650 名前: 難易度の高い月姫 投稿日: 2005/07/29(金) 14:55:19

 ベッドの線にナイフを突き立てた。吸い込まれるように何の抵抗も無く、果物ナイフは刃元までベッドに埋もれた。そのままひび割れに沿ってナイフを動かすと、ごとんと重々しい音を残して、僕の載ったベッドは傾いた。
 ベッドは真ん中から綺麗に真っ二つになっていた。
 切り口はあまりに滑らかで、もとからこういう形なのだとしか思えないくらいだった。僕がその切り口を眺めていると、不意にドアのノブが荒々しく回され、お医者さんが入ってきた。僕が目を覚ました時に来たおじさんだった。おじさんはバインダーを抱えた格好で、僕の顔と、手に持ったナイフと、ベッドとを順に眺め回していた。みるみるうちに顔が真っ青になり、僕よりよっぽど病人のように見えた。僕がナイフを見せて笑うと、おじさんはまなじりを持ち上げて、
「何よ、これは?」と言った。
 僕は手に持ったナイフを掲げてみせた。
 おじさんは僕の前まで来ると、ナイフを手からもぎ取った。
「こんなもの持ってちゃ……だめでしょ?」
 ナイフを床に放り投げ、それから、ゆっくりと右手を持ち上げた。
「こんなこともしちゃだめでしょ!?」
 そう言って、その手を振り下ろした。僕は二つに裂かれたベッドの隙間に転げおちた。左の頬が焼け付くように痛んだ。
「うぅ……」
 僕は呻きながら転がった。おじさんは手を握りしめたまま、僕を見下ろしている。
「だめでしょ……!?」
 みぞおちにつま先がめり込んだ。僕はのけぞって、頭をベッドの半身にぶつけた。火花が散った。
「ねぇ、だめでしょ……!? こんなことしちゃだめでしょ!? だめに決まってるでしょ?」
 足、腹、頭。容赦の無い蹴りが続く。僕は身を縮こめて丸くなっていた。痛みに意識が飛びそうになり、飛んでしまえと思いながら、僕は横になっていた。ごめんなさいと口の中で繰り返していた。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 返事は足で返ってきた。
「だめ! だめでしょ!? だめなのよ! だめだって!」
 蹴りは続く。肉が焼け、骨が軋む。口の中がぐちゃぐちゃになり、赤さびの味もわからなくなった。気の遠くなるような痛みだけが体中を覆っていた。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 口はもう開けることが出来なかった。ぎしぎしと鳴る頭の中で、僕は唱えていた。
「だめええっ! だめなのっ!! こんなことっ! だめって言ってるでしょ!!」
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。

651 名前: 難易度の高い月姫 投稿日: 2005/07/29(金) 14:57:06

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最終更新:2006年09月13日 03:34