249 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/14(金) 22:56:54

「―――ょ…」
「は? 聞こえませんが…」
「………負けよっ!!リーグ出場権を放棄するから、ルヴィアを襲うのはもうやめてッ!」

 ―――言ってしまった。
 勝ち続けるのは遠坂の宿命。なのに、それを私は、放り投げた。
 胸がムカムカして気持ち悪い。これで、私たちは本戦に出場することもなく、敗れ去ることとなってしまった。…………最低な負け方だ。

「―――いいでしょう、了解しました。藤乃、もうやめなさい」
「………」

 これで終わるはずだったのに、遠野秋葉の言葉が聞こえていても尚、浅上藤乃は止まらない。逃げ惑うルヴィアの背中を執拗に狙い、超能力で辺りを捻り壊していく。その様はブレーキが壊れたダンプカーだ。

「ちょ、ちょっと! 約束が違うじゃない!? 早くやめさせなさいよッ!!」
「……忘れてた。この状態の藤乃って、相手を殺すまで止まらないんだった…。ま、まずいわね、早く何とかしないと…」
「何よソレ!!?」

 ―――最低だ。この女、まさかワザとやっているんじゃなかろうか。もしも殺しを楽しむっていう、快楽殺戮者だとしたら最高に性質が悪い。敗北を味わされたものとは別に、理不尽な処遇に対する怒りが、メラメラと沸きあがってきた。
 私の嫌疑の視線に気付いたらしく、彼女は『安心して』とだけ言い、手を二回鳴らした。と、するとどこから現れたのか、割烹着を着た少女が笑みを浮かべながら秋葉に向かってお辞儀する。家政婦、というやつだろうか。髪を束ねた大きなリボンが可愛らしい。
 しかし今、こんな娘を呼ぶ意味なんて何処にあるのだろうか。

「琥珀、藤乃を止めなさい」
「かしこまりました、秋葉様」

 すると少女は、ポケットからハンカチを取り出すかのような自然さで、着物の中から吹き矢を出し藤乃に向けて吹き放った。その流麗な動作は、何故だか相当手馴れているかのように見える。
 ぷすり、と藤乃の首筋に矢は刺さり、彼女はがっくりと倒れる。痺れ薬か何かが塗ってあったのだろう。あまりに突然なことに、驚く暇さえない。

「藤乃を早く医務室に。―――酷い傷ね。異変を感じたらすぐ戦闘をやめるように、ってあれ程言っておいたのに……」

 割烹着を着た少女が藤乃をおぶさり、去っていく。残されたのは、私と秋葉、そして戦いから解放されたルヴィア…。ルヴィアを見れば、滅多に見せないくらいのきつい目で、私を睨んでいた。…こりゃ相当怒ってるな。

「……何よ」
「…何故、負けを認めたのですか? あのまま戦っていれば、フジノは自然と出血多量で気絶する寸法でしたのに」
「嘘おっしゃい。あのまま戦っていれば、あなたまず間違いなく殺されていたわ。……勝負とはいえ、この場合、負けてもこちらにリスクなんてありはしない。あの時は、あれが最善の方法だった」

 ポッキリ折れ曲がり、加えて真っ赤に染まった腕を見つめる。何が藤乃は気絶する、だ。先に限界を迎えていたのは、まず間違いなく彼女だったろう。勝機がないのに、戦い続ける理由なんてない。
 図星をつかれたのか彼女の顔は赤くなり、折れてなお拳を握り締める。……今夜は喧嘩、か。

「―――不愉快ですわ。私は一足先に帰らせてもらいます」

 そう言い残し、折れた腕をぷらぷら揺らしながら、早足でその場を後にした。傷ついても尚、その歩き方はお嬢様然としている。…実に彼女らしい。

「一流の医者と、その治療費を提供いたします。貴女のその左腕も、放っておけばすぐ治りますわ。翡翠、お客様をお送りしてあげて」
「かしこまりました、秋葉様。ではお客様、こちらへ…」

