292 :もしも遠野志貴が引き篭もりだったら ◆4OkSzTyQhY:2008/03/26(水) 23:24:38
※注意!注意!!注意!!!
今回は黒猫さんがでるので、ちょっとアレな描写があります。
そういうのが苦手な人は一気にスクロールして選択肢だけ選んでください。読まなくても選べます。
でも読んでから投票すると役得とかもあると思う、ゼ。
例えば、霧が発生する瞬間を確認することは難しい。
景色を覆っている白濁を見ることはできても、景色を覆い始める瞬間は認識し難いものだ。
いつの間にか発生して、いつの間にか消える。
それは、その類のものだった。
空を眺めていた遠野志貴の視界の中心に、いつともなくそれは紛れ込んでいた。
ゆらゆらと、まるで糸の切れた凧のように、あるいは海中を進む烏賊のように。
空を漂っているそれは、奇妙な物体だった。
一応生物ではあるらしい。顔や四肢はとりあえず存在する。
体は小さい。まるで子供のよう。
だけど子供と言い切るには雰囲気が幼くなかった。
糸のように細められた目が、志貴を捕らえる。
「――……っ!?」
志貴はほとんど反射的にベンチから腰を上げていた。
あの物体はそれなりの高度を飛んでいる。それなのにはっきりと目が合うのは異常だ。
だが志貴が咄嗟に動いたのはそんな理屈からではなく、単純に背筋に走った悪寒を信じたためだった。
あの物体が、口を開く。
野太い、ダンディズムに溢れる声だった。
「ネコアルク――」
ここまでは、まるで耳元で囁く様に。
だが次の瞬間、それは凶暴に目を見開き、
「―――カオスッ!!!!!!」
己の名を叫びつつ、腰のジェットを吹かして落下した。
◇◇◇
志貴は己の勘に感謝していた。
事前に立ち上がっていたおかげで、何とかその場から飛びのくことができたからだ。
もっとも、実際は尻餅をつくようなものだったが。
なんにせよ、彼は奇跡的に無傷だった。
アレは墜落事故真っ青のスピードで突っ込んできたというのに、ほとんど破片やらなにやらを撒き散らさなかったのだ。
その墜落地点は、砂煙でぜんぜん確認することができない。
今考えるとその時点でもうお終いだったのだが。
やがて砂煙が薄まり、事故現場があらわになる。
――なんか、頭が地面に埋まって必死にばたばたしている怪生物がいた。
「うわ」
うわ、としか言いようがない。
まずこれが何なのか分からない。なにこの二頭身UMA。お前の学名は何だ。
足が短すぎてばたばたしても地面に届かない辺りが哀れみを誘っている。
――引っこ抜いたほうがいいのかな。
ぼんやりとそんなことを思うが、あまり実践する気にはなれなかった。
きっとアレの救助はムツゴロウさんでも躊躇うだろう。目の前のアレはそんな生物である。
だってホラ、関わるべきでないという証拠に、いまアレの首がにゅいーんて伸びた。
そのまま伸びた首でブリッジするように足を接地させると、UMAはズボリと地面から頭を引き抜く。
「危ない危ない。ネコミミが無ければ即死だったな……」
――ネコミミ?
おい、まさか。
そんなパーツで、お前は自分が黒い猫だと言い張るつもりか。
それは遠野志貴の心情というよりは、まるで世界の外側からの紛糾。
そしてそのネコミミはそれに答えるように、何処か遠い所に向かって叫び始めた。
「ケーキランドセル縦笛体操着無口幼女つるぺた。
彼を受け止めるには少女の体はあまりにも小さすぎた――だが男はまるで獣のように以下省略。
――さて、この位で建前は果たせたと思うかねマイブラザ?」
何処からか葉巻など取り出して銜えつつ、同意を求めるかのような視線。
その時、志貴は未だその場を離れられないでいた。
例えばアレが牙とか剥き出しで
「フハハハ貴様ら全員捕らえて生血を啜ってやる」
とか絶対悪っぽいこと言ってたら逃げる気にもなっただろう。
だが、あれは意味が分からない。方向性すらわからない。
それでも、視線を向けられて理解した。
「ママー、なにアレー?」「シッ、見ちゃいけません」という有りそうでやっぱりないやり取りの意味を理解した。
なんてことだ。
もはや慣習、様式美の類と化していたそれに込められて意味はかくも重いものだったのか。
即ち――変なものに関わっちゃいけません。
その言葉をするめを噛むように噛み締めた。ぶっちゃけ泣きそうだった。
それでも、志貴は尋ねずにはいられない。それは明らかに愚昧な動作であったが。
「お前――なんなんだ」
「質問を質問で返すなァ――!
