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プリンセス・オブ・フェアリーテイル~そのに


 ギラギラと青空の上輝く太陽は、俺とソラの肌を焦がそうとするかのように、容赦なくその日差しを注いでいた。
 今日――。
 魚肉ソーセージ(特大)事件――岬陽太(月下)なる男子中学生が俺の能力【お姫様《プリンセスオブフェア(ry》】によって錯乱、女体化していた俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてはそれを出し入れさせるという奇行に走り、それを見かねたソラによってぶん殴られ気絶させられてしまった事件だ――から一夜明けた昼のこと。
 俺こと桂木忍と、その相棒鈴本青空は、うだるような暑さの中、かの岬月下少年を捜し街中を歩いていた。
 ソラの言葉によればその少年は何でもかなりの有名人らしく、自身の思い描いた武器を具現化することが出来るのだとか。
 彼の一番得意とする武器は魔剣レイディッシュなる剣で、それはもはや彼自身のステータスであるという。
 聞けば聞くだけ興味が湧くが、何故彼が昨晩望んで具現化した物が魚肉ソーセージ(特大)であったのか。それだけが不思議でたまらない。
「……あづいよー、死んじゃうよー」
「死なないから安心しろソラ」
「無理、もう無理。ダメだよしのちゃん……。ごめんね、私を置いて先に行って……」
「そんな死亡フラグ全開の台詞街中で言われてもな」
 やれやれ、と呆れたように嘆息して振り返り、俺は朧気な足取りで俺の背中を追ってくるソラに目をやった。
 彼女の昼の能力【超睡眠】が半分発動しているのか、瞼は垂れ下がり、前を見ているのかどうかすら怪しい風体だ。
 トレードマークでもあるアホ毛は力なく萎びており、夜半の溌剌とした彼女の印象とは全く真逆のそれを抱かせる。
 とは言っても、その理由の半分には俺の夜間能力があるわけで。俺に彼女を責める権利などないのだ。
 俺の夜間能力は【お姫様《プリンセス・オブ・フェアリーテイル》】。
 男性としての証を持ちつつも女体化、髪の長さに加えBWHの大きさを自在に変えることが出来るようになる下らない能力である。調整が面倒なので常にデフォルト状態だが。
 だが俺の能力はそれだけでは終わらなかった。その能力だけなら、単純に【女体化】とでもいう能力で事足りるからだ。
(現にそういう能力を持つ者もいる)
 俺の能力の本質は【お姫様】という部分にある。
 つまりは、お伽噺のお姫様宜しく、悪者に襲われては攫われる宿命にある、ということだ。
 毎夜毎夜、俺の能力によって錯乱し、俺に襲いかかってくる人間や犬、猫たち。今まで襲われた回数は、もはや三桁をゆうに超えている。
 だが、こうして俺は今も元気に生きている。その理由が、現在進行形で俺の背中に寄りかかり、うとうとしている少女、鈴本青空である。
 彼女の夜間能力【活性化】は、全身の細胞が活性化し、身体能力と回復能力が飛躍的に向上するチートスキルだ。
 もとより我流格闘技を嗜むソラ。彼女に、絶対的な身体能力と超スピードの回復力を加えたその姿はまさに鬼神。
 並み居るチンピラ共をなぎ倒し、彼女はカラーギャングの長として君臨している――というのはまあ別の話か。
 ともかく、彼女がその戦闘能力を持って、俺を攫わんと襲いかかる悪漢共を追っ払ってくれているわけだ。
 しかしその夜中の能力と相反するよう、彼女が昼間に得た能力は【超睡眠】。
 いつでもどこでもすぐさま眠りに落ちることの出来る能力で、現在絶賛発動中というわけである。
「……ソラ?」
「ぐぅ」
「寝てるのか……。やれやれ」
 立ったままでも、やろうと思えば逆立ちしたままでも眠りにつけるソラの能力はわりと厄介だ。
 けれど、夜中は守られてばかりなのだから、昼間は俺がソラをサポートしなければならないだろう。
 俺は腰に回されたソラの華奢な腕を取り、そのまま屈み込んで小柄な彼女を背中におぶう形にした。
 こうすれば、ゆっくりと気持ち良く寝られるだろう。
 幸せそうな寝顔を見せるソラ。彼女の横顔に、俺の心の奥底から湧き上がってくる暖かな感情は何なのだろう。
「やっぱり、俺は重ねてるのかなあ……。なあ、志穂」
 空を仰いで、俺は呟く。
 もはや二度と会うことは叶わない、俺の大事な妹――。
 ソラとは、性格だって、外見だって、全く似ていないけれど。
 それでも、俺はソラの姿に、どこか最愛の妹の面影を重ねて見てしまうのだ。

