936 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/26(土) 13:13:24
α:神でも無理だった。
β:仏でも駄目だった。
γ:英霊でも不可能だった。
「いやいやいや!
それってどの選択肢でも結果変わらないだろうが!
なんだその嫌がらせみたいな運命!?」
脳裡にふっと浮かんできた三択に一人突っ込みを入れながら、とにかく走る。
祈りだけでは頼りにならない、今の頼りはこの二本の脚のみだ。
まあ、神は教徒がアレだし、仏は坊主が生臭だし、英霊は論外なので、祈る対象がそもそも間違っていたんじゃないかという意見もあるが。
「よっし、到着……!!」
公園から走り続けること十分弱、ようやく俺の家が見えてきた。
実に、遠坂の家に行った時と同じくらいの速さである。
そのまま、塀に手を当てて屋敷の大まかな様子を確認してみることにする。
「解析、開始《トレース・オン》!」
……よし、ざっと『見た』限り、屋敷におかしな所は見当たらない。
間違っても、大出力宝具で塀の一部が削れていたり、中から黒い影がはみ出していたり、他者結界な暗黒神殿が展開していたりはしない。
……なお、断っておくが、上記のような事態は滅多に起こったりはしないぞ。
せいぜい……年に一度か二度だ、うん。
「……あれ?」
解析を止め、そのまま玄関に行こうと足を踏み出して……そこで軽く驚いた。
俺の家の門の前に、誰か立っていたのだ。
「誰だろ、二人いるな…………って、えええ!?」
門の前にいるのが誰なのか……それを理解した瞬間、そのあまりの組み合わせに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
一人は、穂群原学園の制服に身を包み、スポーツバッグを肩から提げた少女。
そしてもう一人は、カソックを纏い、身体の至る所に包帯を巻いた少女だったのだ。
「氷室と……カレン?」
どう考えても接点なんてありそうにないこの二人が、なぜ……?
理解に苦しんでいると、二人のうちの片方が、俺の存在に気がついたらしく、こちらを見て一礼してきた。
「あら、ごきげんよう衛宮士郎。それともお帰りなさい、でしょうか」
そう言って、修道女……カレン=オルテンシアは、礼儀正しく俺を出迎えた。
カレンは、この町の新都にある教会の代理責任者である。
そして、聖杯戦争時、半壊してしまっていた教会の修理が終わるまでの間、我が家に滞在していた事がある。
そう、バゼットと同時期に我が家に滞在していた人物とは、他でもない、このカレンのことだったのである。
その間のことは……あまり思い出したくない。
ただ、それ以来、教会の修理が終わった後も、カレンはバゼット同様、時々俺の家にやってくるようになった。
だから、今日この場にいることも、あながち不思議なことじゃないんだけど……。
「別に、どっちでもいいけど……まあ、こんにちは、カレン。
それに、氷室もこんにちは」
「あ、ああ……衛宮は、今帰ってきたところだったのか」
心なしか、氷室は動揺しているように見える。
それは、俺に対してというよりは、どちらかというと隣に立つシスターに対して、であるみたいだ。
「ああ、ちょっとした用があってな。
二人はどうして俺の家に?
なんか、凄く意外な組み合わせなんだが」
「いえ、私と彼女は、たまたまここで鉢合わせしただけです。
私はもう、教会に帰るところですし」
カレンは俺の言葉を否定すると、このまま帰ることを告げた。
その瞬間、なぜかチラリと俺と氷室を見比べた、ような気がした。
「え? 何か用事があってきたんじゃないのか?」
「確かにありましたが、その用事は既に終わりましたので。
貴方が帰ってくるのがもう少し早ければ、お話できたでしょうけど……残念です」
目を閉じ、すまし顔で言うカレン。
はて、俺以外の誰かに用があったんだろうか。
冬木の管理者である遠坂あたりとか。
でも遠坂を尋ねに俺の家にやってくるってのは間違っているというか、よくわかっているというか。
「では、私はこれで。
ごきげんよう、衛宮士郎……お達者で」
「あ、待て……」
再び一礼して、擦れ違う。
そのまま、俺の静止の言葉も聞こえなかったかのように、カレンはすたすたとその場から去っていった。
さっきまで俺の家で、一体何をしてたんだろうか……それに、最後の言葉。
「なんだよ、お達者で、って……」
ものすごく不吉な響きだった。
937 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/05/26(土) 13:14:35
「衛宮」
俺の不安をよそに、その場に残っていたもう一人……氷室が、不思議そうに尋ねてきた。
「あのシスターはお前の知り合いか?
