279 名前: 衛宮士郎/ライダールート 投稿日: 2004/11/03(水) 17:25

片手を突き出して、咄嗟に彼女の名を呼んだ。
そのときこの身を支配していたのは、何と呼ぶ感情だったか。
怒りなのか。心配なのか。後悔なのか。焦りなのか。悲哀なのか。慄然なのか。
ライダーを助けようとしたのか、助けたかったのか、俺に何が出来るのか、出来たのか。
判らない。
判ろうとすることもできない。いや、したくない。


「————————」

だん、だん。ごろん、と。
大きな弧を描いて飛び、舞い、落ち。俺の足元まで転がってきたのは、ライダーの頭部——いや、先ほどまで
ライダーだったものの、一部。

「————————」

僅か数時間の付き合いの中で、幾度と無く脳裏に焼き付けられた、端正で流麗な顔。
先ほどまでは溢れんばかりの焦燥に彩られていたその顔には、今は何の表情も無い。無表情で、無機質。

「————————」

かつてさらさらと流れ、惚れ惚れするほど美しく輝いていた長髪は、丁度首のところの長さでばっさりと切断
されて。血に濡れて。肉片にまみれて、綺麗な薄紫色は穢れてしまっていた。

「—————————」

己の顔が引き攣っているのが理解る。
筋肉が硬直しているのが理解る。
だから、ライダーに声をかけたいのに、口が動いてくれない。
咆哮とともに大剣がライダー目掛けて振るわれるのを、俺は何も出来ず見ている事しか出来なかった。
殺されると、判っていながら、何も。
だから、せめて短い間だったけどありがとう、とか、さようなら、とか。それよりももっと気の利いた台詞の
一つでも吐かないといけないのに、恐怖や後悔や絶望に染まった体も、顔も、口も、頭も。何も動かない。働
かない。機能しない。させない。俺に、そんなことをする権利は無い。恐怖——か、どうかは判らないけれど、
とにかく、その瞬間、ライダーを助けられなかった俺に、そんなことをして良いはずがない。


————それに、もう。


「————ア、」

俺の頭蓋にめり込んでくる、頭蓋より大きな、鏃。


————俺はもうすぐ、ライダーとは反対に。


「————、 ————」

顔、の左半分が、抉られた。
その、半分だけに、なった、視界、と、思考。
最、後に、見たのは、消えてい、く、ライダー、の、あ

「————————っ」


————頭部を潰されて、胴体だけになって



ま 

むけ 

ごめ 

な 


————死ぬの、だから









衛宮士郎/ライダールート BAD END

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最終更新:2006年09月03日 19:35