572 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/03(金) 23:28:03


「ま、まあ私には関係ないけどぉ?
 人間同士の惚れた腫れたなんて、ホントに馬鹿馬鹿しいしぃ」

 腕を組み、ふっと目を逸らす水銀燈。
 その表情は固く、何かを堪えているのが手に取るようにわかる。
 私は、その表情を、知っているような気がした。

――貴女がどういうつもりでここへやってきたのか、なんて、興味無いけど。
――士郎は私の下僕よ。貴女にあげるつもりは無いわぁ。

 ……ふと、水銀燈と初めて出会ったときのことを思い出した。
 あの時の言動と今の言動は、明らかに矛盾している。
 あの言葉が彼女の本心なのだとしたら、今の彼女は……。

「水銀燈、君は……」

 衛宮の事が、すきなのか。
 そのすきは、ドールとミーディアムの関係から来るものなのか、それとも……私と同じようなものなのか。
 ……それは聞いても仕方のないことだろう。
 たとえ水銀燈がなんと答えようとも、私にしてやれることなど無いに等しい。
 だというのに、私はそれを尋ね掛け……。

「っはよー!!
 今日は桜ちゃんのご飯当番だと聞いて歩いてきました!!
 ってなんじゃこのストロベリー空間はー!?」

 ……突如居間に乱入してきた、藤村先生によって遮られた。
 タイミングがいいと言うべきか、悪いと言うべきか……。
 藤村先生は私と衛宮の姿を見るなり、0.1秒でその表情を一変させた。

「ふ、藤ねえ……」

「士郎ー!!
 一晩開けたら性懲りも無く氷室さんを侍らせてるとは何事かー!?
 なに、昨日の弁明は一夜限りの泡沫の夢だったとでも言うわけ?!」

 がー、と全力全開。
 糾弾されているのは衛宮であるはずなのに、隣にいる私まで、突風に吹かれたような凄みを感じる。

「ちぃ、只でさえ罪状が列挙されているのにこの上偽証罪とは……士郎を見くびっていたというのか、このワタシが!?
 というかまず、その腕と腕の並列つなぎをなんとかせんかー!!」

 藤村先生の気迫に押されて、慌てて繋いだ腕を解く私たち。
 ……冬木の虎の怒りを正面から受けるのはこれが初めてだが、これは……凄まじい。

「士郎アレでしょ!?
 ここまでくるともうワザとやってるでしょこのハーレム王!
 切嗣さんに申し開きしなけりゃならない私の立場も考えなさいよー!!」

「ば、馬鹿言うな、落ち着け藤ねえ!
 大体誰がハーレム王だって……」

「言い訳無用、情け無用!
 姉の愛情も無為にする極悪士郎!
 こうも次から次へととっかえひっかえ――」

「……五月蝿いわ」

 ひゅん、と走る一条の黒閃。
 もはや黙るまい、と思われた藤村先生の熱弁がぴたりと止まった。
 ひどく冷たい一言と、ひどく鋭い風切り音によって。

573 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/03(金) 23:29:51


「ひょあっ!?
 す、水銀燈ちゃん!?」

 凍らせた主は、衛宮と私を挟んで藤村先生の反対側に立つ水銀燈。
 水銀燈の放った一枚の羽根が、藤村先生の鼻先を掠めたのだ。

「ちょっとアンタ、なにを……!」

 たたらを踏む藤村先生と、危険に色めき立つ遠坂嬢。
 そんな二人を無視するように、水銀燈は相変わらず視線を逸らしたまま呟いた。

「ふん。
 水銀燈は今、機嫌が悪いの。
 ……いつまでもぎゃあぎゃあと騒いでて、五月蝿いったらないわぁ」

「でっ、でも、士郎が……」

「しつこいわ。
 士郎が……士郎がどの人間とくっつこうが、なにしようが、私には関係ないの。
 関係の無いことで私の時間を使わせないで頂戴」

 言って、水銀燈は立ち上がり、くるりと居間に背を向ける。
 本当に出て行きかねないその背中に、衛宮が慌てて声をかけた。

「あ、うん、そうだな、いつまでももたもたしているのはよくない。
 藤ねえも来た事だし、そろそろ飯にしよう。
 ……水銀燈も、食べてくれるんだよな?
 待ってろ、今食器に乗せてくるから」

「…………ふん」

 視線は合わせないままだが、水銀燈は素直に席に戻り、あらかじめ置いてあったらしい、二段重ねにされた座布団の上に座りなおした。

「氷室も、座って待っててくれ。
 すぐに食器の数合わせをしてくるから」

「あ、ああ……」

「雛も食べるー!」

「あ、そっか、ごめんごめん。
 小さい食器は二人分だな。
 よし、桜、俺も盛り付けを手伝うぞ」

「あ、はい」

 衛宮が間桐嬢とともに台所へ消えていくのを見送りながら、勧められるままに席に着く。
 隣の雛苺のために座布団を重ねてやりながら、私は様々なことを思い描いていた。

 昨日のこと。
 今朝のこと。
 衛宮のこと。
 私のこと。
 水銀燈のこと。

 考えることは山ほどあるが。
 しかし、一つだけ、確信に近い推理があった。
 それは、衛宮と触れ合った腕のぬくもりから身体全体に伝わってくる鼓動。

 ああ……どうやら私は、恋をしたようだ。


――Interlude out.


α:そして、事件は氷室を家まで送った後に起こった
β:そして、事件は俺が学園にいる間に起こった
γ:そして、事件は放課後に柳洞寺に行った時に起こった

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最終更新:2006年11月04日 01:02