 探し人は、昼下がりを越え、もうすぐ夕方に近づこうとする頃に見つかった。
 街を少し外れたところにある小さな神社、その境内で涼んでいるのを見つけたのだ。
 あの顔は間違いなく、昨晩俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした岬月下くん本人に違いない。
 側にいる、彼よりも背の高い中学生は……、彼女だろうか?
 なんだか自分よりも青春しているなあ、としみじみ思いながら、俺は彼ら二人の元へと近づいていった。


「くそ……俺ともあろう者がただの一撃で……」
「凄い伸されっぷりだったよね」
「ほっとけ!」
 彼らに近づくにつれて、会話の内容が耳に飛び込んでくる。
 どうやら岬くんは、昨晩のvsソラの話をしているようだ。
 あの後彼を放っていってしまったので、謝罪しなければと思っていたのだが、この分だと無事ではあったようだ。
 僥倖僥倖。
「大体な……レイディッシュさえ出せれば勝ったも同然だったんだよ」
「だからそれ大根……」
「ちがああああああう! 魔剣レイディッシュ! リピートアフターミー!」
「首領パッチソーd」
「それを言うなあああぁぁぁっ!!!!」
 なんだかもの凄くハイテンションな二人だ。実に微笑ましくて、俺は声を出して笑みを漏らしてしまった。
 俺の笑い声に気がついたのか、当の二人がこちらを振り返る。一人は少し怒ったような顔、もう一人は不思議そうな顔で。
「い、いきなりなんだよアンタ」
「こら陽太、初対面の人に失礼でしょ。……すいません、ウチの陽太が」
「誰がウチのだ!」
「ああいや、こっちも悪かったよ、笑ったりして。二人とも実に仲が良さそうだったから」
 本音を告げると、二人は一瞬ぽかんとした顔を見せ、そしてほぼ同時に顔を逸らした。まずい事言ったか、俺?
 いやまあともかく、過ぎたことは気にせず本題に入ろう。うん。
 俺は岬くんではない方――ボーイッシュな雰囲気の女の子だ――に了解を得、彼らの隣に座らせて貰うことにした。
 寝ているソラを起こさないように(【超睡眠】の効果で滅多に目を覚まさないが)ゆっくりと背中から降ろすと、一部始終を見つめていた岬くんが大きな声を上げた。
「あああああああっ! この女!」
「昨晩以来だね。岬……月下くん? 今日は君に謝りに来たんだ」
「謝りに……? って、まさかアンタ……」
「ああ、その事も覚えてるんだね。俺は桂木忍、見ての通り男だよ、宜しく。それで、寝ているこっちは鈴本青空」
 俺の紹介を聞いているのかいないのか、岬少年は俺とソラ、交互に視線をやっては口をぱくぱく開閉させていた。
 まあ、魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした記憶があって、その対象が男で、その行為に多少の喜びを覚えていたのであればその衝撃の大きさは想像に難くない。
 どんまい少年。
「あ、僕は水野晶です。こっちの岬陽太の保護者……かな?」
「よろしく、水野さん」
 言葉の出てこない岬くんの代わりにか、側の少女が応対してくれる。
 水野晶と名乗った少女もまた、岬くんと同じく中学生だろう。ただその背の丈は俺とさして変わらないほどであったが。
「…………それで、昨日の人たちが何の用だよ」
「いや、君に謝罪しようと思って。あの後結局君を放置したまま帰ってしまったからね」
「……別にいらねえ。それよりもその鈴本青空に用がある。舐められた分の借りはきちっと返すぜ」
「あー……ごめん、それは無理だ」
 俺の言葉に岬少年が拍子抜けた顔を見せる。が、これを説明しないことには始まらないだろう。
「ソラの昼間の能力は特殊でね。こいつが全力を出せるのは夜だけなんだ」
 同時に、俺が役立たずに成り下がるのも夜というわけで。
 自分で言っていて情けないね、全く。
「じゃあ、夜だ! 夜に勝負!」
「陽太、無茶言わないの! すいません桂木さん、陽太の馬鹿が……」
「いや、中学生はそれくらい元気な方が良いと思うよ」
 これは偽らざる俺の本心。俺も昔は、岬少年ばりの元気の良さを持っていたものだ。
 今はなんだか、守られる側が板についてるけど。
「……言ってて悲しくなってきたな」
「……?」
「いや、何でもないんだ。しかし岬くん、君はたしか――魔剣レイディッシュなる得物を扱うらしいね」
「ああ、それ大根でもが」
「ああ、それがどうかしたか?」
 何かを言いかけた水野さんの口を勢いよく塞ぎ、岬少年は得意げな顔で俺に続きを促した。

