470 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:夜の総括] 投稿日: 2007/03/01(木) 03:51:20
「うん、そうだな」
ジェネラルに頼もう。
英雄としての将、その兵力だから配備は出来なかったとしても、少なくとも回収は出来るだろうし、してくれるだろう。
「なにがそう、なのです?」
気付けば、すぐ後ろにライダーが立っていた。
視線は『妹』が走り去った先に固定され、瞳は輝いたままだ。
……羨ましい、んだろうなあ、やっぱり。
「ああ……うん、ジェネラルどこにいるか分かるか?」
「彼ならリン達と一緒の部屋にいるはずです……夜の対策を立てるのではないかと」
「ライダーは良いのか?」
自分が声を掛けられなかったことは良いとして、その事を知っているのならば参加するのではないかと思った。
「……私が居ても大した意見は出来ないでしょうし、それならばまとまった後の話を聞いた方が良いと言っておきました」
口元に笑みを浮かべてライダーが言う。
本心か否かはともかく、話し合いへの興味よりも外に居ることを選択したらしい。
「……そっか、ありがとな、ライダー」
「それはそれとして士郎、バイクのことなのですが」
「……あー、その、なんだ」
仕方がない。
「今日は、俺の自転車好きに使って良いから、それで勘弁してくれ」
「ぬ……わかりました」
いかにも不承不承と言った様子である。
普段ならば嬉しいのだろうが、流石に目の前でバイクに跨られては不満なのだろう。
適当な人数分の茶を用意して遠坂の部屋をノックする。
……返事はないが中でなにやら話している声が聞こえる。
「遠坂、入るぞ?」
そっとドアを開ける。
「そうだとするとこの辺り、か?」
ジェネラルが大量の黒点が打たれた地図の上にチェスの駒を乗せる。
「……その辺り? 潜んでいられるような建築物はなさそうだけど?」
「いえ、潜む気になれば警備が厳重なこの行政ビルは逆に安全ですわ、警備陣を味方と出来れば他の人間を排除できますもの」
「ぬ……それだって魔術行使の痕跡を見破られたらアウトじゃない」
「もしくは母集団の違いですかね? この周辺などどうでしょう、この辺りならば住宅街ですから潜むのも可能ですし」
「……なにやってんだ? みんなして」
「……士郎、いつの間に」
地図に注目していた遠坂が視線をこっちに向ける。
「いや、ちゃんとノックはしたぞ?」
「そう……で、何の用?」
「ちょっと昨日の……いや、今日のかな、相談があったんだ」
そう言って胸ポケットから鍵を取り出す。
「その鍵は?」
ジェネラルが問う。
「昨日の戦闘で手に入れた物で……詳しい経緯は省きますけど冬木の駅前アパートに武器を隠してあって、その部屋の鍵らしいんです」
「それ、本当?」
遠坂は顔色を変える。
それは当然か、自分の管理する場所に武器が密輸されていた、なんて話を聞いて平静で居るのは難しかろう。
自分にしても、この家に大量の武器が持ち込まれたら凄く嫌だ。
知らない間ならばともかく、知ってしまえば無視は出来ない。
「ああ、多分、今際の際に聞いた話だから嘘って事はないと思う」
「士郎君……殺した、んですか?」
驚いた、という表情を顔に貼り付けてセイバーが問う。
「いえ、違います、バーサーカーと戦っていたなら、雰囲気が変わった瞬間、ありませんでしたか? 追い詰めたら敵マスターは命も含めて供給したんです」
敵とはいえ、己のサーヴァントに命を捧げてしまった瞬間を止められなかったあの後味の悪さ。
それを忘れることは出来そうになかった。
「……ああ、なるほど、あの瞬間ですか、まさか命まで捧げていたとは思いませんでしたが、言われてみれば納得できます」
思い返せば、力を漲らせていたにも関わらず、消えかかっていた。
現代との縁が途切れた、と考えればあの事象も理解できるとセイバーが一人納得した。
471 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:夜の総括] 投稿日: 2007/03/01(木) 03:52:18
「そういえば二人はバーサーカーと戦ったのよね……」
「ええ、正体こそ不明ですが倒しました、マスターも死亡したのならば擬態、と言う可能性は無いと思います。
……それはそれとして凛さん、貴方の方も交戦したのではないですか?」
教会での治療のおかげか、既に見えなくなっている痣や擦り傷のことを思い出してセイバーが問う。
「ええ、戦ったわ、相手はセイバー、それもとんでもない速度で動き回る相手よ……音速の領域に達していたかも知れない」
「音速、ですか? それが常時可能な相手だとすれば……手強い相手ですね」
セイバーとて瞬間的な所作、一撃の最終到達速度ならば音速には達しうる。
だが常時音速で機動する相手だとすれば、戦闘そのものではともかく速度での勝ち目はない。
スピードを主体として戦術を構築するセイバーとしては出来うる限り戦いたくはない相手である。
「そうね、正直に言えば危なかったわ……教会が襲われたのよ」
「……よく助かりましたね」
目を丸くさせてセイバーが驚く。
「そうね、納得はできないけど、教会もサーヴァントを保有している事が分かったしね」
「な……遠坂、それって」
言峰と同じ事をやっているってことなんじゃないか?
