921 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU [sage] 投稿日: 2007/09/03(月) 21:41:56

強制連行:「――冗談だよ」と嘆息したら、「ごめんなさい」と去っていった。





「――冗談だよ」

 と言って、ため息をついた。

「桜ちゃんは『先輩』の所へ行きたいんだろ? なら行ってきなよ」
「は、はい……ごめんなさい」
「いや、良いって良いって。美味い朝食を作ってもらったのに、馬に蹴られちゃあ無礼ってもんよ。
 ああ、食べ終わったらちゃんと片付けもやっておくから」

 精一杯の虚勢と笑顔でもって送り出す。

「はい……ごめんなさい」

 桜ちゃんはもう一度ぺこり、と頭を下げると、申し訳なさそうな顔のまま去っていった。

「……………………はぁ」

 一人残された俺は、淋しくポタージュをすする。

「――お前、何勝手に僕の物に手を出してるんだ」

 不機嫌そうな声が、桜ちゃんが出ていった方から聞こえてきた。振り返るまでもなくクソガキだと分かる。

「別にナンパには誰の許可もいらねーよ。つうか、自分の妹を差して『自分の物』は無ぇだろうが」
「ふん、僕の物を僕の物と言って何が悪い。
 それよりも……やっと真名が聞けたよ。『乾 有彦』?」

 ちっ、……聞かれてたのか……。クソガキに知られるのは癪《しゃく》だったから教えなかったのだが。

「……実はそれも偽名でな、」
「嘘だね。お前ぐらい手慣れた奴なら、一つの街で名乗る偽名は統一するはずだ。特に、こんな狭い街ならなおさらだ」

 マジかよ……。どうでも良いところには頭が働くんだな、クソガキは。

「はぁ……そうだよ。俺の真名は乾 有彦だ。さて、お前はそれを聞いたうえでどうする?」

 己のマスターを試すように、ニヤリと笑ってみせる。







「別にどうもしないさ。僕は僕のやり方で聖杯戦争を勝ち残る。ただそれだけさ」







「――は?」

 だがしかし、クソガキの口からはとんでもない言葉が出てきた。
 さらに追い打ちをかけるように言い募る。

922 名前: はじめてのさーう゛ぁんと ◆XksB4AwhxU [三日目:早朝] 投稿日: 2007/09/03(月) 21:42:54


「大体お前、どこの英霊だよ? 名前からして日本人みたいだけど、『乾 有彦』何て名前には聞き覚えはないし。どんだけマイナーな奴だよ」
「ちょ、待て、待てよ? 待てやクソガキ。俺を知らない? どういうことだ? 『乾 有彦』だぞ? 本当に知らないのか??」
「だから知らないって言ってるだろう!? それよりも、僕をクソガキ呼ばわりするな! 僕はマスター何だぞ!!」

 なぜだか知らないが、いきり立って吠えるクソガキを軽くいなし、俺は考える。

(どういうことだ? クソガキは本当に魔術師なのか? それとも協会か教会で情報統制が?)

 瞬時に思いつくのは二つ。一つは、クソガキが魔術師としては三流で、こちら側の情報に疎いか。もう一つは、そもそもその情報自体が闇に葬られているか。

「……どちらにせよ、クソガキに正体はばれなかった、と。ああ良かった」
「おい、聞いてるのかよ!? マスターと呼べって言ってるだろ! って言うか真名はもう分かっているんだよ『乾』! って言うか何で『良かった』何だよ!?」
「あっはっはっー。色々ツッコンでるなー。ツッコミって大変だよなー」

 早口でまくし立てるクソガキを適当にかわし、桜ちゃんが用意してくれた朝食を平らげる。--ご馳走様でした。

「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!
 ……くそっ、まあいいや。夜になったら出かけるからな、着いてこいよ!!」

 言いたいだけ言ってすっきりしたのか、言っても無駄と思ったのか。皿洗いを始めた俺の背中に、クソガキは吐き捨てるように声をかけて去っていった。

「……また『魔力集め』かよ。ふざけやがって」

 クソガキの気配が離れた頃を見計らって、悪態を吐く。と、そこで気づいた。

「……令呪の罰《ペナルティ》が無い?」

 そう。少し前までクソガキの悪口を考えただけでビリビリきていた罰《ペナルティ》が、はっきりと口にした今も表れていないのだ。
 しかし、手放しに喜ぶことは出来ない。『縛り』自体は残っていて、ステータスはすべからく低下したままだった。

「マジかよ……まあ、あのビリビリが無いだけマシか?」

 何にせよ、これはありがたい。これで心置きなくクソガキの悪口が言える。

(クソガキばーか! クソガキあーほ! クソガキ三流! クソガキ雑魚キャラ! クソガキキモイ! クソガキKY! クソガキキ○ガイ! クソガキ×××! クソガキ■■■! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ! クソガキわかめ!!!!)

 ――、…………。

 虚しい。
 分かってたけど虚しい。

「あーもう、止め止め!」

 夜にはクソガキに着いていくんだ。こんなことをするぐらいなら、せめて--。





   【ステータス情報が更新されました】



体力温存:ゆっくりと寝てよう。
情報整理:アンサラーちゃんに色々聞こう。
会話継続:……クソガキがまだ家にいる?

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年09月03日 23:19