561 名前: 言峰士郎 ◆kceYkk4Fu6 [sage] 投稿日: 2006/12/08(金) 02:01:07
――interlude――
遡ること、数分。
学び舎の屋上に、二つの影があった。
一人は魔術師。一人は英霊。
神代の再現、伝説の復活、神秘の夜。
この聖杯戦争が行われている最中であれば、その存在も異様とはいえまい。
如何なる理由からか、その手に聖杯を、願望器を欲さんと願った七組十四人の主従。その一組。
魔術師は、未だ年端もいかぬ少女。英霊の方も、少年と見紛わんばかりの少女であった。
「それで、ここが基点なんだと思うんだけど……どう、やっぱりサーヴァント、よね?」
「まず間違いは無い、と言って良いでしょう。
リン、貴女の実力を考えれば、今代のメイガスも力が劣っているわけではないのでしょうが――
これを為せるのは、神代に生きた存在のみです」
やっぱり、と少女――遠坂凛は頷く。
この学園全体に張り巡らされた結界――その存在に気付いたのは、今朝だった。
内包した存在を溶解し、吸収し、貪り、喰い尽くす、結界。
成程、英霊――サーヴァントは霊的存在であれば、人喰いをする事で強化することも可能。
そして与えられた手札が弱ければ、勝ち抜くために強化しようとするのも、また道理。
しかしながら、遠坂凛は、それに吐き気を覚えた。
彼女は真っ当な魔術師であろうとする真っ当な人間――聊か、奇妙な人間であったが故に。
監督役の唐変朴が気が付いているかどうかはともかく、彼が何の手立ても講じていないのは明白だった。
――否、気付いたとして、果たして彼は何かを行うのだろうか。彼女にはわからない。
言峰士郎という人間とは、十年来の付き合いになる。だが、彼の内面を理解できたことは一度も無い。
恐らく、彼がもし結界を除去するために何らかの行動を起こすとすれば――
――それは『監督役としての職務』だから。『やれ』と言われているから。それ以上でも、それ以下でもあるまい。
結界で如何なる惨事が引き起こされるのか。それを理解していても――しているからこそ?――彼は動かない。
もしも柳洞一成や間桐慎二、衛宮イリヤ、遠坂凛が溶解し、死んでしまったとしても、彼は涙一つ流すまい。
恐らくは彼自身が結界に巻き込まれたとしても、「あーあ、失敗しちまった」とだけ言って死ぬだろう。
ひどく、怖気がする。
遠坂凛には、言峰士郎がわからない。
彼は表面上、表情豊かだ。怒るし、笑う。嘆きもする。
――だが、表情が動いても、感情が動いていない。十年間付き合って、理解できたのはそれだけだ。
冷静というのではない。断じて無い。一体、彼は何なのか。遠坂凛には、わからない。
時々思う。言峰士郎の内面、感情。それは、動かないのではなく――……
「……まあ、あの莫迦のことは放っておくとして」
其処まで考えて、彼女は無駄な思考を振り払う。
心の贅肉だ。いくら幼馴染であろうとも、彼女が追求する必要は無い。
それが聖杯戦争の最中であれば、そんな事を考えること自体、無意味と言えよう。
「それじゃあ、ちゃっちゃと作業しちゃいますか。
発動を遅らせるだけでも、何か意味があるでしょ」
「そうね。
でも意味があっても、ひどく退屈だとは思わない?」
「――……ッ!!」
弾けるように宙を振り仰ぐ。
仄かな月光。銀色が夜風に靡く。見下ろすのはくすんだ金色。
可憐だ。
そんな言葉とは、はるかにかけ離れていると思えたのに。
その一瞬は、その少女の事を、そうとしか認識できなかった。
――ジャッジメント・タイム!
「ハサンさんマジ外道!」A.白兵戦闘
「だが、それが良い」B.射撃戦闘
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最終更新:2006年12月08日 07:26