と言いたいところであるが、ふむ。我輩も自己紹介は済ましたいところ。紳士的な意味で。
こんにちは、そしてごちそうさま。我が名はネコアルク・カオス。
ロリ分を求める諸兄への逆清涼剤かつ、
先ほど動物園と化したホテルの付近に生息していた野良猫が
上から落ちてきた貴様の不良兄貴に飲まされるはずだった混沌の雫とフュージョンしたという裏設定を持つキャット。
あまり深く考えるな。どうせ今夜限りの儚い存在よ」
フハァー、とダルそうに紫煙を吐くネコアルク・カオスとやら。
「……ああ、そう」
確かに深く考えたら負けだ。
ホテルは動物園になんてならないし、所詮ロリコンはマイノリティ。
大体、自分に兄なんて――
――ズキリと、頭の奥が痛んだ。
「っ――」
……思い、出せない。
思い出せないということは分かるのに、肝心の記憶が手繰り寄せられない。
「やめとけやめとけ。我輩が来た時点でもはや貴様はこっちの住人。
シリアス展開になど戻れぬものと知れ。
あ、でも白いほうを選んでたら清純友情ルートとか始まってたらしいゼ! やっぱGCVの方の白猫ですが。
んー今日も順調に狂ってますな、世界」
やはり意味の分からないことを垂れ流すブラックキャット。
だけどそれが絶望的なことだというのは、何故だか理解できた。
だから、遠野志貴は逃げた。全力で逃げ出した。
――いや、逃げようと、した。
「おやおや、何処へ行くのかな汝?」
肩にのしかかる重み。
志貴は嫌な感触に半泣きになりながらも、ここで泣いたら取り憑かれると気丈に振り返った。
「遠慮なんてしなくてもよいではないか。ほら暖かい紅茶とパンは無いけれど、君にはこの混沌をプレゼント!
ちなみにクーリング・オフも可。こっちもオフし返してやっけどな!」
――肩の上には、粘る黒い粘液が。
「うっわわわわわ!」
ペイペイッ、と払い落とす。
地面に落ちたそれはなんかキイキイ喚いていたが、やがて静かになった。
多分寄生して無いと数秒持たないとか、そんな謎生態系なものだったのだろう。
「むう。異文化コミュニケーションという名の侵略行為は失敗に終わったか。
志貴の馬鹿っ、やる前から諦めるなんて!」
「どっちが馬鹿だ、この化け猫!」
「むっ、カッチーン。貴様こそヒッキーの癖に生意気な。
一般人からすりゃ貴様も十分化け物だっつーのこの絶倫超人。
どうせアレだろ? 仮に期待通りに黒猫が来ても、貴様のナニでアレして白猫にする気だったんだろ?
猫にミルクとかそういうレベルじゃなくて」
「な、何をいってるのか分からないな!?」
「そんな台詞を言うのなら冷や汗は隠しておけよブラザー。
三度の飯よりアレが好き、な貴様が何をいうか。
個人の趣味は自由だというが、刑法とソフ論には触れぬようにするのがジャスティス。
目を見て話せよ。おい。
が、我輩はマイノリティにも理解が有る。
再犯しないと拇印捺して誓うのなら見逃してやろう。
選べよ、犯罪者」
「くそぅ……! 俺は引き篭もりだったことを今ほど後悔したことはない……!
語彙が少なくて言い負けそうじゃないか!」
「いいね! 貴様もなかなかどうしてこっち色に染まってきたじゃないか。素敵!
じゃ、そろそろ終幕と行こうか」
すでにご馳走様は言い終えてるしな、とネコアルク・カオス。
「え――?」
「ふふん、考えてみろ。何で魔眼殺しを持たない貴様が我輩と話せてる? 頭痛も吐き気も無しで。
ていうか――たかが人間がジェットをかわせるわけ無いじゃん」
「え、ちょ、ま」
なんか、無茶苦茶言ってる。
一応まともなこといってるっぽいけどさ、それをいうお前は無茶苦茶の固まりじゃん。ていうかカオスじゃん。
今までの展開、全部丸投げしやがった。
だがその抗議文を提出する間も無く。
というか、本来はあらゆる時間が許されていなかったのだが。
「そゆことそゆこと、汝はもう我が腹の中。
――ここが貴様の終着だ。なんちて」
慌てて周囲を見渡して――遠野志貴は、絶望した。
どうしていままで気づかなかったのか。
茂みの中。ジャングルジムの上、滑り台の影、水飲み場、自販機のつり銭口。
あらゆる場所に――無数の、黒猫が。
「あ、あ――」
「I am the bone of my cat――体は猫で出来ている。
猫王の巣、流法(モード)無限肉球……! お気に召したかね?」
――分かりきったことを語る必要は無い。
遠野志貴は死ぬにしろ死なないにしろ、もはやまともな人生には復帰できないだろう。
BADEND NO.2 『それなんてカオス?』
投票結果
最終更新:2008年08月19日 02:58