に振らなければ、相手の性格を読み切っていれば痛い思いを
する事はなかった。
まだアバラが痛む。今より一時間ほど前、ケーンが自分の担いでいるウェイバーが
身代わりだった事に気付き(真実は大きく違うのだが彼にとってはこれが事実である)
それに怒り狂った彼がアルバにした提案が「とりあえず一発だけ殴らせろ」というもの
だったのだ。
「キンニク!」
叫びと共に右腕が目にも留まらぬ速さで尻を向けたままのエミヤを捕らえる。
「ぷげらっちょ!」
あえて油断していたの半分、つまり本気で油断していたの半分のエミヤはハエのごとく
壁に叩きつけられ、そのまま霊体化する事無くパンチの威力で破壊された壁の向こう
まで転がっていった。筋肉を代価としたそれはそれはすさまじい威力の魔術であった。
魔術といったら魔術なんだい。
「ウェイバー・ベルベーット!!」
壊された壁の穴から乗り込みエミヤには目もくれず当初の目的であるウェイバーを
発見するケーン。
パジャマ姿で驚いている彼の襟首をつかみ部屋の外に引きずり出す。
「そして、マリアンヌ・ダグラス・チャダー!!」
そして、部屋から出た直後空いた手で、もう一人のターゲットもしっかり確保。
「邪魔者を排除しつつ、目的地へのルートを確保。
これこそが頭脳明晰な一手というものだ!!」
「誰も聞いていないし、頭脳明晰な人間の行動にも見えないんですけどー」
両腕で完全にホールドされたウェイバーにできるのは口先で反撃する事だけだった。
「それではな。お前達、こいつらに用事があるのなら俺の用事が終わってから返すから
待っていろ」
かくしてついに会議室という名の処刑場へとドナドナされてしまったウェイバー。
明日はどっちだ!いや明日はあるのか!?
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最終更新:2008年04月05日 18:45