382 :はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU:2008/04/02(水) 21:36:25


石を重う:「「カっ、カレイドルビー!!!!」」






 ~interlude in~

 夜の校舎は、さながら異次元のようだった。
 音は無く、色は無く、人は亡く。

 まるで、世界に忘れ去られたかのような、切り穿たれた箱庭。

 ――――否。

 音ならば有った。獣のような息遣いが。
 色ならば有った。影絵のような月光が。
 人ならば在った。陽炎のような■■が。

「――――…………。」

 風が僅かに世界を揺らして。




 銀閃が、胸に吸い込まれた。

 ~interlude out~


 カツン……。

 暗く静かな室内に、硬質の音――――靴音のようにも聞こえる――――が入りこむ。室内にいた人影は、はっ、と息を呑んだ。

 カツン……。

 尚も続く靴音。それは徐々に大きくなっていった。
 ごくり、と。唾を呑む。よもやその音で気付かれはしないかと、人影はより一層身を固くした。汗が滲《にじ》んだ手を握り合わせ、信じてもいない神に祈る。どうか、どうかと。

 ――――カツン。

 靴音が。部屋の前で。止まる。
 心臓が飛び出さんばかりに早鐘を打つ。まさか、まさか。まさかまさか真逆真逆真逆魔盛――――。
 がらり、と戸が開いた。
 ひぃ、と喉が鳴る。

「――――よう、クソガ……間桐。言われた通り見回りしてきたぜ」

 と、ここでネタばらし。人影はクソガキで、靴音させてたのは俺。ちなみにここは夜の学校で、クソガキの隣にはライダーさんがいる。

「おおおおおおま、乾! 戻ってくる時は霊体化して来いって、いい言っただろ!?」
「あ? そうだったか? 悪ぃ悪ぃ」
「絶対わざとだろ!?」

 はい、わざとです。

「変な夢を見た後だったし……ああもう気味が悪い! さっさと終わらせて帰……!」
「それで、見回りの成果はどうだったのですか?」

 なおも喚き続けるクソガキを無視して、ライダーさんは語りかけてくる。

「ああ、校舎内に人はいなかったぜ」
「そうですか。それではマスター、早速始めます」

 ライダーさんはクソガキの返事も聞かずに作業を始めた。具体的には、天井に張りついて奇妙な図形を書いている。

「……で、だ。そろそろ何をやってるのか、説明してくれるか?」

 夜に出かけると言ったクソガキの言葉通り、俺達は夜の街へと繰り出していた。また『魔力集め』でもするのかと思いきや、繁華街とは逆の道を歩き、着いた先はクソガキが通う学園だった。
 まずやったのは、弓道場に忍び込むこと。そこでもライダーさんは、壁に張りつくようにして『何か』をしていた。
 それが終わると、今度は校舎内に忍び込み、念のため人がいるかどうかの見回りをさせられた。まあ、さっきも言った通り無人だったんだが。

「何でそんなことを、僕がわざわざ話してやらなきゃならないんだ。大体、お前元英雄《サーヴァント》だろ? アレを見て分からないのか?」

 クソガキが目で差した、奇妙な図形を見上げる。が。

(――――全然分かんねぇ)

 丸やら三角やらがウネウネと蠢き、血のような赤色で発光している。それ以外は全くもって理解不能。

「――――マスター、それは不可能かと思われます」
「わひぁっ!?」

 わざわざ気配を消し、クソガキの背後から声をかけるライダーさん。グッジョブ。

「お前わざt……!」
「私の魔術は神代まで遡るものです。さらに言うならば、若干私の独自性《オリジナル》が入っています。
 これを読み解けるのは、私と時代を共にした者か――――卓越した魔術師のみでしょう」

 しかしクソガキの怒りは、続くライダーさんの言葉に押し止められる。

「そ、そうか……そうだよな、ふ、ふふははは! おい乾、あれが分かるか? 何をしてるか分かるか? 分からないだろ? 僕には分かる。分かるんだ! 分かるんだぞ!? あっははっはははっ!!」

 分かる、分かる、と狂ったように繰り返す。何とも言えない目でそれを見やる。

「マスター。起点をもう二つほど設置したいのですが」
「うん? ……そうだな、基点の数は多い方が良いよな。でもあまり一つ所に固めるのはマズイ。上に行くぞ」
「その慧眼、さすがですマスター」
「はっ、当たり前だろ。何てったって、僕は名門間桐の嫡子何だからな!」

 そう言って意気揚揚と、ハードカバーの本を振り回しながら歩いていく。
 ここで突っ立ってると、クソガキにどやされるんだろうな。さっさと追いかけるか。
 歩きだそうとして、ライダーさんがこちらを見据えているのを感じ、向き直る。眼帯で分かりにくいが、何やら俺の顔をまじまじと見ていた。

「アーチャー。貴方は魔術に疎いですね?」
「ああ。魔術のまの字も知らねぇ」

 隠しているメリットは無いので、素直に答える。むしろ、女性からの質問に対して濁すのは、俺の流儀に反する。
 ライダーさんは目を見開き(多分)さらに質問を重ねる。

「では、霊体化したり、宝具を出したり、魔力を摂取したりする時は、どうしているのですか?」
「うーん……何となく?」
 これまた正直に答える。

「根性と言うか本能と言うか……イメージすると何となくそうなる、みたいな?