 これまたどこから現れたのか、先程の割烹着の少女とは違い、西洋風のメイド服に身を包んだ少女が前へ出、おじぎする。こちらはあの娘とは対照的に、表情に乏しい。

「ありがとう、至れり尽くせりね。腹はたつけど……もう何も言わない。敗北者は黙って去るとしましょう」
「そうですね。そうしてもらえるとこちらも助かります」

 負けは負け。今からどうこう言っても仕方がない。
 …しかしこの行き場のない怒りはどこにぶつければいいのだろう。まさか目の前の女にぶつける訳にもいくまい。―――今夜早速、シロウかアーチャーにでも八つ当たりしていびってやろう。
 …………涙が滲んでいる自分に気付く。あーあ、終わった、か。


Interlude out.

250 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/14(金) 22:57:53

――Interlude side Akiha


「秋葉様にしては、妙にえげつないやり方でしたね」

 藤乃を医務室に送り届け終わったらしく、琥珀が戻ってきた。その顔には相変わらず笑みが張り付いているが、今日に限って何故だか楽しそうだ。

「口を控えなさい、琥珀。…別に闇討ちした訳ではあるまいし、そんな言い方はしないでほしいわね。それとも、貴女には何か感じる所があったのかしら?」
「いえいえ。ただ、公式の試合が始まってないというのに、あの方たちも可哀想だなぁ~、と」
「………」

 解っている。今回の手法は、汚い部類に入ると思う。敵地に迎え、しかもノールールだ。…でも正式なプロレスとしての試合では、まず彼女らには勝てなかった。
 私たちタッグは武道の初心者だ。達人らとぶつかれば、まずやられる。加えてプロレス。本戦ではかなり苦しい戦いになることは請負だ。確実に勝つには、ルール無用の戦いに持ち込まねばならなかったのだ。

「何でしたら、私が翡翠ちゃんと組んで出場しても良かったのですが」
「いえ、貴女たちは兄さんと共に遠野の屋敷を守っていてちょうだい。この戦いは私の役目よ」

 ……勝たねばならない。そうだ、私には、勝ち抜かねばならない理由があるんだ…。


Interlude out.



 ―――着いた。
 日本の誇る、日本一高い山、富士山。だがその景観も、哀れに両断され、壁面には15のリングが貼り付けられている。ここで私達は優勝を争い、戦うんだ…。

「バゼット、コンディションは完璧でしょうね?」
「勿論。全てはこの日のために、あなたと特訓を重ねてきたのだから」

 今日、ここで多くのチームにより、初戦の激闘が行われるんだ。弱い人たちと当たれば良いのだが…。
 ちなみに、本当なら3日余裕をもって着く予定だったのだが、2人して富士の樹海で迷い、空白の2日間を過ごしてしまったのは秘密だ。磁石がきかなかったのには、さすがにビビッたが。シエルが魔術カレーを懐に入れていたので、2人で分けて食べたのも、今となってはいい思い出だ。

「おっと、一番乗りとばかり思っていましたが、他にも先客がいるようですね。えーと、青い髪の男と金髪男の2人組みですね。彼らも参加者でしょうか?」

 参加者…。シエルの指差す場所に、明後日の方向を向いた2人組みが、仁王立ちで立っていた。若い。大方、力が有り余っている最近の若者であろう。
 ―――どうせ私たちにやられる運命の方々だ。ちょっとからかってヤキ入れてやるか。幸い2人組みはまだこちらに気付いていない。抜き足、差し足でそっと近づく。

「…バゼット―――?」



1、「鼻に指を突っ込みーの」青い髪の男の鼻に、指をつっこむ
2、「じゃんけん、死ねぇ……!」金髪男の頭を思いっきり殴る
3、「これが私のフラガラックだ」シャツを脱ぐ

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最終更新:2007年10月22日 17:47