隣町-interlude9

ぱたぱたというスリッパの足音が響く。
鳥の鳴き声だけの洋間の廊下にその足音は調和してつつ空間をざわめかす。
続いて響くノックの音も同様。
全員が寝静まったままなのか、他の音は聞こえてこない。

暫く音が響いた後、諦めたのか溜息。
そして僅かな金属音の抵抗の後、その部屋のドアは解錠された。
その部屋の住人は呼吸すら止めるかの如く物静かに眠っていた。
近付き、耳を澄ませば僅かな呼吸音。
生きていることに少しだけ安堵してそれから耳元で囁く。
「いつまで寝てるんですか、姉さん」
その声と共に揺さぶると、彼女は僅かに目を開けた。
だが、そこに意識はないのは明らかで、目を開けても呼吸音には僅かな乱れもない。
「……桜ぁ……?」
ただ寝言のように呟いたきり全く動かない。
「もう朝ですよ、疲れてるのは分かりますけど、いい天気なんですから、もう起きてくださいね」
姉さんは支度前に起こさないと食べられないんですからね、と桜が続けた。
「もーちょっと寝かせてよー……」
「そんな調子じゃ朝ご飯冷めちゃいますよ」
呆れたようにカーテンを開けると、爽やかに過ぎる朝日が部屋に入り込む。
「うぁー、灰になるー……」
そう言いながらのそのそとベッドの影に潜り込もうとする。
「駄目ですよ姉さん」
後ろから上体を優しく抱き起こす。
そのおかげか、半ば寝ているがそのまま上体をどちらかに倒す事無く、バランスを保っている。
「髪がぼさぼさですよ」
そう言って、枕元の櫛を手にとって髪を丁寧に梳いていく。
「……姉さんって普段はしっかりしているのにどうして朝はこんななんですか?」
ぼんやりと、桜は長年の疑問を口にした。
「にゅー……むしろ私は桜がどーしてこんなに元気なのか知りたいわー……」
しろーも早起きだしーと続ける様は実に気怠げだ。
「なにか秘策とかあるのー?」
「そうですねー……?」


手を止めて少しだけ考え込む様を振り返って眺めると、視界に桜の胸が飛び込んできた。
「ほんと……姉妹でなーんでこんなに違うのかしらねー……」
ぽつりと呟いた声は、口の中で止まってすぐ近くの桜の耳には届かない。
「なんですか? 姉さん」
疑問符を頭一杯に浮かべて桜が問うと、やる気を無くしたと言わんばかりに上体を後ろに倒す。
「やっぱりだめー……起きられなーい」
「姉さん、そんなワガママ言っちゃ……」
「桜さあ」
桜の言葉を遮って言った。
「最近士郎と、したの?」
途端、桜の顔が真っ赤になった。
「な、なんですか急に」
「いーじゃないの、聞かせて聞かせて」
ぬふふーと気怠げに鼻で笑う様は、見ようによっては実にそそる物があった。
「おとといしました、けど……その」
その言葉で、少しだけ目が輝いた。
「実はねー、私最近寝不足なのよねー……誰かさんが毎晩毎晩ねー」
ごろりと寝転がって表情を隠す。
桜には見えていないがその表情は紛れなく面白がっていた。
「あ……あ……あの、その……す、すいま、せん」
「さーくらー」
がばーっと起き上がって押し倒して頬を擦りつける。
「ね、姉さん、と、突然何するんですかー」
「やっぱりだめー、おきられなーい」
頬や肩口に頬を擦りつけて甘えるように抱きついている。
「い、今起きてるじゃないですか……力いっぱい」
「ねー、私にも力をわけてー」
性行為、というものは取り分け魔術師にとって力を分け与える、パスをつなげるという意味を持つ。
姉の言葉からその事を連想し、顔を赤らめた桜には何の罪も無かろう。
「な、なに言ってるんですか姉さん」
努めて冷静になろうとするが、赤い顔と声のどもりは隠しようがなかった。
「いーじゃない、余ってるんでしょー? スキンシップスキンシップー」
「そ、それは先輩の為に、ですね……」
「たーりーなーいー、おきられないー」
言いながらむにゅーっと胸を揉む。
「も、もー、しょうがないですね……少しだけですからね?」
両の頬を軽く手で覆い、顔を近づけ、互いの唇を軽く触れさせる。
「はいっ、おしまいですっ……」
顔を真っ赤にしたまま背を向けて立ち上がろうとする。
「気がすみましたよね?」
「そんな子供だましじゃ駄目よ?」
気配もなく後ろから抱き留めて胸を抱く。
するりと、エプロンの内側に手を忍び込ませその柔らかな肉体をもみしだく。
「あっ……姉さん……」
その突然の刺激に力が抜けた。
「んふふ、ここはどうかしら?」
柔らかな先端を指で摘みあげるその刺激に、呼吸が荒くなっていく。
「やーらかくてきもちいいわ……」
ふっと耳元に息を吹きかける。
「んっ……」
その刺激に神経が集中し、先端への刺激が無くなったかと思うと、今度は服の内側へと手が忍び込む。
「桜、可愛いわ……」
「ね、姉さん、もう……」
言葉が言い終わるよりも早く唇が重なる。
「んふっ……」
ちろちろと、互いの舌が絡み合いどちらのものか、唾液が糸を引いてベッドへと落ちる。
「どう、桜……その気になったかしら……?」
荒い呼吸の中、笑みを浮かべて妹の耳を甘く噛む。
次の瞬間、桜はするりと甘い束縛から抜け出した。

