36 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 12:52:55



――――殺される。間違いなく殺される。
痛みも、苦しみも味わう事無く速やかに。
まるで『先程』のように……

―――――ならば諦めろ。
諦めて、死ぬ気で抵抗してみせろ。
どうせ死ぬなら恐れる必要などあるまい。
大きく息を吸い込み、下っ腹に力を込める。

―――――覚悟が決まったならば武器をとれ。
急いで周りを見渡し武器に成りそうな物を探すが、都合よく有るわけも無し。
ふと視界に入ったのは、自称俺の姉貴分が置いていったポスター。

糞っ、こんな物しか無いのかよ……
包丁やナイフという選択肢も浮かんだが、相手の獲物が槍では、懐に入るまでに12回くらい軽く死ねるだろう。

土蔵にでも行けば、少しはまともな物が有るかもしれないが、何も持たずに飛び出せば待つのは死だけ。
贅沢は言えないか。
本来ならば、戦闘において何ら役に立とう筈の無いポスターを手に取り、
「―――同調、開始」
『魔力』を流し込む。
そう、そのままで役に立たないのならば補強し、強化すれば良いだけ。
「―――構成材質、解明」
極度の緊張の中、今までに無いほどの……
「――――構成材質、補強っ」

最高の出来だった。
「――全工程、完了」
『強化』が終わると同時に横へと飛ぶ。
「ちっ、折角人が苦しまないよう殺してやろうってぇのに……。人の好意は素直に受けるもんだぜ?」

突然現れた男は、先程まで俺の居た場所から槍を引き抜き、ふざけた事をのたまう。
全くもって、悪質なセールスマンも真っ青な好意の押し売りだ。

さてどうしたものか……

逃げる?
無理。それは既に試した。その結果、俺は殺された。

戦う?
冗談じゃない。ポスター一枚であんな化け物と戦えるかよ。

ならば状況を変える。
武器が無いなら有る場所に行けばいい。
逃げられないなら、逃げられる状態を作れば良い。

勝てないならば、勝てる戦力を。

そのためにはどうする?
まずは武器だ。

37 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 12:55:13

逃げるにしろ、戦うにしろこんなポスターじゃ役に立たない。
……道場か土蔵。あそこになら武器に成りそうな物が有る。
少しずつ近付いてくる男に気を配りながら、必死に思考を巡らせる。
道場よりは土蔵か……
道場ならば木刀や竹刀が確実に手に入るが……遠い。
普段ならば気にするほどでもないが、目の前にいる獣は見逃してはくれないであろう。

ピクリと男の腕が動く。
それに合わせガラスを突き破り、外に転がり出る。
急いで視線を上げると男と目が合う。

「……ほぅ、二度も我が槍を避けたか。」
避けられた筈なのに、嬉しそうに口端を吊り上げ外へと跳んだ。

男が着地したのは、俺と土蔵の間。
つまり彼奴をどうにかするための武器は、彼奴をどうにかしないと手に入らないって事だ。

そんな矛盾を破らなければ死ぬだけだ、問題無い。

「コレは避けられるか?」一瞬にして間合いを詰めた男が槍を放つ。
まさに閃光だった。全く見えない。目に止まらぬ速さではない。
目に『映らない』のだ。

だが、それは幸運にも、とっさに構えたポスターに当たり、僅かに軌道をずらして肩を掠めた。

「……っ、なんだそのポスターは?鉄みたいな手応えだったぞ?」

俺は答えない。
いや、答える余裕など有りはしない。

男の言う通り、この強化されたポスターは鉄並の硬度を持つ。
だが、それは今の一撃で曲がっていた。

『掠ったような』一撃で、だ。
まともに受ければ一合すら耐えきれず、ポスターごと穿たれるだろう。
「僅かに魔力が感じられる――――って事はテメェ魔術師か……」
男の表情が僅かに引き締まる。

もしかするとお前が七人目だったのかもな、と呟き、その『必殺』の槍を放つ。

一撃。たった一撃で良い。耐えきってくれっ!
そう祈りながら目の前の『死』に突撃する。
ガキンッ、と鈍い音を立てて完全に折れ曲がるポスター。
やはり一撃の下に破壊された。
―――――だがそれも予想範囲内!
続けざまに繰り出される二撃目をへし折られたポスターを広げ盾にする事により、コンマ数秒のロスが生まれる。
――――今だっ!
その一秒の半分にも満たない隙に相手の横をすり抜けようと駆ける。
「……人間にしては上出来だ。」

38 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 12:59:08

「だが甘めぇぞ、坊主。敵前逃亡は頂けねぇな」
まるで車にでも跳ねられたかと思うほどの衝撃が背中を襲う。
背骨が砕けなかったのは幸いだった。

その勢いで10mは離れていた土蔵へと吹き飛ばされた。

―――耐えきった。
あの化け物の一撃を俺の体は耐えきった。
最初から奴の攻撃を全て避けられるなんて思っちゃいない。
ならば死なない程度の攻撃ならば受けて、そして利用しろ。
背中の痛みを耐えながら土蔵へと転がり込む。

