618 :Fate/testarossa ◆JtheEeHibM:2008/04/22(火) 17:20:25


 「……ふうん、見直したわリン。やるじゃない、あなたのアーチャー」

  何処にいるのか、楽しげな少女の声が響く。

 「いいわ、戻りなさいバーサーカー。
  つまらないことは初めに済まそうと思ったけど、少し予定が変わったわ」

 「――――なによ、ここまでやって逃げるつもり?」

 「ええ、気が変わったの。
  だからもう少しだけ生かしておいてあげる」

  遠坂の挑発じみた言い回しも少女は気にとめる様子はない。
  ………バーサーカーの姿が見えなくなる。
  白い少女は笑いながら、

 「じゃあね、お兄ちゃん。今度は余計なオマケなしで遊びましょ」

  そう言い残して、炎の向こうに消えていった。



 「――――――あれ」

  力が抜け、急激に意識が薄れてきた。

 「衛宮、無事か―――!?」

  駆け寄ってくる氷室に返事も出来ない。
  動かなければいけないと思っているのに、体はまったくいうことを聞いてくれない。
  抵抗しきれずに意識を手放す直前に。

 『―――――――――――』

  あの黒い剣士に対する、形にならない違和感が脳裏を掠めた。







   3日目          



                           3.Snow, Thunder, or Cloud







   ――――― Interlude ―――――


  そこは、雪深い北の森だった。
  東洋系の男と、白髪の少女が散策している。

 『           』

  弾むような少女の声。
  白い息を吐きながらも、寒さなど気にもとめないほどに楽しんでいる。

 『        』

  男も苦笑しながら返事を返す。
  はしゃぐ少女の様子を眺め、暖かいまなざしを向けている。

 『           』

  知っている限りでは、男がこのような表情を見せたことはなかった。
  常に冷徹に、人間性を排した決断を下す、誰よりも魔術師然とした人物だった。
  少女の笑顔もそうだ。
  あの屋敷、殊この森にいるときには、彼女がこのように笑っていることはまずなかった

 『           』

  ―――それで気付いてしまった。
  これは、現在の光景ではないということに。


 「…………カー。バーサーカー?」

  目蓋をあげた黒い剣士の眼前には、先程と同じ少女が立っていた。
  イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
  雪の精を思わせる少女はその実、れっきとした聖杯戦争の参加者であり、聖杯に懸けるアインツベルンの鬼札である。

 「もう、また眠ってたの? あんなに強いのにこんなところだけ人間と同じなんだから」

  からかうような少女の言葉に、バーサーカーは答えない。
  喰らい、眠り、指示をこなす。それが彼女の常だ。
  バーサーカーの沈黙は寡黙さなどではなく、会話をするように出来ていないというのが正しい。

 「むー。またボーっとしてる。
  フユキに着いたときにはあんなに興奮してたのに」

 「………………………………」

  それを知っていながらも、我が儘なマスターは口をとがらせる。
  ……確かに、空港からこの冬木の町にたどり着いたとき、この黒い剣士の胸中に曰く言い難い感情のうねりが去来したのは事実である。
  無口な彼女がそれを口にすることはなかったものの、主人はその胸中の変化をちゃんと認識していた。
  ほとんどのことに反応らしい反応を示さないサーヴァントの変化に、わずかな喜びを覚えたのもまた事実であった。
  ………もっとも。
  日本に降り立ってからこちら、一番はしゃいでいたのは主人の方だったりするのだが。

 「む~………………………」

 「……………………………」

  むくれた顔で睨みつける幼い主人。
  迫力も何もない―――ある層には別の意味で効果絶大な―――抗議が通じるわけもなく、従僕は再び目蓋を下ろす。
  この状態でも一応命令には答えるので、完全に無視している訳ではないのだが、それでも面白いものではなかった。

 「………………『セイバー』」

 「!!」

  突如として顔を上げ、少女を凝視する黒い剣士。
  もらした声の小ささに反して、返ってきた反応は大きかった。

 「やっぱりこっちには反応するのね。
  ……あのね、今回の『セイバー』はお兄ちゃんの横にいたあの女。
  今のあなたは『バーサーカー』なの。わかる?」

 「―――…………」

 「もう、仕方ないわね。この話はまた今度。今は時間が惜しいわ」

  実はねと、少女は声をひそめて近づく。

 「今から、セラに内緒で町の方まで行くの」

  壁の耳にも聞かれぬよう、こっそりと耳打ちする白い少女。
  一見まじめな表情で、しかし楽しげに語るその様子は、外見相応の無邪気さにあふれている。

 「…………………………」

  改めて、少女は瞳を覗き込んで、

 【Master Decoy】:「バーサーカーは、ちゃんと留守番してること」 子供に対するように言いつけた。
 【Sower of Temptation】:「ね、バーサーカーも一緒に行こ?」 無口な従者を、悪い遊びへと誘い出した。?





   ――――― Interlude out ―――――





 「………………う………………」


  …………ゆっくりと意識が浮上する。
  徐々に目の焦点が合ってくると、今の視界が見慣れた天井だとわかった。

 「………えっと………」

  緩慢な動作で身を起こす。
  周囲を見渡すと、わずかな私物ばかりの殺風景な部屋。
  つまりはいつもの俺の部屋だった。

  そこまで確認したところで、

 【Jinxed Ring】:「あ、やっと起きたのね」 いつもと違う奴が闖入してきた。
 【Jinxed Idol】:「………ようやく起きたか」 反射的に無視していた、赤い男が呟いた。
 【Jinxed Choker】:「………、」「…。……」 隣の部屋から、誰かの声が聞こえてきた。?


投票結果


【Master Decoy】:0
【Sower of Temptation】:5?

【Jinxed Ring】:1
【Jinxed Idol】:3
【Jinxed Choker】:5?

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最終更新:2008年06月13日 18:57