769 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/24(日) 00:45:02
「……と、こんなところかな、俺の話は」
その日の夜。
夕食を終え、各々が各々の時間を満喫している頃。
俺と水銀燈は土蔵の中で二人、今日の出来事について情報の共有を行なっていた。
俺としては、今日手に入れた情報があまりにも多かったために、これは水銀燈に話さねばなるまい、と考えてやってきたのだが……まさか水銀燈も同じように土蔵へやってきていたのとは思わなかった。
なんでも、俺がいない間に、気になる出来事が合ったらしいが……。
「……それは後でいいわ。それより、士郎の話から聞かせて頂戴」
と水銀燈が促したため、まずは俺から話をすることになった。
いつもの定位置に座る俺と、その正面に置かれたガラクタの上に腰を下ろす水銀燈。
向き合って座った二人の間を、一方的に言葉が流れる。
アーチャーが薔薇乙女《ローゼンメイデン》のミーディアムだったこと。
新都に新しい薔薇乙女《ローゼンメイデン》が潜んでいるらしいこと。
そのミーディアムは、なぜか俺たちの目には見えないらしいこと。
そいつと会うためには、鏡を使う必要があるということ。
俺が憶えている限りのことを話し終えると、水銀燈がポツリと尋ねてきた。
「……ねぇ士郎、もう一度言ってくれなぁい?
そのアーチャーとかいう男、なんて言っていたの?」
「え? ああ……『私は私の方法でアリスを目指す』……だったっけか?」
俺がもう一度、アーチャーからの伝言を繰り返すと、水銀燈は突然、肩を震わせて笑い出した。
「ふ、うふふふふ……」
まるで地の底から響いてくるかのような笑い声。
自らを掻き抱いて、ぎゅっと力を込めて呟く。
「ようやく、ようやく見つけたわ。あぁ、真紅ぅ……」
感極まったような声。
その姿は恋焦がれた乙女のよう。
真紅。それが相手の名前なのだろうか。
「どうしよう、どうしようかしらぁ。
今すぐに会いに行こうかしら?
それとも、楽しみは最後に取っておく?
あぁ……もう水銀燈、困っちゃうわぁ」
こんなにはしゃいでいる水銀燈は初めてだ。
けど、浮かれすぎて自分の話を忘れてないか、水銀燈?
「そう、そうね。
決めたわ。士郎、次の相手は……」
「なぁ、その前にさ。水銀燈の話ってなんだったんだ?」
話の腰を折られて気分を害したのか、水銀燈は少し眉間にしわを寄せたが、すぐにからかうような口調で一つの言葉を口にした。
「……聖杯戦争」
「っ!?」
言葉に詰まる。
まさか、その言葉が水銀燈の口から紡がれるとは思っても見なかった。
「私が何も聞いていなかったとでも思ってるのぉ?
貴方たちの話の中に何度も出てきてたじゃない。
アレについて訊こうと思ってたんだけど……」
「けど、なんだよ?」
「けど、やめたわ。
私には関係のない話だし、今はそれどころじゃない気分だし。
真紅の居場所が分かった以上、のんびりとなんてしていられないわぁ」
「……そっか」
その言葉に安堵して……そんな自分に驚いた。
俺は、聖杯戦争について触れられなかったことに安堵している。
確かに触れられたい話ではない、が、水銀燈のことは知りたいと思っておきながら、自分のことは隠そうとするのは間違っているんじゃないか?
「水銀燈」
俺が呼びかけるより早く。
水銀燈は、ふわりと地面に降り立つと、姿見の前で静止した。
薄笑いを浮かべながら、まるで全てを見下すように。
「行くわよ士郎。
アリスゲームを制するのは、他の誰でもない。
この薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール、水銀燈なのだから」
そう言う水銀燈の姿は、相変わらず美しかったけれど。
今の俺には、それはなんだかひどくいたたまれなく見えたのだった。
『
銀剣物語 第四話 了』
770 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/12/24(日) 00:46:18
さーて、来週の銀剣物語はー?
桜です。
まさか氷室先輩が、先輩とあんなことを……予想外です。
先輩のほうもなぜか満更じゃないみたいでしたし、気になります。
気になるといえば、先輩の家に新しく住むことになった水銀燈ちゃんと雛苺ちゃん。
特に水銀燈ちゃんのほうは、なんだか氷室先輩を敵視してるように見えるんだけど……まさか、先輩、お人形さん相手に!?
さて次回は、
「健康と美容のために、食後に一杯の紅茶」
「ラブリー眼帯の秘密」
「ふしぎ星石のふたご人形」
の三本です。
来週もまた見てくださいね。
じゃん、けん、ぽんっ!
ぐー :健康と美容のために、食後に一杯の紅茶
ちょき:ラブリー眼帯の秘密
ぱー :ふしぎ星石のふたご人形
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最終更新:2006年12月24日 03:50