23 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2007/10/19(金) 00:33:40


「ここは……」

 見知らぬ街を抜け出した後、俺がやってきたのは……真っ暗な空間だった。
 地面も壁もない、ひたすら黒い空間に、ところどころ扉が浮かんでいる。
 ……この場所には見覚えがある。
 以前、水銀燈と一緒にnのフィールドに進入したときも、まず最初にこの場所にやってきたんだった。
 曰く、nのフィールドは、そこに居る者の無意識を鍵にして扉を開く空間。
 あの時は、意識を集中させるような感じで、真紅の居場所を突き止めたんだけど……。

「いつになったら、水銀燈と会えるんだ……」

 正直に言って、俺はかなり焦っていた。
 これだけ探しても、まだ水銀燈が見つからないという事態に。
 nのフィールドが無意識を汲み取ってくれるのなら、水銀燈も見つかるに違いない……そう思っていたのだが。
 一つ目、二つ目と違う場所に来てしまった今、俺は別の可能性に思い当たってしまっていた。

「俺は、水銀燈に会う事を、恐れているのか……?」

 nのフィールドが俺の無意識を鍵にする、という大前提が真実ならば。
 俺は、無意識のうちに再会を避けてしまっているじゃないか……?
 だとしたら、俺は二度と、水銀燈とは……。
 絶望的な予感が脳裡をよぎった、そのとき。

「うっ――!?」

 熱い!?
 目の裏で何かが強く弾けたような、そんな感覚。
 思わず目頭を手で押さえつける。

「なんだ……今のは?」

 ずくん、ずくんと、胎動するように頭が疼く。
 でも、強く焼きついたのは本当に一瞬だったようで、もう既に『なにか』は影も形もなくなっていた。
 でも、疼きはまだ続いている。
 顔をしかめながら頭から手を離して……そこで、勘違いしていたことに気がついた。
 疼いていたのは頭じゃない。
 それは、頭を押さえている左手の薬指から発せられていた。
 もしかして、これは……。

「水銀燈、なのか?」

 だとしたら、あの脳に突き刺さるような激しい熱さは……?
 胸の中に、言いようの無い不安が渦巻いていく。
 今、この瞬間にも、なにか取り返しのつかないことが起こっているような……。

「くっ……投影、開始《トレース・オン》!!」

 居ても立ってもいられずに、俺は脳内の撃鉄を起こした。
 そのまま、固有結界に……この世界そのものに、更に深く没入していく。
 ……会いに行く。
 ここにいたって、俺はようやく完全に開き直った。
 四の五の言わずに水銀燈に会いに行く。
 会ってどうするだの拒絶されたらだの、そんなことは後で考える。
 それを恐れて、無意識のうちに避けているのなら。
 構うもんか、その無意識ごとねじ伏せる……!

「……ここだ!」

 有意識と無意識を越えた向こう側、指輪から繋がる線を辿った先。
 そこに指し示された、たった一つの扉へ、無理矢理身体をねじりこんだ。
 そして、俺が向かった先は……。


α:静寂の支配する、礼拝堂だった。
β:オルガンの音がする、礼拝堂だった。

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最終更新:2007年10月22日 21:19