464 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/09(水) 22:22:39
人形の瞳が示す感情、それは蔑み。
「……」
言葉が出ない。
相手は人形だ、感情なんてあるわけが無い。
それはきっと疚しいことをした俺の心が見せる錯覚に違いない。
……しかし、現に今、俺に突きつけられている氷のように冷たいこの瞳は。
「う、わ……」
人形の圧力に押されたかのように、思わず胡坐の姿勢から後ろにのけぞる。
すると、それに呼応するように人形がゆっくりと起き上がっていく。
ぎ、ぎき、ぎきききき。
歯車の軋むような音を立てながら起き上がった人形は、
やがて直立したまま頭を垂れたような姿勢でカクン、と止まった。
ばさっ。
主の目覚めに呼応したかのように、一対の黒翼が大きくはためく。
そして、その頭がゆっくりと前を向いて……。
「……私の寝ている間に、随分勝手に弄んでいたみたいねぇ?」
冷たくも美しい声で、軽蔑の言葉を紡いだ。
「しゃ、喋っ……た?」
目の前のあまりの出来事に、俺の言葉はカタコトだった。
身体は後ろ手をついたままの姿勢で動かない。
まるで俺のほうが人形になってしまったみたいだ。
対して、人形は先ほどまでの作り物めいた動きではなく、流れるような自然な動きで。
その指が、俺の顔を指し示した。
「そんなに、私の身体が気になったのぉ? あぁ、気持ち悪ぅい」
首をわずかに傾げながら、嘲りの笑みを浮かべる人形。
そんな姿でさえ、人形の美しさは欠片たりとも失われない。
むしろ、土蔵の薄暗い闇の中で、人形が立つ場所だけが銀色に輝いて見えた。
ああ、つくづく俺はこの場所で縁があるらしいなぁ、などと現実逃避気味なことを考えていると。
「……人間。あなた、名前はなんて言うのぉ?」
「……え?」
不意に。
人形から発せられた質問に、思わず間の抜けた返事を返してしまった。
「聞こえなかったの、お馬鹿さぁん? あなたの名前を聞いてるのよ」
「あ、え、衛宮、士郎、だけど……」
人形にものを尋ねられたことなんか、今まで一度も無かったのだが、
それでもなんとか自分の名前くらいは答えられた。
俺の答えに、人形は軽く頷くと、地面を軽く、トン、と蹴った。
同時に背中の翼が羽ばたき、人形の身体を宙に持ち上げる。
「そう。じゃあシロウ、改めて……」
人形が右手を優雅に一振りすると、幾多の羽根が、人形の周囲に舞い散った。
それを見た瞬間、ぞくり、と。
本能に近い部分が、アレは危険だと俺に告げた。
「二度と馬鹿な真似をしないように、あなたを躾けてあげるわぁ」
次の瞬間、幾つもの黒い羽根が俺に向かって殺到した――!!
α:手近なものを『強化』して盾にする!
β:即座に『投影』して防御する!
γ:第七のマスターが命じる、来いセイバー!
δ:避けられるわけもなかった。
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最終更新:2006年09月03日 17:34