アットウィキロゴ

プリンセス・オブ・フェアリーテイル~そのいち


「へぇ……、君が噂の【月下】かぁ」
「俺の名前を知ってるのか……」
「そりゃあ勿論、有名だからね」
「……ふ、参ったもんだな」
「でもおかげで私は君に出会えたわけだし。……さあ、やり合おうじゃない?」
「おちつけ!」
「きゃんっ」
 とある月夜のことだった。
 例によって女となった俺――桂木忍――を連れ歩く、アホ毛が眩しい少女鈴本青空は、月明かりの下一人歩く中学生に目をつけるや否や彼の元へと駆け出し冒頭の台詞をのたまったのである。
 ソラの訳のわからないテンションについていく中学生も中学生だが、それより問題はこっちの方だ。
「おいソラ、いきなり中学生に喧嘩売ったりして……、もう少し考えてくれよ」
「……えー、でもー……、有名なんだよこの子」
「有名だからと言って喧嘩売って良い理由にはなりません」
 全く、とため息吐きながら腰に手を当て説教する。
 何というか、女の体を得ているが故に妙に様になっているのだろうなあ、と考えるだけで少し虚しくなってしまう。
 俺の言葉にぶー、と頬を膨らませたソラはそのままの顔で中学生に振り返り……、
「って、連れは言ってるんだけど……、君はやっぱり戦いたいよね? 私みたいに、疼くよね、闘争本能がさ」
「…………だ」
「ん? なに、やっぱり戦いたい!? そうじゃなくちゃ!」
「落ち着け! ソラ!」
「……なんて可憐なんだ」
「「……は」」
 熱に浮かされたような中学生の顔、そしてその童顔には似つかわしくない台詞に、俺とソラの感想は見事に一致した。
 えーと、一体どういう状況?
「ぐ、まずい……、もう一人の俺が……ぐぉ……! ダメだ、こんな可憐な人を傷つけるわけには、だが……!」
「……えーと……?」
 ソラが「どうしたのかなこの子、病気?」とアイコンタクトで伝えてくる。
 むしろ俺が聞きたい。
「あの、大丈夫?」
 とりあえず急に右手を押さえて悶えだしたその中学生を介抱すべく、俺は彼の元へと近づいた。
 右腕を抱え込むようにして屈んでいる彼の背中を優しく撫でつつ、痛いところはないかどうかを尋ねようとして……、
「……しのちゃんどいて! そいつ殺せない!」
「いや殺すなよ」
「違うんだって! しのちゃんの【能力】忘れたの!?」
「……あ」

 失念していた。中学生の様子があまりにもおかしいものだから頭の中からすっかり抜け落ちていたが――。
 俺の夜間能力は【プリンセス・オブ・フェアリーテイル】(ソラ命名)
 夜間には女性としての体を得、同時に悪漢共に襲われ攫われるという宿命を義務づけられた難儀な能力だ。
 相方のソラによって幾度となくピンチを救われ――というか彼女がいなければ多分色々酷い目にあっている――ている俺だったが、最近は割りと悪漢もご無沙汰だったためにこのようなヘマをしてしまったらしい。
 見れば、俺を見る中学生の目は血走っていて色々とまずい。
「この世の理に叛いてでも、貴女にこの魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてみせる! ゴッド・リベリオン!」
「な――んむぅっ!?」
 突如として現われた魚肉ソーセージ(特大)。
 少年は剥き身にされたそれを俺の口へと無理矢理突っ込んだ。
「ふはは、ふははははは! 喰らえ喰らえ!」
「ん、むぅっ……! もゅううっ!」
 少年の手によって、幾度となく俺の口から出し入れされる魚肉ソーセージ(特大)。
 魚肉ソーセージ(特大)は俺の口内を蹂躙すべく、縦横無尽に暴れ回る。勢いよく突き出されるそれが喉を犯し、その感覚に思わず吐き気を覚えた。
 だが、少年の奇行は止まらない。
 俺が俺である限り、少年はただその本能に赴くまま俺を――。
「てぇい!」
「げふぁっ」
「しのちゃん大丈夫!?」
「……ごほっ、が、……ぁ、ソラ……」
 ソラの一撃で、中学生は吹っ飛んだ。どうやら、解放されたらしい……。
 まだ口に咥えられていた魚肉ソーセージ(特大)を投げ捨て、俺は涙目のままソラを見上げた。
「しのちゃん……、ごめんね、私がいながら」
「い、いや……良いんだ、注意を怠った、俺が悪い……」
「ううん、それでもしのちゃんが辱めを受けたことに変わりはないでしょ……?」
「いや、魚肉ソーセージ(特大)を口の中出し入れされただけだから……」
「それを辱めって言うの」
 言わないと思う。
「さて、順番が逆の気もするけど、【月下】クンが起き出したら思う存分殴ってあげなきゃね」
 ぼきぼきぼきりと両手の関節を鳴らすソラ。身長150cm代のくせに、相当な威圧感を放つせいかかなり恐ろしげだ。
 吹き飛ばされた衝撃で目を回しているあの中学生がまた目を覚まし、このソラを見たら二度目のブラックアウトに陥る事は必至と言えるだろう。
 彼はただ俺の能力でこうなってしまったのに過ぎないのに、なんだか悪いことをしてしまった。
 だから俺は、ゆっくりと立ち上がってソラの肩に手をかけた。
「しのちゃん?」
「良いんだ……、俺の能力で、彼はこうなってしまっただけだから。……彼には悪いけど、今日は戻ろう」
「……しのちゃんがそう言うなら」
「せめて彼の名前がわかれば、昼にでもお詫びが出来るんだけど」
「あ、名前なら知ってるよ。岬陽太って言うの」
 何故知っているのか。ついでに通り名らしい【月下】との共通点が皆無な気がする。
「……岬陽太くん、ね。明日は休日だし、彼を捜すの手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ。眠くて使い物にならないかもだけど」


 こうしてまた、桂木忍の夜は更けていく。

登場キャラクター



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年06月23日 15:30
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。