そう続けようとした言葉を遮る。
「それは違うと思う……多分に勘だけどね」
「勘とはまた、随分とアテにならないことを根拠になさいますのね? 貴方も」
ジト目で呆れたようにルヴィアが言う。
「そうね、理屈を上げるとすれば、情報を比較的公開しているってことかしらね、暗躍する気なら情報なんて公開しない方が良いもの」
「確かにそうだな、この対バーサーカー計画にしても、教会からの情報に基づいているし、バーサーカーが確認された位置も正確なようだ」
斥候兵で痕跡は確認した、とジェネラル。
「信用するか否かはともかく、出来るだけあの教会には近づかない方が無難、か?」
「……そうだな、少なくとも自分のサーヴァントの情報は伏せていたのだからね」
諭すようにジェネラルがまとめる。
「……そういえば、なのは達も戦ったのよね?」
「まあ、そうだろうな、詳しい話は聞いていないが流石にあんな傷を自爆で負うのは間抜けすぎる」
なにしろ死んでいてもおかしくないほどの怪我だ。
詳しく聞くまでもなく戦いがあったと理解できる。
「戦った相手の話は聞いておいたほうがよさそうね、士郎、二人を呼んできて貰える?」
「あ、それは多分無理、居間で藤ねえ達と話をしてたから」
彼自身もそうだが、彼女たちも嘘をつくことに慣れているとは思えない。
日常から非日常への変換は出来るだけ少ない方が良いだろうと意見を言う。
「……そうね、それなら後で聞くことにしましょう……」
その意見を容れて言葉を切った後、はた、と気付いたようにルヴィアが言う。
「忘れていましたわ、ミスター、鍵の話に戻しましょう」
「あ、ああ、そうだな」
鍵を握り直すとちゃり、と僅かな金属音が響いた。
472 名前:隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM [sage 五日目・朝:ジェネラル出動へ] 投稿日: 2007/03/01(木) 03:54:07
「……成る程、それで私に、と言うことか、確かに適当な判断といえるだろう」
そう言ってから用意された茶を受け取り一口する。
少し温くなり始めていたが、乾き始めた喉に心地よいようだった。
二つほど盆に余ったままだが、それは余り気にしないことにする。
「はい、お願いできますか?」
「ああ、勿論構わぬとも、武器の配備など考えたこともなかったが……君達若人は日常は日常として享受するべきだと思うし、特に君は相手をするべき子供がいるのだしな」
子を育てる、というのは大事なことだ、と少し笑いながら言う。
「いいえ、私も付いていくわ、管理者として、そう言う現場には付き合うべきだと思うもの」
「私も付いていきますわよ、二人だけじゃ、ちょっと不安ですものね」
「では私も……」
「セイバーは留守番よ、一番重傷だったんだから、昼の間くらい回復に専念しなさい」
「しかし……話が事実として、下手をすればこの戦いの参加者と鉢合わせになりますよ? 貴方はこの地の管理人として知られた存在だ。
そして相手の顔をこちらは知らない以上、追跡されることは想像に難くありません」
「確かにそうだけどね、でも、ここを攻めようって思うかしら? ただでさえ工房……とは言えない場所だけど、複数のサーヴァントが居るのよ」
この部屋だけでもジェネラルとセイバーが居る。
さらにキャスターが三騎とライダーが二騎。
リスク回避のために全てを攻撃に回せぬとしても前代未聞の戦闘力といえるだろう。
「だとしても人質作戦だってあり得るでしょう、ここには巻き込んではいけない人間が何人も居ます」
「それを言い出したらどこにも行けないじゃない、リスクは同じ筈よ、そして最悪の選択がここを放置することなんだから選択の余地はないわ」
「その点は確かにその通りですが、貴方が行くことはリスクを増すだけで何もならないでしょう」
「む……それは、そうかもしれないけど……」
「そうでしょう、行くのならばこの地で知られていない人物、つまりはルヴィアさんとジェネラルの二人で行くべきです」
その言葉を受けて遠坂があからさまに不機嫌になる。
対照的に笑みを浮かべたのはルヴィアだ。
「貴方のサーヴァントの言うとおりですわ、リスク回避は可能な限り行うべきですもの」
苦虫を噛み潰すような表情をした後、溜息を一つ。
「……仕方ないわね、セイバーの言うことは正論だし……でも、何があったのかは後で教えなさい」
「それは誓って」
人差し指を立て、片目を瞑って微笑む姿は、何とも優美だ。
恐らくこれで昨日の鍵の問題は一応解決、と言うことになるだろう。
安堵の息を一つ吐く。
……ライダー達が服を持って戻ってくるまではまだ少し時間があるだろう。
と、すれば。
バルバロッサ中央戦区:遠坂と話しておかねばならないことがある
背信への処遇:キャスターと話しておかねばならないことがある
レッセルシュブルング:なのは達と居間で話をしよう
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最終更新:2007年05月21日 19:24