826 名前: 371 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/08/14(月) 23:26:01
「先輩、最近何かあったんですか?」
桜にそう言われたのは、朝食をみんなで囲んでいる最中のことだった。
メンバーはいつもどおり、俺、桜、藤ねえ、セイバー、遠坂、ライダー。
朝食からさっそく気持ちの良い食べっぷりを
披露してくれていた面子(一部を除く)だが、
桜の言葉にいくばくか箸の手を休める。
「え、何かあったかって言われてもな……どっかおかしいか、俺?」
茶碗を持ったまま首を傾げる俺。
ひじきと油揚げの煮物を取って食べる。
うん、いい味が出ている。
「おかしい、って言うより……先輩、なんだか忙しそうでしたので……」
「確かに、最近は土蔵に足を運んでいることが多いようですが」
尻すぼみ気味な桜の弁を、
ライダーがマイペースに魚をつつきながら補足する。
ライダーは他の面子に比べると小食なほうだが、
規則正しく箸を運ぶ姿は外人さんとは思えないほどピシッとしている。
なお、土蔵通いが増えたのは事実だ。
なるべく人目を避けて通っていたつもりだが、
流石に一日に二度も三度も行けばそりゃ気がつかれるか。
それにしても桜は俺に関する変化には本当に鋭い。
俺自身、最初に気がつくのは桜妥当とは予想していたが、
まさかここまで早いとは。
「へー、なに、士郎コスモクリーナーとか直しちゃったりしてるの?」
そんなはるか彼方のイスカンダルにまで取りに行かなきゃならんようなものは土蔵にはないぞ、藤ねえ。
あと、箸を咥えながら喋るな。
「一度決めるとひたすら打ち込むからね、衛宮君は。
まったく働き蟻根性と言うか」
さっきまで寝起きで絶賛大不調だった遠坂も、
今はすました表情で箸を進めている。
私一見関わり合いになりません、というポーズを取っているものの、
このメンバーの中では桜に次いで敏感な人物なので油断ならない。
「……(じーっ)」
「? どうしたのセイバー?
不自然な髪型の中年を見つけたような目をしてるけど」
「いえ……、なんでもありません、凛」
あと、先日からセイバーの遠坂を見る目……
もとい、遠坂のツインテールを見る目が真剣そのものになった。
いずれ本人に直接例の件を尋ねてしまいそうな勢いだ。
もちろんそうなったら俺は一巻の終わりである。
無論これは比喩ではなくガチだ。
うん、まさに綱渡り人生。
「何かあった、か……」
誰にも聞かれないように、そっと呟く。
桜は本当に鋭い。
果たして自然な対応が出来たかどうか。
そう、俺が水銀燈との契約を交わしてから、もう三日が経っていた。
『銀剣物語 第二話 銀様と土蔵リフォーム計画』
「ミーディアム以外の人間と馴れ合うつもりはないわぁ」
という水銀燈の方針を元に、土蔵の中に水銀燈をかくまってから早三日。
今のところ衛宮家の住人には水銀燈の存在は発覚していない。
そもそも土蔵には俺以外の人間はあまり寄り付きはしないし、
もし誰かが土蔵に入っても、水銀燈が姿を現す気がなければそうそう見つかることは無い。
セイバーやライダーあたりが本気で気配を探れば見つかるかもしれないが、
『誰かがいる』という確たる根拠がなければそんなことにはならないだろう。
さて。
朝食後、俺は早速土蔵へ足を運んでいた。
その目的は――
α:水銀燈にも朝食を持って行ってやるためだ。
β:昨晩発生したガラクタ崩落で生き埋めになった水銀燈の救助だ。
γ:実は低血圧な水銀燈を起こしに行くためだ。
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最終更新:2006年09月05日 16:53