117 名前: 766 ◆6XM97QofVQ 投稿日: 2006/08/19(土) 21:37:11

「こんなところで、寒くなかったのか?」

 純粋な疑問。

「え? 寒いに決まってるじゃない。わたし、寒いの苦手だもん」

 そして、予想通りの返答をしてくれる女の子。
 そりゃそうだ。冬木の冬は暖かいと言っても、さすがに夜ともなれば肌寒い。そして長時間も外にいたのなら、体はすぐに冷えてしまう。
 俺だって少しの間ここにいただけなのに、もう肌寒く感じてきているのだ。
 もっと前からここにいるらしい目の前の少女の体は、とても冷え切っていることだろう。

「でも、我慢できないほどじゃないかな」
「そんな強がり言うな———ちょっと待ってろよ、すぐ戻る」

 そう言って辺りを見渡して駆け出す俺を、少女は不思議そうに見つめていた。


 ———目当てのものはすぐに見つかった。

 少しだけ走ったが、往復で掛かった時間が一分弱というのは上出来な部類に入るだろう。
 用を済ませて戻ってきた俺を見ると、少女は頬を膨らませて抗議してくる。

「レディを置いてどこに行ってたの? それ相応の理由じゃないと、わたし怒るんだからね!」
「———ああ、悪い悪い。これを買ってきたんだ。だって、寒いんだろ?」

 そう言って俺が差し出したのは、あったかい紅茶の缶。
 俺が買ってきたのはそれとホットお汁粉のふたつ。二択だったのだが、外国の人だしさすがにホットお汁粉は渡せない。
 冷えた手を暖めるのにホットの缶は重宝する。顔に当てるのも効果的だ。すぐに温まる。

 きょとん、とした顔で缶を受け取った少女は、すぐに顔をほころばせて、暖かいそれを大事そうに握り締めた。
 大分寒かったのだろう。
 女の子の喜ぶ顔を見て、俺も彼女が喜んでくれて良かったと嬉しくなる。

「ありがとう、お兄ちゃん!」
「いや、別にいいよ」

 寒いのを我慢させてまで待たせてしまったのは俺なのだ。ならば、これぐらいのことをするのは当然だろう。
 ———そしてふと、こんなところで立ち話をしているよりも、よっぽどいいことを思い付いた。

「……なあ、俺の家で暖まっていかないか? なんか俺が待たせちゃったみたいだし、もてなしぐらいはするけど」
「——————え?」

 驚いた声を上げて俺を見る女の子。
 ……何だろう、その意外なものを見たという目は。
 単純な好意で誘ってみたのだが、さすがにそんな顔をされると戸惑うというかなんというか。

「イヤなら良いんだ。うん、変な事言って悪かった」
「え、ううん! 全然イヤじゃないよ! イヤじゃないんだけど……でも、もう帰らなきゃ」

 沈んだ表情でいう少女だが、理由はそれだけではなさそうだ。……何やら事情があるらしい。

「そっか、それじゃあまたな。えっと……?」

 あれ、名前はなんだったっけ?
 ……そういえば、あれだけ親しげに話していたというのに、まだ名前も聞いていなかった。
 そんな俺の様子に気付いたのか、少女は思い出したように名前を教えてくれる。

「わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだよ。それで、お兄ちゃんの名前は?」
「衛宮士郎。士郎でいいよ」
「シロウ、か。分かった! また会おうねシロウ!」

 タン、と弾むようなステップで走り去るイリヤ。
 その後ろ姿を見送っていると、急にイリヤが立ち止まる。

「そうそう。忘れてた」

 彼女はそのまま振り返ると、坂の下から見上げるようにして俺を見つめて———


「次に会うときは敵だからね。———早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」


 ———最後に、不吉な言葉を残していった。


 し.次の日。いつもどおりに学校へ!
 ろ.次の日。学校はサボりでござる。
 う.interlude — the Sixth Master — (次の選択肢へ)

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最終更新:2006年09月14日 17:10