833 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [選択肢がRPGのコマンドみたいだsage] 投稿日: 2006/09/19(火) 22:23:00


「雛苺……!?」

 プレゼントボックスの中には、雛苺の姿があった。
 どこか夢見心地のような瞳で、うっとりとしている。
 そして、その傍らには……!

「う……」

「氷室っ!!」

 それは一体どのような奇術か。
 氷室は雛苺の傍、まるで寄り添うように立っていた……もとい、『立たされていた』。
 床から伸びた縄が、氷室の身体を拘束しているのだ。
 いや、あれは縄ではなくて……。

「茨……!?」

 それは茨だった。
 足元から生えて、ソックスの上から這い昇る茨。
 スカートの中から、外から、下半身を絡め取る茨。
 腰には二重三重に巻きついて固定する茨。
 両腕は無理矢理持ち上げられ、歪な水平を保つ茨。 
 うなだれた頭に巻きついたそれは茨の冠。

 その姿はまるで、無理やり起き上がらせた操り人形のようだった。

 更に驚くべきことに、氷室の足元はつま先がかろうじて床に接しているに過ぎない。
 恐らく茨自体の力で、人一人分の体重を支えきっているのだろう。
 普通の植物としての茨からは想像できない、目を疑いたくなるような光景だった。

「氷室! 大丈夫か!?」

「……っ、ここは一体……痛っ」

 俺の呼びかけが届いたのか、氷室が身じろぎした。
 だが、無理に動けば傷つくのだろうか、棘の痛みに顔をしかめたようだ。
 そんな氷室に、ゆっくりと歩み寄る雛苺。

「鐘……」

「雛苺……?」

「鐘……これで、ずっと一緒だから」

 動けないままの氷室にぎゅっと抱きつく雛苺。
 驚いたことに、雛苺が触れる場所だけ、避けるように茨が動いていく。
 茨は、雛苺の意のままに動いている……?

 ふと、水銀燈と出会った日の事を思い出す。
 あの時水銀燈は、自らの羽根を自在に操って俺に攻撃を仕掛けてきた。
 同じような力が雛苺にも備わっているのかもしれない。
 そして、この世界にやってくる前に雛苺が見せた魔力。
 まさか、この状況は全て、雛苺の力によるものなのか……!?

「雛苺! 氷室を放すんだ!」

「え……?」

 考えるより先に言葉が口をついて出た。
 俺の大声に反応して、雛苺がびくっと身体を震わせる。
 そして恐る恐る振り向くと、プレゼントの山のふもとに駆け寄った俺の姿を見て、驚きに眼を見開いた。

「ど、どうしてあなたがここにいるの?」

 どうやら、俺がこの世界に巻き込まれたのは予想外のことだったようだ。
 咄嗟に氷室の腕を掴んでいたのは不幸中の幸いだったか。

「氷室を放してくれ!
 この世界は、お前が作ったものなんだろう!?」

834 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/09/19(火) 22:24:53


「なんだと……? 雛苺、本当か?」

 氷室が驚いたように、雛苺へ視線を送る。
 雛苺はその視線から逃げるように、顔を俯かせた。

「だって、だって……鐘が、雛苺を置いて行っちゃうから」

「……雛苺、それは違う。
 私が今日、出掛けたのはたまたまだ。
 お前を置いていこうとしたわけじゃない」

 氷室が雛苺を優しくなだめる。
 今までのやり取りから、雛苺の感情はその見た目どおりかなり子供なことがわかった。
 あまりきつい言い方では、かえって逆効果になるという打算もあるのだろう。
 もちろんそれ以上に、真摯に誤解を解こうとする姿勢ゆえである事は言うまでも無い。

「雛苺が望むなら、私はずっと傍にいる。
 だから、この茨を解いてくれないか」

「…………」

 氷室の言葉に、雛苺は俯いたまま、ゆっくりと茨に指を添える。
 よかった、これで丸く収まるか……と、甘い考えがよぎった刹那。


「……でも、鐘は今日、その人間と一緒にいたのよ」


 俯いたまま、静かな声で。
 だが、確かな冷たい感情を込めて。
 雛苺の魔力が再び解き放たれた。

「ぐっ、あ……!」

 氷室が苦痛の声を洩らす。
 傍目から見てもわかるほど、茨が太く、強く氷室を束縛している。
 魔力を与えて、茨をより強化したのか……!?

「Non……!
 あなたがいると、鐘は雛苺を置いていっちゃうのよ!」

 そう叫ぶが早いか、雛苺は両手を振りかざして俺を見下ろした。
 同時に周囲のプレゼントボックスが、一斉にリボンを解いて口を開いた。
 中から現れたのは、無数のヌイグルミ。
 それらが全て雛苺の周囲を漂いながら、俺に狙いをつけている……!?

「待ってくれ、俺はそんな……!」

「イヤ、イヤぁ!
 もう、独りで置いていかれるのはイヤなのぉ!」

 ダメだ、取り付く島も無い!
 雛苺は目を瞑り頭を振って、俺の言葉を拒絶した。

「Personne obstructive!
 あなたなんて、いなくなっちゃえ!!」

 勢いよく振り下ろされた腕が号令となって、ヌイグルミが俺を押しつぶさんと殺到した……!!


α:逃げる――脚を『強化』して後ろに跳ぶ!
β:防御――干将莫耶を『投影』、攻撃を捌く!
γ:攻撃――強引に前進して雛苺を取り押さえる!

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年09月20日 03:10