791 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 02:00:23

 真紅は、水銀燈が最後まで俺を殺そうとしていたと言った。
 だが、そうするとおかしな事がある。
 そう、それは……。

「待った、真紅。
 でも、水銀燈は、最後は力を緩めたんだろ?
 これは俺の自惚れかも知れないけどさ、それってつまり、俺を殺すことを一瞬だけでも躊躇ったってことじゃないか?」

「……あ……そう言われれば、確かに……!」

 俺の指摘に、真紅は初めてその事実に気がついたらしい。
 そして、その真紅のリアクションで、俺は自分の推理に自信が持てた。

「そっか。
 だったら、俺が死ぬ気で伝えた言葉も、あながち骨折り損じゃなかったんだな」

 あの時、俺は死を覚悟した。
 死ぬことは恐ろしかったが、それ以上に嫌だったのが、水銀燈が誰かを殺してしまうことだった。
 だから、俺の言葉で水銀燈が一瞬でも躊躇ってくれたというのなら、それだけで命を懸けた甲斐があった……そんな気がした。

「ん?
 どうしたんだ、真紅」

 ふと気がつくと、真紅が俺のことをじっと見つめている。
 なんだか、息子を見つめる母親のような、そんな目だ。

「……水銀燈は……幸せね」

 唐突で脈略がない真紅の言葉に、俺は首をかしげた。

「幸せ?
 なんでさ?」

「だって、こんなに自分を思ってくれる人が居るんですもの。
 それは、とても幸せなことなのだわ。
 でも……あの子は、それに応える事が出来ない」

 真紅の表情が、一転して悼む者のそれになった。

「あの子は強く在ろうとしすぎたのだわ。
 独りで居ることに慣れすぎて、それが当たり前になってしまっている。
 ……本当は、それがとても寂しいことだと気付かずに」

「………………」

 俺は、真紅の言葉を聞きながら、自分の薬指をじっと見つめていた。
 そこには、変わらずに咲き誇る、金属の薔薇があった。
 水銀燈は、俺の元を去ったが……俺との契約は、まだ続いている。
 この指輪が、その証拠だ。

792 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 02:01:22

「待たせたな。
 ふむ……どうやら二人とも、話に花が咲いていたらしいな」

 その場の空気を払拭するかのように、台所からアーチャーがやってきた。

「アーチャー。
 まるで私たちの話が一段落するまで、待っていたみたいなタイミングね?」

 全くだ。
 真紅の言うとおり、この男のことだから、その辺で出るタイミングを窺っていたに違いない。
 だが、アーチャーは表情一つ変えずに、いけしゃあしゃあと言ってのけた。

「いや、私は良い紅茶を淹れるために必要な時間をかけていただけだ。
 もしタイミングが良かったと言うのなら、それは逆に……相談事というのは、紅茶を淹れるくらいの時間で片付けるのが一番だ、ということではないかね?」

 屁理屈だ。
 俺は脊髄反射でそう結論付けたが、真紅はなぜか感心したように頷いている。
 ……なんでさ。

「……なるほど、一理あるわね。
 じゃあアーチャー、その苦心して淹れたという紅茶を、楽しませて頂戴」

「ふ、心得た」

 アーチャーは手際よく、トレイの中からティーセットを並べていく。
 並べたティーセットは3つ……あのヤロウ、ちゃっかり自分も飲む気でいやがる。
 アーチャーは3つのカップに、順番に紅茶を注いでいった。
 一番最初のカップは真紅に。
 そして……。

「ほら、お前の分だ」

 そう言って、俺の前にも紅茶の入ったティーカップが置かれた。

「……サンキュ」

 自分でも愛想悪いと思うくらいの態度で礼を言ってやる。
 アーチャーはそれを気にするそぶりすら見せずに、自分の分の紅茶を淹れ始めている。

 アーチャーが淹れた紅茶に、ミルクポットを傾ける。
 ミルクと紅茶が混じりあって、カップの中は白く濁った。
 俺は、ティースプーンでそれをかき混ぜながら、居なくなってしまった自分のドールのことを思った。

(……水銀燈)

 お前はきっと、純粋だから、カップの中が濁る事が赦せないんだろうな。
 でも、紅茶はミルクと触れ合うことで、口当たりが良くなるんだ。
 俺が言いたかったのは、そんな紅茶もおいしいんだって、たったそれだけの簡単なことなんだよ。

 ゆっくりカップに口をつける。
 まろやかなはずのその液体は、なぜかひどく苦く感じた。


銀剣物語 第五話 了』

793 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/21(月) 02:02:22

さーて、来週の銀剣物語はー?

 ごきげんよう、私は真紅。
 水銀燈が士郎と決別してから、一夜が明けたのだわ。
 薔薇乙女《ローゼンメイデン》の中でも特に気難しいあの子のことだから、今頃どこでなにをしていることやら……。
 でも、私はそんなに心配してはいないわ。
 だって、水銀燈のミーディアムである士郎が、きっとなんとかしてくれるから。
 ……あら、アーチャー、やきもちを焼いてるの?

 さて次回は、

「月のワルツ」
「夢であるように」
「どうしようもない僕に天使が降りてきた」

 の三本よ。
 来週もまた、見て頂戴。
 じゃん、けん、ぽんっ!


ぐー :「月のワルツ」
ちょき:「夢であるように」
ぱー :「どうしようもない僕に天使が降りてきた」

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最終更新:2007年05月21日 03:53