「是非とも興味があるというか……、ああでも夜中ソラと戦ってる間とかはダメなんだよな……」
「なんで夜じゃダメなんですか?」
「俺の能力は【お姫様】っていってねえ……女体化してしまう厄介な代物なんだよ」
 俺の説明に、水野さんはへぇーっと、目を輝かせた。
 ああ、大体そうだ。女子ってものはなんでかそういうことに多少なりとも興味を抱くのだ。
 俺としてはまったくと言って良いほどに無用の能力なのだが……。
 本日何度目かもわからないため息を吐こうとした時、ふと、境内に吹き込む風が異質なものになっていることに気がついた。
 隣の二人も同じようで、岬少年は当たりに素早く視線を走らせ臨戦態勢に入っている。
「……何か来る?」
「この感覚は、猛犬たち……」
 水野さんが、苦虫を噛みつぶしたような顔で呟いた。
 それと同時に、境内の脇に生い茂る雑木林から飛び出てくる猛犬たち、その数四。
「ちっ、またか――!」
「ああもう、まただ……。しかもまだ昼なのに」
 夜ならともかく、昼も襲われるってどーなのよ。嘆息する俺を尻目に、猛犬たちはぐるるるると唸り声を上げていた。
 そして、ぎゅっと右の拳を握りしめる岬少年と、不安そうな顔を見せる水野少女、こんな状況でもお構いなく寝ているソラ。
 なんだか妙な取り合わせだなあ、と感心してしまう俺は、完全傍観に徹することを決めていた。
 岬少年の魔剣レイディッシュが見られるかも知れないじゃないか。わくわくする。
 きっ、と口を真一文字に結び、猛犬四匹を睨み付ける岬少年は、静かな声で、背後の俺に語りかけてきた。
「……桂木……さん」
「どうした?」
「アンタ……戦える……いや、ますか」
「へ」
「レイディッシュは夜限定なんだ……です」
 衝撃の事実発覚! じゃあ昼間の岬少年は戦闘能力皆無と言うことなのか?
 俺がそう尋ねると、
「そういう訳じゃないんだけど、色々限定されてて」
「……そうか……、じゃあ俺も出来る限りのことはやるよ」
 近くに落ちていた長い木の枝を二本拾い、片方を岬少年へと投げ渡す。
 社に陣取ってしまったのが失敗だった。猛犬四匹に道をふさがれた今、寝坊助ソラを連れて突破するのは無理がある。
 とりあえずは水野さんとソラを守りつつ、俺と岬少年で上手く立ち回る他ないだろう。
「桂木さん、昼間の能力は?」
「……出来れば使いたくないんだ。色々な意味で『痛い』から」
「そうか。よし、行くぞ!」
「ああ!」
 俺と岬少年は頷き、同時に駆け出した――。




