401 名前: 白と赤 ◆ANW.KzCbpw 投稿日: 2006/10/02(月) 00:18:14
Mind__Interlude エミヤ
町外れの森。
来る者を拒むどころか、もし入ってきたら二度と帰れない。そんな気持ちになってくるような深い森の中に、それ以上の不気味さと荘厳さを併せ持った城がある。その上に私は立っていた。
闇と静寂が支配する森の中、警戒の為に見張っていた筈なのだが、私の瞳は見えもしない、ほとんど憶えてさえもいない我が家を見ていた。
その家の主、昼に会った少年。私の過去。
衛宮士郎。
その少年を見た瞬間、擦り切れた筈の生前の記憶が疼いた。
しかし、やはり何かが足りない。私が何故聖杯戦争などに参加したか。
——何故だ。
死した今でも私を突き動かす理想か。いや、万能の聖杯といえど全能ではない、この願いは叶わない。
それとも何か? セイバーに会いたかったとでも言うのか。それこそありえない。こんな掃除屋などになったこの身を彼女にだけは知られたくない。
では何だというのか。オレは■■■■を■す為にこんなものに参加したのでは——
————ガリッ、と思い出しかけた何かが削られた。
ああ、そういうことか。
多分この問いの答えは求められない。推論だが、世界か聖杯。そのどちらかに削除されたと考えるのが妥当だろう。
世界が削除した場合。その記憶は抑止のシステムに害をなす、そんな物だろう。
聖杯が削除した場合。この『バーサーカー』としての性質上不要であったのか。
確かに私は『バーサーカー』にしては理性へ掛かる圧力も少なく、生前とほとんど同じ技を使うことが出来るだろう。まあ、かわりに能力のランクもあまり上がらなかったが。
やはり、この『バーサーカー』になるためにその記憶を消されたと考えるのが妥当か。もしかしたら両方の理由により消えたのかもしれないが。
まあいい。あまり面白くないが、行動に支障はない。理由などどうでもいいではないか。理由がないなら造ればいい。
自身のマスター。銀色の髪をした少女。まだ思い出せないが、彼女は大切な人だと脳内で何かが叫んでいる。彼女に勝利を献上しよう。
私のことを弱いと思っているようだから、まずその考えを改めて貰わなければなるまい。彼女が最強のサーヴァントを呼ぼうとして、この私が召喚されたのだ。ならばこの私が最強でないわけがない。
目標もなく彷徨っていた自分に僅かな光が差した。それが仮初の光だとわかっているが、何よりも換えがたいものである。
なに、仮初でも構わないではないか。そんなことを言えば自分はなんだというのだ。
笑う。哂う。嗤う。顔を歪め自嘲する。
そうだ、仮初だ。偽者だ。借物だ。そんな自分にどんな意味が——
————ガリッ、と再び何かを忘れた。
先程の自嘲の笑みは消え。元の鋼の相貌に戻る。
チッ——何を考えていたかも忘れてしまった。
しかし、少しだけこびり付いた物がある。
それは——
雪:自分の主。イリヤスフィールは大切な誰かだった気がする。
闇:ただ、自分の自嘲の声が頭に残っている。
最終更新:2006年10月16日 23:36