そして壁に立て掛けてあったバールに手を伸ばす。
これなら彼奴の攻撃にも少しは耐えられる。
「……正直驚いた。
ただの人間がここまでやるとはな。
逃げるつもりなど無かったか。
ここまで計算の内か?鍛えりゃ良い線いったかもしれねぇな……。
これはお前を侮った非礼への詫びと此処まで俺相手に生き延びた褒美だ、受け取れ。」
男が身体を低く沈め、槍を構える。
すると大気中のマナが急速に酷くなり、目の前の男へと集約していく。
「刺し穿つ……」


―――ドクンッ
嗚呼、終わった。
―――――――ドクンッ
これは防げない。
――――――――――ドクンッ
こんなもの人に止められる訳がない。

――――――――――――――ドクンッ
ならば、止めるためには……

―――――――――――――――――――ドクンッ
人を越えれば良い。
自己のスイッチを入れる為に呪文を唱える。
「――――同調」

それは衛宮士郎(タダノニンゲン)が
正義の味方へと至る術。

体中の魔術回路を暴走すらさせかねない勢いで回す。

正義の味方ならば、この程度の不条理、打ち破れ。

「―――――開始」
瞬間、世界は黄金の光に呑み込まれた。――――――――――――――

休憩終わるので後半は夕方にぅpします(´・ω・)

39 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 19:08:39

光の中心に有るのは、突如浮かび上がった見た事も無い複雑な魔術陣。

たった直径4m有るか無いかの場所に、空間が歪む程マナが集まる。
先程の男が行った物など比較に成らぬ程の圧力。世界が猛り狂う。

風を纏い、光を紡ぎ、炎を吹き上げ、大地を揺るがす。

それでも足りぬと言わんばかりに、マナの集約は止まらない。

「ちっ、マジに七人目だったとはなっ!?」
警戒した男は槍を引き、距離を取る。

光が止み、やがて世界が静まりかえる。
土蔵の中は、まるで竜巻でも通ったかの如く、荒れていた。
気が付くと、その厄災の中心には見たこともない少女が雄々しく立っている。

年は、恐らく11,2だろうか。
黄金すら、くすんで見える眩いばかりの金の髪は緩くウェーブがかかり膝下まで伸びている。
その華奢な身に纏うは、髪に引けを取らぬような眩い金色の鎧。

その姿に心を奪われ、視線をずらす事が出来ない。

この少女の前では、美の女神だって裸足で逃げ出すだろう。

格好いい。
少女の姿を見た感想は、可愛いや美しいではなく、そんなすっとぼけたものだった。

だがそう感じてしまったのだ。
それは、子供の頃に観た仮面ライダーやウルトラマンを見た時に感じた様な気持ちだった。

自分の置かれた状況すら忘れ、見とれていた少女の表情が歪む。

「…………全く、今回のマスターはまともに召喚すら出来んのか。」
遠慮なく、大きなため息をつき、こちらにちらりと視線を向ける。
「貴様が我のマスターか、雑種?」
実に不機嫌に、まるで虫けらでも見下すような視線で、俺に問かける。
少女が言の葉を紡いだ瞬間、先程の男のものが生緩く思えるほどの殺気が放たれる。
空気が凍る。呼吸など出来よう筈が無い。
今にも心臓が止まってしまいそうになる。
いや、既に止まっているのかも知れない。
「……っ、ブッ――ハッハッハッハッ!」

そんな緊張感を無視して、青い男が馬鹿笑いをする。

40 名前: 381 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2006/11/18(土) 19:10:40

「普通の英霊召喚と比べても異常と言える程のふざけたマナが集まったから、いったいどんな英霊が飛び出すかと思ったら餓鬼じゃねぇか。
俺を笑い殺す気かよ。
そんなちんまい英霊も、人を笑い殺す宝具も聞いた事ねぇぞ」

金色の少女を指差しながらゲラゲラと笑う男。

「……もう一度だけきくぞ。貴様が我のマスターか?」

まるで男に気が付かないかの様に再度問いかけてくる少女。
マスター?御主人様って事はないだろう。むしろあっちの方が偉そうだし。

さて、どう答えたものか。

◎:「……マスターって?」

―:「そうです。私がご主人様です!」
×:「ずっと前から好きでした。
結婚して下さい。」

今回の選択肢の中には速攻でBad EndとDead Endに成るモノが含まれています。
ご注意下さい。

ヒント、この物語はシリアスです。
もう一度言います。コレはシリアスです。 

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最終更新:2007年04月04日 22:27