訝しむ間もありはしない。
桜は姉の服をはだけさせ、その臍に舌を侵入させる。
「ひゃっ!?」
「ふふふ、せんぱいはこーいうの、大好きなんですよ?」
舌で一通り舐め終えると、続いてその舌を柔らかく、滑らかな肌の上に這わせる。
「どうです? きもちいいですか?」
蕩けるような声が耳朶を打ち、呼吸と思考を乱れさせた。
「さ、くら……」
下腹部から来る未知の刺激に身を震わせながら必死に言葉を紡ごうとするが、その試みは失敗する。
荒い呼吸は言葉を紡ぐことを阻害し、未知の刺激は思考を阻害する。
「大丈夫ですよ、こわいことなんて、なにもありませんから……」
這わせた舌を今度は慎ましやかに、だが明確にその存在を主張する胸に向けていく。
「だから、聞かせてください、えっちなおねだり」
その声は、阻害された思考に別の要素を侵入させ、占領していく。
「あ……あ……も、もっと……」
なだらかな丘に舌が這う。
だがそれは決して頂点に向かわず、丘と平野の境を執拗に責めていく。
「ほおら……これだけで姉さんのここ、こんなにとろとろになってますよ?」
人差し指を太股にすっと滑らせる、その痺れがもたらす快楽は、簡単に全てを奪っていくに足りた。
荒げた呼吸は脳への酸素供給を滞らせ、思考を塗りつぶしていく。
「もっともっとして欲しいですか? 欲しいですよね? 欲しかったらおねだり、してください」
一瞬だけ双丘の中程まで舌を這わせ、すぐに戻す。

視界すらもぼんやりとしていく中で、ただただ快楽だけが広がっていくこの感覚は彼女にとって未踏の領域であった。
己の慰めた時すら、どこかで自分を俯瞰している感覚さえあった。
だがこの感覚は違う、全神経を侵し、そして侵されることを望む思考が段々と広がっていく。
もう言葉を紡ぐことが出来ない。
もう考えることが出来ない。
もう快楽を求めることしかできない。
「ほら、言わないと、こんな所も」
突如目標を変え、脇の下に舌を這わせていく。
もう喉がかすれ、声すら出せず身悶える。
「ふふふ、上半身だけでこんなになっちゃうなんて、ねえさんはえっちですね」
「さ……く……んんっ!」
陸に打ち上げられた魚のように口をぱくぱくとさせながら必死に手を伸ばし、言葉を紡ごうとする。
「それじゃあ、ちょっとだけ、行きますよ?」
言葉の直後双丘に加えられた刺激で完全に達した。