「……呆れた。そんな状態でよくもまあ」

 彼女はため息を一つつき。

「そのままでは、いざという時に困りますよ」
「そうだよなー誰かが教えてくれたりしないかなー」
「……もしかしなくても。私、ですか」
「さすがライダーさん。話が早い!」
「承諾した覚えはありません」

 にべもなく断られる。

「……まあ、戦力増強という面では好都合でしょう。考えておきます」

 と思いきや、それとなくOKをほのめかされた。

「おおっ! マジっすか! 『手取り足取り腰取って』でお願いします!」
「良いでしょう。その場合血液を七ガロンほど頂きますが」
「……俺死んじゃうー!?」
「冗談ですよ」

 冗談に聞こえない声音で冗談を言わんといてください。
 ちなみに、一ガロンは四リットルぐらいに相当する。

「それと。今の話、シンジにはしない方が得策です」
「シンジ? ……クソガキか。で、どの話のこと?」

 普段はクソガキか間桐で通してるから、誰のことか一瞬分からなかった。

「魔術を特に意識することなく使える、という話です。
 シンジの魔術回路は潰れている、というお話は先日しましたね? 魔術師の家に生まれて、魔術が使えないというのはシンジにとって相当なコンプレックスとなっています。下手に刺激すると後ろを犯されます」
「後……!?」

 予想だにしない一言に、思わず吹き出す。
 彼女は気持ち顔を俯かせて呟く。

「……とても……屈辱、でした」
「何て言うか……うん、生きてりゃ良いことあるよ! 心配すんな! 俺気をつけるから!」
「そうしてください。あんな思いをするのは、私一人で十分ですから」
「うえぇえぇ!? ライダーさん、さっきから俺の心配してたの!? 俺のお尻の心配してたんだ!」
「冗談ですよ」
「天丼!?」

 だから冗談に聞こえない声音でと小一時間(略)。
 ……何か、ライダーさんのキャラが分からなくなってきた。

「――――おい! 二人とも何やってるんだ! 僕一人じゃ淋し……じゃなくて、意味無いだろうが! さっさと上がってこいよこのウスノロ!!
 いや、乾! お前は来なくていい。外の見張りでもしてろ!」

 ライダーさんとまったりしていると、上階からクソガキが怒鳴ってきた。
 俺達はやれやれ、と肩をすくめ首を振りため息を吐いた。

「マスター様様からの有り難い命令だ。さっさと行こうか」
「そうですね。アーチャーの貞操のためにも」
「まだ引っ張るの!? 皆お尻ネタ好きだな!!」

 彼女は最後に流し目(多分)を残して、クソガキの元へと歩いていった。――――なるべくゆっくりと。
 一人取り残された俺は、夜を吸い込み、首をぐるりと回しながら吐き出した。
 そして、ゆっくりと目を瞑る。擬似的な漆黒の中、まるで死神のように浮かぶ影が一つ。
 ゆらりゆらりと。月影に散らされる陽炎のように、その姿は闇に溶け、浮かび、弾ける。
 影は現われる度に、色を持ち、質量を持ち、表情を持つ。

『よう、■■』

 笑い声に俺は目を開く。薄青い廊下、夜の月。独りぼっちの俺。
 もう呼ばれることはない呼称を鼓膜に残し、両頬を張って気持ちを切り替える。

「さて、俺も命令をこなしますかねぇ」

 その顔に浮かぶのは、皮肉に歪んだ笑み。昔は、もっとキレイに笑えていたのに。
 霊体化し、視界が3D線画のようなものに切り替える。その物質への干渉力が下がった状態で、壁に向かう。
 壁と手が重なり、すぅっ……と潜り込む。そのまま腕、肩、足、体、頭と通していく。
 体が異物を通り抜ける――――あるいは異物が体を通り抜ける感覚に、慣れ始めたとは言え、悪寒が走る。
(――――もし。この状態で実体化したら……?)

 馬鹿な考えを、壁の向こうに置き去りにし、一気に抜ける。
 ――――浮遊感。
 二階の壁を通り抜けたことにより、重力の網に絡め取られて地に落ちる。

   、 !!

 足のバネを最大限に使って、音も無くグラウンドに着地する。まあ、霊体化しているから音のたてようが無いんだが。
 便利だよなー霊体化。
 女湯をノゾ……いや、一般人に見つからないところとか。
 女湯をノゾ……いや、壁抜けできるところとか。
 女湯をノゾ……いや、魔力の消費がかなり抑えられるところとか。

(――――うん。疾しい事には使ってマセンヨ? 俺綺麗な乾今後ともよろしくでちゅ!)

