78 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/01/16(火) 22:44:20
「お前、そんなに真紅って子が好きなのか?」
何故そう思ったのか、俺自身にもわからない。
ただ、水銀燈の言葉の端々からにじみ出る、異常とも言えるほどの執着心。
その原因はなんだろうか、と考えれば、普通は憎しみが挙げられるのだろうが……何故だか、俺にはそう思えなかったのだ。
……だが。
「ふざけたことを言わないで」
「っ!?」
振り向きざまに放たれた水銀燈の言葉は、俺を竦めさせるのに充分なものだった。
「私が……真紅のことを、好いているですってぇ?
くだらない……本当に、くだらなぁい」
吐き捨てる。
まるで言葉そのものが、汚らわしいものであるかのように。
その、殺気立った瞳に、思わず気圧される。
しかし、その瞳は俺ではなく、別の誰かに向けて焦点を結んでいた。
その誰かが誰なのか……考えるまでも無いだろう。
「いい? 私は単純に、あの子が嫌いなの。
あの子の顔も、態度も、性格も、本当に気に食わないったらないわぁ。
そうよ、あの子なんかが……アリスに相応しいはずが無い」
一言一言、相手に語りかけるように。
あるいは、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「水銀燈、お前……」
「士郎。明日は忙しくなるわぁ。
用意が出来次第すぐに出掛けるわよぉ。それと――」
俺の言葉を遮り、水銀燈はくるりとこちらに背を向けた。
そして、肩越しにちらりとこちらに目線を送ると、最後に言った。
「今度また、私にくだらないことを訊いたなら。
そのときは士郎、貴方を……本当にジャンクにしてあげるから」
そうして、水銀燈はそのまま、土蔵に向けて飛び去って行ってしまった。
「……なんなんだ、一体」
一人きりになった中庭で、やり場の無い戸惑いが、口から零れ落ちた。
なんだか、水銀燈が怒るところを初めて見たような気がする。
今日は初めて尽くしの日だな……いや。
「俺が、気付いてなかっただけか」
自分の間抜けさに呆れてしまう。
俺は今日、水銀燈の新しい一面を見つけたんじゃない。
今まで、水銀燈のいろんな顔を見てすらいなかったんだ。
「下僕失格、か。……はぁ」
水銀燈ならそう言うだろう、と考えて、溜息をつく。
今日はやけに寒い。溜息すらも、かすかな白い靄になっていく。
「……そういえば、水銀燈の息は白くなってなかったな」
やはり、人形と人間では造りが違うからなのか。
俺は、そんなことにも、初めて気付いた。
もっと水銀燈の事が知りたい。
アリスゲームのためじゃなく、もっと単純な理由で。
そうでもしないと、俺は……。
――このままだと、水銀燈のことを、夢にでも見てしまいそうで。
「……ええい、やめだやめ」
頭を振って気持ちを切り替える。
俺一人で考えていても埒が明かない。
これ以上理解しようとするのなら、当事者の話を聞かなきゃいけないだろう。
だから、俺は頭の隅のほうにこの疑問を押しやった。
そうして、俺は――
α:日課の鍛錬はやらないと。気まずいけれど土蔵に行く。
β:なんだか変な夢を見そうだが、今日はこのまま自室で寝る。
γ:そういえば雛苺はどうしているのだろうか。様子を見に行く。
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最終更新:2007年01月16日 23:17