679 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/19(土) 01:11:49
「無駄なこと……貴女はいつか必ず、私の手を取ることになる」
そう、予言めいた言葉を言い放つと、薔薇水晶は大きく飛び退り、庭園の入り口……大きな石造りのアーチをくぐった。
すると、唐突にアーチは鏡のように輝きだし、薔薇水晶の身体を光の中へと飲み込んでしまった。
アーチの輝きが完全に消えるのを見届けてから、アーチャーは軽く息を吐いた。
「……逃げたか。
あの様子では、今回もあちらのミーディアムの顔は拝めそうにないな」
追っても無駄だ、と悟っているのだろう、アーチャーが一瞬で干将莫耶を消滅させる。
その隣では、薔薇水晶が去ったことで、若干肩の力が抜けた真紅がアーチャーを見上げている。
「朝のお茶の時間が、とんだ騒ぎになってしまったのだわ。
……それにしても、アーチャー。
一体いつから見ていたの?
私がnのフィールドに入ったとき、貴方は確かに居なかったわよね?」
「ん? なに、実世界とは異なる世界へ埋没する手段があったのでね。
館の異変を察知してからすぐにそれを行い、そこから君とのパスラインを頼りにこちらへ侵入してきただけのことだ」
こともなげに、あっさりと言ってのけるアーチャー。
だが、その言葉を聞いた真紅は引っ掛かりを覚えたらしく、怪訝そうに眉をひそめた。
「世界に埋没する手段……?
アーチャー、それは一体……」
「ふむ、話すのは別に構わんが。
だが、その話はまた別の機会にしたらどうだ?」
言いながら、アーチャーは首を巡らせてこちらを――俺たちのほうへ視線を寄越した。
「一人目の客は帰ったが……次の来客の応対をしなければならんからな」
げ……。
アーチャーめ、俺たちがここで見ていることにとっくに気がついて居やがったのか。
まあ、アーチャーの鷹の目を持ってすれば、誰かが隠れていることなんてお見通しなんだろうが。
そのアーチャーの視線に導かれるようにして、真紅もこちらを振り向き……俺と水銀燈の姿を認めて、目を大きく見開かせた。
「……貴女は!」
ついに見つかってしまった。
どうするんだ、水銀燈……と尋ねるよりも早く、水銀燈は愉しげに笑いながら、柵の上からふわりと飛び降りた。
一体なにを?
まさか、いきなり戦うつもりか?
「……うふふ。
見つかっちゃった、見つかっちゃったぁ」
音もなく、土の上に降り立つ。
そして、何一つ悪びれることもなく、まっすぐに真紅を見据えた。
「お久しぶりね、真紅。
こうして会うのは、何万時間ぶりかしら」
「水銀燈っ!?
貴女、いつから其処に!?」
「ずぅっと見てたわよぉ?
貴女があのドール……薔薇水晶だっけ? あの子と話してる間、ずぅっと。
……なのに全然気がつかないなんて、ホントに真紅ったらお馬鹿さぁん」
くすくすと、心から相手を侮蔑するための笑い声。
「遠くからでも、貴女の不細工な顔はよぉく見えたわ。
本当は、いつでもその顔を吹き飛ばしてあげられたんだけど……面白そうだったから、見物させてもらったわぁ」
……口ではああいっているが、水銀燈からは本気の殺意は感じられなかった。
おそらく、アレは本当に真紅をからかっているだけなのだろう。
……そう、この時までは。
「でも、てっきり二人で戦い合うんだと思って見てたのに、なぁにアレ?
アリスゲームを変える?
殺さないならその方がいい?
くだらないわぁ、とうとう頭の中身まで錆付いちゃったのかしら、真紅ぅ?」
そのとき、じっと水銀燈の言葉を聞いていた真紅が、ようやく口を開いた。
「……私はいたって正常よ、水銀燈。
誰だって傷つきたくはないし、相手を傷つけることも望まない。
だから……くだらないと思うなら、それは貴女が――」
α:「壊れているから」
β:「独りぼっちだから」
γ:「傷ついた事がないから」
δ:「残酷だから」
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最終更新:2007年05月19日 23:50