 学校という土地柄のせいか、さっきから学生時代に退行している俺、乾 有彦(この物語に登場する人物は)十八歳以上!


「お、お前は!?」


 ――――何て。ふざけていると。どこかで聞いたことのあるような、誰何《すいか》が聞こえた。
 思考を再構築。なぜ気付かれた? サーヴァント? 魔術師? 勘の良い一般人? ともかく相手を捕捉してから……!
 最大警戒のまま、声が聞こえた方へ一気に振り返る!!

 べしゃ。

 校門に近いグラウンド。そこに立っていた人物を見て、思わず振り返った勢いのまま地面にこける。

「「カっ、カレイドルビー!!!!」」

 校門の外側から、男女の声がハモって響く。
 そう。そこに立っていたのは。機能性の欠片もないフリフリでキラキラな衣装に身を包んだ凛ちゃん――――カレイドルビーその人であった。
 あー。やっぱりあの時、キャスターを捨てるんじゃなかったなー。

「って遠坂じゃねぇか!? 思わず衛宮とハモっちまったけど!」

 一秒で正体が看破された。

「いいえ、私は遠坂 凛何ていう容姿端麗頭脳明晰大胆不敵素敵に元気なクールビューティーの女の子じゃないわ!
 愛《ラヴ》と勇気《パワー》の使者、ラヴリーチャーミングなあんちくしょう、その名もカレイドルビー!!」

 ビシィッ! と。どこかで見たことがある、ピースサインを目に当てるポーズを決める凛ちゃん。

「時に緩く! 月よりも密やかに! 世界中の全ての悪にスモーキングな真っさらな平和を!」
「次回、魔法少女カレイドルビー! 『国家権力との癒着』にスカーレット・スカッド発射!! です!」
「な、何だよそれ!? 腹話術か!!?」

 ぴこぴこと自己主張するステッキ(キャスター)に、ビビる少女。

「はぁい、士郎! プリズムメイクは足りてるかしら?」
「し、しししし『士郎』だとォーーー!? 手前衛宮! いつから? どうやって付き合いだしたんだ? 薬か調教かドラッグか!? チクショウその薬を私にも寄越せー!!」
「い、いや、俺とカレイドルビーさんは付き合ってるわけじゃ……!」
「そうですねー。強いて言うなら(仕事上だけの関係)ビジネスライクなパートナーですねー」

 さり気にひどいこと言ってる!?

「さて、お喋りはここまでにしましょうか。
 私がここに来たのは他でもないわ。ここに、悪がいるからよ!!
 ――――さあ、観念して出てきなさい! 諸悪の元凶『ゲバッケネトプフェントルテ』!!!」

 ビシィッ! と。無駄なアクションを織り交ぜて指差した先は、案の定と言うべきか、俺だった。

(ここは出るしかないのかなぁ)

 しょうがないので、霊体化を解除して姿を現わす。

「うおっ!? て、手前どっから現われやがった? テ○コーか!?」

 あ。そう言えば凛ちゃん以外にも人がいたんだっけか。しかも一般人っぽい。どうしよう。
 視線を校門の外にやると、声を上げたらしい少女――――黒の短髪、強気な瞳、無駄のない体付き――――と、

「アンタ、この間の……!」

 見覚えのある、目の強さが印象的な少年がいた。

「よう少年、また会ったな」
「アンタ、氷室達に何をした!?」

 俺の姿を見て取った途端。少年は今にも飛び掛からんばかりに食って掛かる。

「いや、俺はただ――――」
「もちろん、あいつが襲ったのよ!」

 こちらの言い訳を遮って、凜ちゃんはステッキ(キャスター)をぶん回しながら力説する。

「あいつはね、か弱い婦女子を襲って、食べようとしたのよ!」

 言ってることは正しいけど、その言い方だと性犯罪チック!?

「そう。由紀香達が入院しているのも、私と戦ってたのも、私の懐が寂しいのも、地球温暖化も、私の家計が苦しいのも、みんなあいつの所為なのよ!!」
「いやいやいや、半分以上俺の所為じゃないよね!?」
「でも由紀香達を襲ったわよね?」
「いやまあそれは否定できないけれども」
「じゃあ悪よ!!!!」
「じゃあ悪だな!!!」

 凛ちゃんと少年は重心を落とし、いつでも動きだせるように身構えた。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待とうぜ! いきなり超展開かよ? 話せば分かるから! 『話せば分かる』って言って話し合う奴が少ないのは分かってるけどとにかく待てって!!」

 必死の説得に対し、返ってくる言葉は一言。

「悪・即・滅!」

 会話になってない!?

 やるしかないのかー!?



   【選択肢】

どうしてもやると言うのなら:「魔法の《マジカル・》――――」凛ちゃんがキャスターを振りかざした!
俺はお前を:「話って何だ?」少年が構えを解いた。
ウッディ!!!!:「ちぇすとー!!」少女が突っ込んできた!??


投票結果


どうしてもやると言うのなら:2
俺はお前を:0
ウッディ!!!!:5?

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最終更新:2008年08月19日 03:31