パウワウワウー
聞き慣れた自動ドアの開く音がする。時間は夕飯時の少し後くらいで、何となく眠い。
若干億劫に感じながらそちらに顔を向けると、自分と同年代くらいの女性が入ってきたところだった。
彼女は店内に入ると、少し困ったような顔をして辺りをきょろきょろと見回した。何か探しているのだろうか。
右を向き、ようやくこのレジの存在に気付いたらしい。安堵の表情を浮かべて、こちらに話しかけてきた。
「あ、すみません。このお店、医学書は置いてますか?」
彼女はどうやら医学部らしい、という安易な発想をしてみる。真面目そうだもんなあ。きっと頭もいいんだろう。なんて適当なことを考える。
「あー……はい。ちなみに一番奥の本棚にあります」
医学書なんて滅多に買う人もいないから、どこに置いてあったか思い出すのに少し時間がかかった。
入り口から一番遠いところに置いてあるのは、需要のなさの表れなのだろう。
「ありがとうございます」
彼女はにこやかにお礼を言うと、本棚の向こう側に消えて行った。
しかし、医学書なら生協の方が揃っていそうな気がする。どうしてこっちに来たのだろう。
「ああ、もう向こうは閉まってるのか」
そんなに急ぎの用なのだろうか。荷物の様子からは、明らかに部活帰りって感じだったけど。まだ期末の時期でもないのに、部活帰りに医学書買って帰るとかどんだけ真面目なんだ。
そんなことを考えていたら、彼女は辞書に見紛うほど分厚い本を三冊抱えて戻ってきた。華奢に見えるのに、一体どこにそんな力が……。
「お願いします」
嬉しそうにレジにやってきて、そう言った。何でこんなに嬉しそうなんだろう……これ、参考書だろ?
左手だけで本を持ちあげようとしたけれど、重すぎて断念した。両手で一冊ずつひっくり返してバーコードを読み取る。
「こちら三冊で二万三千百円です」
自分で言ってから、金額に耳を疑った。ついでに目も疑った。しかしレジには確かに23100という数字が並んでいる。
前言撤回。この人、真面目っていうより変だ。こんなものに二万五千円近くかける気が知れない。
彼女がたくさんの荷物の中から財布を探しているうちに、尋ねた。
「袋、二重にしますか?」
自分からこんなことを聞くのは我ながら珍しいが、自分で持った感触として、そうしないと袋が破けそうだと思ったのだった。
「あっ、いえ、この袋にお願いします」
焦ったように言って、丈夫そうなエコバッグを差し出す。探していたのは財布じゃなかったのか。
差し出されたエコバッグに三冊の本を入れる。しかし重いなあ。
「はい、二万四千円お預かりします」
動き一つ一つに無駄がない。計画性のある人ってこういう行動できるんだ、などとぼんやり思った。
「九百円のお返しです」
レシートとともに九百円を渡す。
「ありがとうございます」
お釣り渡してお礼言われたのとか初めてなんですけど。しかも満面の笑みで。
「ありがとうございましたー」
本が入ったエコバッグを軽々と持ち上げると、彼女はこちらに軽く会釈をして店から出て行った。
パウワウワウー
自動ドアが閉まったのを確認して、大きく息をついた。
「ふう……」
変な人だったな、と思った。ここには一風変わった人たちがよく来るけれど、それとはまた何か違う変わり方だ。
「真面目すぎるのも考えものだなあ……」
聞き慣れた自動ドアの開く音がする。時間は夕飯時の少し後くらいで、何となく眠い。
若干億劫に感じながらそちらに顔を向けると、自分と同年代くらいの女性が入ってきたところだった。
彼女は店内に入ると、少し困ったような顔をして辺りをきょろきょろと見回した。何か探しているのだろうか。
右を向き、ようやくこのレジの存在に気付いたらしい。安堵の表情を浮かべて、こちらに話しかけてきた。
「あ、すみません。このお店、医学書は置いてますか?」
彼女はどうやら医学部らしい、という安易な発想をしてみる。真面目そうだもんなあ。きっと頭もいいんだろう。なんて適当なことを考える。
「あー……はい。ちなみに一番奥の本棚にあります」
医学書なんて滅多に買う人もいないから、どこに置いてあったか思い出すのに少し時間がかかった。
入り口から一番遠いところに置いてあるのは、需要のなさの表れなのだろう。
「ありがとうございます」
彼女はにこやかにお礼を言うと、本棚の向こう側に消えて行った。
しかし、医学書なら生協の方が揃っていそうな気がする。どうしてこっちに来たのだろう。
「ああ、もう向こうは閉まってるのか」
そんなに急ぎの用なのだろうか。荷物の様子からは、明らかに部活帰りって感じだったけど。まだ期末の時期でもないのに、部活帰りに医学書買って帰るとかどんだけ真面目なんだ。
そんなことを考えていたら、彼女は辞書に見紛うほど分厚い本を三冊抱えて戻ってきた。華奢に見えるのに、一体どこにそんな力が……。
「お願いします」
嬉しそうにレジにやってきて、そう言った。何でこんなに嬉しそうなんだろう……これ、参考書だろ?
左手だけで本を持ちあげようとしたけれど、重すぎて断念した。両手で一冊ずつひっくり返してバーコードを読み取る。
「こちら三冊で二万三千百円です」
自分で言ってから、金額に耳を疑った。ついでに目も疑った。しかしレジには確かに23100という数字が並んでいる。
前言撤回。この人、真面目っていうより変だ。こんなものに二万五千円近くかける気が知れない。
彼女がたくさんの荷物の中から財布を探しているうちに、尋ねた。
「袋、二重にしますか?」
自分からこんなことを聞くのは我ながら珍しいが、自分で持った感触として、そうしないと袋が破けそうだと思ったのだった。
「あっ、いえ、この袋にお願いします」
焦ったように言って、丈夫そうなエコバッグを差し出す。探していたのは財布じゃなかったのか。
差し出されたエコバッグに三冊の本を入れる。しかし重いなあ。
「はい、二万四千円お預かりします」
動き一つ一つに無駄がない。計画性のある人ってこういう行動できるんだ、などとぼんやり思った。
「九百円のお返しです」
レシートとともに九百円を渡す。
「ありがとうございます」
お釣り渡してお礼言われたのとか初めてなんですけど。しかも満面の笑みで。
「ありがとうございましたー」
本が入ったエコバッグを軽々と持ち上げると、彼女はこちらに軽く会釈をして店から出て行った。
パウワウワウー
自動ドアが閉まったのを確認して、大きく息をついた。
「ふう……」
変な人だったな、と思った。ここには一風変わった人たちがよく来るけれど、それとはまた何か違う変わり方だ。
「真面目すぎるのも考えものだなあ……」
さて、バイトが終わるまではまだ二時間くらいある。本でも読みながら眠気に耐えるかな。
あくびをしながら、そんなことを思った。
あくびをしながら、そんなことを思った。