つくづくおかしな人脈を持っているな、君は」
「そう言われると複雑だ。
否定したくても、出会いって奴は俺の意思だけじゃどうしようもないことだしな」
まあ、本音を言えば、時々疲れることはあっても、決して否定したいわけじゃないんだがな。
「……まあいいや、それで、氷室の用事は?
雛苺の様子を見に来たのか?」
「ふむ、そういうことになるのかな。
今日は、これを差し入れも持って来たんだ」
そう言うと、氷室はスポーツバッグとは別に、手に提げていたビニール袋を掲げて見せた。
ビニール袋の表面には、新都のデパートの中にある、割と有名な和菓子専門店の名前が記されている。
ということは、恐らく中身は……。
「これ、あんみつか?」
「む……よくわかったな。
確かに、あんみつなんだが……」
俺が言い当てたのが意外だったのか、とても驚いたような顔をする氷室。
氷室にしては、とても珍しい表情だ。
「ああ、昨日、雛苺が『透明で、黄色で、黒くてすくって食べるもの』が欲しいって言ってたんだ。
それで、ひょっとしたらあんみつかな、って」
「なるほど……そういえば、食べ物の名前は教えてなかったな」
俺の説明に、納得した、という風に頷く。
「以前、雛苺にこれをあげたら、ひどく好評だったのでな。
そろそろ、これを欲しがっているのではないかと思ったのだが、予想通りだったようだな」
「ああ、実は昨日、ライダーにも買ってきてもらうように頼んだんだけど……ウチは大所帯だし、多めにあっても余って困ることはないから、大歓迎だよ」
実際、あればあるだけ減っていくからな……甘いものは特に。
と、そこで、ここがまだ家の門の前であることにやっと気がついた。
「あ、悪い、こんな場所で長話させたな。
せっかくだから、あがっていってくれ」
「では、お言葉に甘えて、お邪魔させてもらおう」
俺が促すと、氷室は一つ頷いて家の門をくぐった。
続いて俺も敷居をまたぐ。
「氷室は、昼飯はもう済ませたのか?」
靴を脱ぎながら尋ねると、氷室は首を振って否定した。
「いや、部活が終わってすぐにこちらに来たのでな」
「そっか、じゃあウチで食べていけよ。
その方が雛苺も喜ぶ………………ん?」
眉をひそめる。
玄関に上がったところで、俺はなにか違和感を覚えた。
「なんだ?
なんかあっちのほうが騒がしいな……?」
居間の方角から、複数の人間の声が、玄関まで聞こえてくる。
不審に思って、居間のほうへ足を急がせる。
……このときのことを反省するのなら。
俺は、バゼットが家に来ていることをすっかり忘れていた。
そして何故カレンが俺の家から出てきたのかを、もっと深く考えるべきだったのだ。
廊下を渡って、辿り着いた居間の中では……。
「な、な、なにやってんだ、お前ら……!?」
α:雛苺のお絵描きに付き合わされて、てんやわんやになっていた……!
β:経緯は全く不明だが、全員で昼食を作っていた……!
γ:ハンディカラオケを持ち出して、カラオケ大会を開催していた……!
δ:本来はパーティーゲームのはずの人生ゲームが、真剣勝負と化していた……!
投票結果
最終更新:2007年05月26日 16:08