536 :ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc :2007/11/13(火) 19:28:10
起:一号が仁王立ちしていた。
なんと見事な青筋だろうか。ピクピクと芋虫みたいに、額をのたうち回っていらっしゃられる。しかも飼い主は極上の笑顔と来た日には、扉を閉めちゃいそうだ。っていうか閉めたしね。だっておっかねぇよ。
しかしここで引き下がっては、寝床を確保出来なくなってしまう。勇気を出して、もう一度この魔王の部屋へと乗り込もう。いざ行かん。平和を(主に僕の)乱す悪鬼羅刹を打ち倒そうでわないか!
——————————痛いよぅ。
僕に有ったのは、勇気ではなく無謀だったようです。扉を開いた瞬間、拳が空を切り裂き飛来しました。反応なんてする暇ないよ。人間の反応能力の限界を遥か後方に置き去りじゃね? ってくらいの右ストレート。殴られたのが自分でなければ誉め讃えちゃうよ。殴る瞬間、キャストオフしたんじゃないかと疑いたくなるね。目にも止まらぬ……いや、あれは『目にも映らぬ速さ』ってヤツだね。おかげで日本人にしては比較的高めの鼻が潰れてしまったのではないだろうか?
二つの穴に詰められたティッシュをとっても血は垂れてこない。ようやく止まったか……。しっかし驚いたね。鼻からボタボタ血が垂れるんだもん。いや、あれは垂れるなんて生易しいものじゃなかったね。もう溢れ出るって感じ? 骨が逝ってるんじゃないかと心配だ。
なのに魔王は、僕の鼻をワンパンでKOしておいて『床が血で汚れるじゃない、この馬鹿。はやく止めなさいよ』ときたもんだ。アレだね。コイツには人間の心ってモノがないんだ。メガノイドも裸足で平伏しちゃうね。もう逃げる事もできないって感じ? 犬畜生なら、速攻で腹を見せてるよ。
「——全く。こんな時間までどこほっつき歩いてたのよ。逃げ出したのかとおもったじゃない」
537 :ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc :2007/11/13(火) 19:31:55
ここが見知らぬ異世界じゃなければ確実に逃げ出してるね。こいつの側は、某北の国と同じだ。武力コブシによる圧政。恐怖による支配。
「あんたが生きてたら新しい使い魔と契約も出来ないんだからね。あんたを探し出して殺すなんて面倒な手間かけさせないでね?」
ナンデスカ? つまり逃げ出す=死刑って事ですか? まさに『あるくきたのくに』じゃないか。いや、北国なら政治犯として収容所送りだが、コイツは即死刑。サーチ&デストロイ。北国よりもおっかねぇじゃん。
「——それで一体何やってたのよ、この駄犬。あっ、今の無し。あんたと一緒にしたら、犬が可哀想すぎるわよね。う〜ん……なら蛆虫がいいわねっ。なんかぴったりじゃない? 雰囲気的に。で、何しに部屋を抜け出したのよ、蛆」
なんで食事をとりに、部屋を抜け出しただけで蛆呼ばわりされなくちゃいけないんだろう。
「お腹が空いてたんですぅ」
それでも尚、逆らえない自分が悲しいね。
「自業自得よ。御主人様にさからったらどうなるか、これでわかったでしょ? 使い魔は御主人様無しじゃ生きていけないんだって事。あんた一人じゃ衣食住、どれ一つ満足に出来ないのよ。」
悔しいけど感じちゃ……じゃなくて、悔しいけどその通りなんだよね。ここを追い出されたりしたら、生きていくのも難しいだろう。公園でサバイバル生活してる人達も真っ青だね。
「これに懲りたら、御主人様に逆らわないことよ。次は食事抜きなんて甘い罰じゃ済まないんだからね」
でもそんなの関係ねぇ。今、僕は眠いんだ。お腹一杯になったら眠くなるのは古今東西老若男女問わない世界の常識。
うだうだと長ったらしい説教なんて聞いてられないね。一号のこうるさい説教を右から左へと聞き流し、柔らかそうなベットへと倒れ込む。
へぇ、なかなか良い物をつかってるじゃんか。僕が使ってるベットにも引けをとらないかもね。
あっと言う間に、心地よい眠気が訪れる。自分が思っていた以上に疲労が溜まってたみたいだ。————目が覚めたら、この悪夢が覚めてればいいのに……
起:僕達の闘いはまだまだ終わらない。思わず永眠しちゃいそうな一撃で眠気は墓場へ……
[[眠;——疲れたよ、パト○ッシュ……なんだかとても眠いんだ……
起きたら隣に一号が寝ている——なん…だと……>
ゼロの慎二 第11話]]
最終更新:2007年11月15日 21:13