436 名前: ひとりぼっちの聖杯戦争 ◆IkOakw2geY [sage 時に弟者、完結させるって約束したら連載二本かかえてもOK?] 投稿日: 2006/10/29(日) 10:42:52
一、俺がもう一度遠坂を殺す。
憶えている。
遠坂凛という一人の少女を。
「おまえは、誰だ?」
「……衛宮君?」
遠坂に似たナニカは彼女によく似た顔でさえずる。声もとてもそっくりで、だからこそ浮き彫りになる違いが許せない。
イライラする。遠坂凛の誇りが、遠坂凛の生き抜いた人生が馬鹿にされている。あいつはあんなにも一生懸命で、駆け抜けた姿はとても綺麗だったというのに。
「下手な芝居はやめるんだ。お前は遠坂とは似ても似つかない」
「もう、どうしたのよ士郎。わたしはわたしよ、遠坂凛。士郎、忘れちゃったの?」
彼女は少し寂しそうに目を伏せた後、くすりと笑って、目を細めた。嬉しそうに、楽しそうに、ほんの少しだけ艶やかに、目の前のナニカはすり寄ってくる。
「あいつは絶対にそんな笑い方はしない。そんな優しい雰囲気は纏わない。そしてなにより、そんな楽しそうな仕種はしないんだ」
「……………………」
「お前は、知らないのか。あいつはな、もうとっくに決心してしまったんだ。魔術師として。冷酷で人でなしな生き物として生きようと」
一瞬だが、遠坂を騙るナニカの表情が歪んだ。仮面の下に、酷く、イビツで壊れた笑顔が見えた気がする。
「だからこそな、彼女はずっと悩んでいたんだ。苦しんでいたんだ。自分の外内面と外綿のギャップにな。……当たり前さ。なんだかんだいってあいつは、その実どこにでもいる普通の女の子だったんだから」
それでも、遠坂は絶対に弱音を吐かなかった。苦しみを表にださなかった。意地を張って、猫をかぶって。何でもないって顔で、当たり前のように前に進んでいったんだ。
「……正直、羨ましかった。俺は、ほら、とっくに壊れていたみたいだからさ。あいつのそんな泥臭い人間らしさとか、それなのに馬鹿みたいに意志が強いところとか。そばで見てて、格好いいって思ったんだ。駄々っ子みたいに依怙地になって颯爽と突き進んでいったんだから」
本当に遠坂は強かった。一度ぐらい泣いてもよかったのに。弱音の一つぐらいこぼしても罰なんてあたらなかっただろうに。遠坂はどう変わっても遠坂で、呆れるくらい眩しかった。
―――そんな彼女を、俺は裏切ったんだ。だからせめて、あいつの守ったつまらない意地ぐらいは、最後まで守り通してやらないと。
「お前はそれを侮辱した。彼女の歩んだ道程を。遠坂が秘めていた決心を。だからさ、もうやめてくれ。おまえがその姿のままでいるのなら、俺はおまえを殺さなきゃいけない」
俺がそう告げると、今度こそコイツは、おぞましいぐらいの笑みで破顔した。
「残念ね、衛宮士郎。あなたがそこまで壊れていたなんて。私の舞台に人形の居場所はないの。消え去りなさい、不出来なガラクタ」
夜風に、血の嫌な臭いがこびり付いている。強すぎる月影が目に痛い。都会の夜空はとても明るくて、見上げても星なんて見えやしない。
「フフ……フフフフ…………、ふふっ、なんだ……、そうだったの…………」
さっきまで遠坂の形をしていたものが笑っている。穴の空いた肺で、切り裂かれた喉で。幾重もの件に貫かれハリネズミになったその姿で。
「悪くないわ。悪くない展開よ衛宮士郎。いずれ魔法の欠片に届きかねないこの躯も上物だったけど―――」
スイッチが切り替わった。明らかに人でないものの気配がする。辺り全体に充満する甘ったるい匂い。このとき、この場所は明らかに異界に変じた。
「衛宮士郎。オマエは壊れてなんかいない。コワレタふりをしているだけだ! フフッ、アハハハハハハッ―――! 素晴らしい。素晴らしいスバらしイスばラシイ―――! お前の恐怖は、お前の在り方はスバラシイ! お前に決めた。お前こそ適任だ。お前になれば、お前の恐怖をもとにすれば、私はかつてないワタシになれる!」
結局、どんな事件だったのだろうか。現れた片鱗はそう喚いてそれっきりで、遠坂の幻は塵に帰るかのように姿を消した。
街の違和感は拭われない。ざわめきが胸を襲っている。どうしようか。あいつとの戦いで大分消耗してしまったけど―――。
一、もう少し新都を調べてみる。
二、深山の方をまわってみる。
三、家に帰って休む。
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最終更新:2006年10月29日 15:07