荒げ果てた呼吸を戻るが、興奮はまだ収まらず、本能がもっともっとと懇願する。
「さ、桜、もっと、もっと……して」
「ふふふ……上半身だけでこんなになっちゃうなんて、姉さんはへんたいさんですね?」
肩口から首筋へと這わせていく。
「ほおら、えっちなへんたいさん? へんたいさんのねえさん? もっともーっとしてあげますから、してほしいことを言ってください」
後ろ抱きに首筋を舐めながら双丘を揉みしだいていく。
「言わないと、もっとしちゃいますよ?」
手を下へと伸ばしていく。
二人の興奮のギアは更に上がっていく。


一方壁を隔てた衛宮家廊下。
「はぅ……あぅ……」
顔を真っ赤にした三枝がドアに耳をつけて中の様子を聞き入っている。
ドアを開ける勇気はなかったが、僅かに漏れ出る声から中の様子は想像が出来た。
深呼吸する。
顔を真っ赤にしたまま叫びそうになる口を手で覆う。
呼吸が荒い。
彼女とて中で行われて居るであろう痴態がどのようなものか分からぬ訳ではない。
だが、それを行って居るであろう二人がよく知る二人だったから、顔は赤く、興奮していく。
「……『姉さん』って、そう言う意味、だったのかなぁ……」
詳しい事情を彼女はよく知らない、故に妄想が生まれ、広がっていく。

気付けば、服の上から己の双丘を掌で包み、ゆっくりと力を加えていく。
目を閉じ、耳に意識を集中する。
中の様子を想像し、様々な角度から力を与えていく。
繰り返していくうちに、突起は固さを増し、それが服に擦れてさらなる快感を与える。
「……っ!」
漏れそうになる声を、服を噛んで堪える。
そして更に、指先で突起に触れると、電流が走るような快感が走った。
更に服を強く噛む。
「んっ……」
その快感の残像を追い求め、夢中になって己の突起を弄っていく。
呼び起こされる己の肉欲に、太股をもじもじとすりあわせていく。
膝下のスカートが捲れ上がり、その奥のショーツに僅かな染みが広がっているのを感じた。
それを確かめるように、ゆっくりと己のショーツへ手を伸ばしていく。
「えっちなおと、してる……」
そっと、布地越しにショーツの奥の突起へ手を伸ばす。
途端に先程までとは比べられぬほどの快楽が全身に走る。
快楽を貪欲に追い求め、指の動きを早めていく。

頭の中で、ダレカの姿を思い起こす。
優しく抱かれ、愛撫されて行くのを想像する。
己の手をダレカの手と想像し、己自身を慰めていく。
小刻みに割れ目を擦り上げ、更に突起も刺激する。
溢れ出した液体はショーツの吸収可能量を軽く突破し、床に垂れ始めている。
想像の中、ひたすらにダレカの名を呼ぶ。
痺れる快楽は既に全身を犯し、思考は既に快楽のみしか存在しない。
全身が震え、時折小刻みに体格相応の小さな尻が跳ね上がる。
爪先が反り返り、体は小さく締まり、指先は更に快楽を求めて激しく動き回る。

そして、瞬間的に大きく仰け反り、体を数度痙攣させると、そのまま動きを止めた。
あふれた液体を手で受け止めながら、荒い呼吸に体を上下させる。

ややあって、後始末を軽く終わらせ。
「ごめんなさい……」
一度だけ部屋の中の二人に謝罪し、その場から立ち去った。

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最終更新:2007年05月21日 20:19