「つぅ……」
 慣れないことをするもんじゃない、というのは今のことを言うのだろうか。
 威勢良く駆けだしたは良いが、ものの数秒もしない内に猛犬の攻撃にノックアウトされた俺は、雑木林のすぐ側に投げ出されていた。
 頭がじんじんと痛む。現在の戦況はどうなっているのだろう。言うほど気絶していた時間が長くないのはわかるが――。
「って……、あ、血……」
 頭が痛むのはこのせいか。石畳に頭をぶつけたか、俺の額からは血がどくどくと流れ出していた。
 酷い怪我ではないが、軽い怪我でもないだろう。ふらつく足に渇を入れるようにして、俺は何とか立ち上がった。
 岬くんは、水野さん、それにソラは……。
「っ!」
 その時俺が見たのは、社付近で水野さんとソラを守るべく、木の枝をがむしゃらに振るう岬くんの姿だった。
 服は所々すり切れ、切り傷も見えている。全身に怪我を負おうとも、それでも彼は戦っていたのだ。
「……早く、しないと」
 靄がかかったような頭を振りつつ、俺は岬くんの元へと駆け出す。
 足がふらつくが、そんなことを気にしていては始まらない。
 早くしなければ取り返しのつかないことになる。幸い、トリガーは出揃っているのだ。
「――やれる!」
「あ――桂木さん!」
「何してたんだよっ!」
 水野さんの声が響き、岬少年の怒声が聞こえた。
「すまない! だが、後は俺に任せてくれ……!」
 言って、俺は意識を集中させた。額から流れ出る血を、右の掌に掬い集める。
 守るべき対象は、この場にいる全員。皆を守れ。護りきれ。
 この量ならば、Lv2までなら発動できる。倒れた後のことは気にしない。
「護り抜け――! 【騎士の血盟/Lv2】!」
 呟きながら、血を集めた右手を宙に振るう。
 液体であったはずの血は、しかしゼリーのように弾力性を持った物体として、宙を舞う。
 ゆっくりと、スローモーションで宙を流れる血の球。
 頭に思い描くは、全てを薙ぎ払う槍だ。
「鮮血槍《ブラッディランス》!」
 右手を、血の球へと突き出す! 
 俺のイメージに呼応した血の球が、自在に形を変え、やがてそのシルエットを浮かび上がらせる。
 全てが終わった時、俺の右手に握られていたのは、鮮やかな血の色に染め上げられた一振りの槍だった。
「喰らええええええええええっ!」
 四匹纏めて仕舞いにしてやる――!
 勢いよく振り抜かれた鮮血槍は、流れるような動作で猛犬の腹を薙いだ。
 その勢いに、猛犬は皆残らず吹き飛ばされて行く。
 どさり、と重い音が響いた後、叶わないと見たか、猛犬たちが逃げ出す足音を聞き――、
「……疲れた」
 ――俺は意識を飛ばした。



 あの一連の事件から一週間。
 何だかんだで俺は今日も平和な一日を送っている。
「桂木さん!」
「……またか……」
「見せて下さいよ、【騎士の血盟】」
「……勘弁してくれよ。アレはものごっつい厨二で、何というか我ながら恥ずかしい代物で……」
「いや、自分の血を武器として具現化する能力……、たまんねぇ!」
「たまってください……」
「大人気だね、しのちゃん? ……ぐぅ」

 なんだか、岬少年に懐かれてしまったのは……。
 ひとえに、俺の昼間能力が厨二過ぎるからだろうか。やれやれだ。

続く。

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最終更新:2010年06月23日 15:32
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