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追われる者 > 2


騒がしい1班隊員室から漏れる楽しそうな声。
「昨日美味しいスイーツ見つけちゃったの」
「え?どこどこ?」
「ねぇねぇ、この雑誌みた?超可愛くない?」
イサミが入口の前で入りにくそうにしている。
(ここは女子校か?)
「昨日ショップで新しいポーチ買ったの~」
甲高い声が響く。
(6班にでも避難するとしよう)
諦めて歩き出すイサミ。
「え~、そうなんですか」
「そうどす」
真実とトトの声が廊下に反響する。
(暫く居ない間にだいぶん雰囲気が変わったんじゃのぉ)
イサミが小さくため息をつく。
「おはようございます。アシュラ副長」
「だからワシは副長なんぞやらんと言っとるじゃろ」
「しゃーないでっしゃろ?古株なんやから」
「隊長よりも古株って意外ですよね」
「ウチは最初、7班に配属でしたどすからな」
ヤレヤレといった表情で会話を聞き流すイサミ。
「ところでこんなところで、何をしてたんですか?」
首を傾げる真実。
「いい加減慣れなはれって、
アシュラもウチもここしか帰る場所ないんやから」
「みんな興味津々ですよ~」
笑いながら隊員室へと入っていくトトと真実。
(んなこと言われてもよぉ)
苦々しい表情で後に続くイサミ。

「おはようございま~す」
元気の良い声がイサミを出迎える。
「お……、おうよ」
照れくさそうに会釈しながら
素早く部屋の隅にある自分の席につくイサミ。
待ってましたと言わんばかりに、弥生が席にやってくる。
「副長、判子お願いします」
分厚い書類をイサミに手渡す弥生。
「これは?」
「今夜行う掃討任務の許可書です」
書類に目を通すイサミ。
弥生が直立不動で待っている。
「座ってて良いんじゃけど?」
「いえ、大丈夫です」
(こっちが大丈夫じゃないんじゃが)
「やっぱり怖い人なのね」というヒソヒソ声が聞こえる。
イサミが机の引き出しから、判子を取り出す。
「隊長にも判子貰らうんじゃよ」
「当然です」
「あんまり嫁入り前なんだから無理するなよ。
 顔に傷でも出来たら……」
「セクハラで訴えますよ?」
書類を受け取り、トトの机に向かう弥生。
(昔はいちいち反応して、可愛かったんじゃがなぁ)
イサミが少し寂しそうに笑う。

「失礼するどす」
一礼して猫背でラフな格好の霧隠がトトの席にやってくる。
「あれガックン?」
驚いた様子の真実が首を傾げる。
固まる霧隠。
「お知り合いどすか?」
興味津々な様子の他の隊員達。
「ちょっとマミの奴なんで、ヤシャ君と知り合いなわけ?」
「手が早いにも程があるんじゃない?」
「ちょっとハンニャさんに気に入られてるからって生意気ね」
「合コンセッティングしてもらわなきゃ」
顔を真っ赤にした真実が大袈裟に首を振る。
「違いますって!同期なんですって!」
なんだぁという残念そうな声。
ホッと胸をなで下ろす真実。
「ここに配属になってたんだべな」
「うん。ついこの前……」
「ところで、どうしてここへ?」
「今日の夜の7班の配置を相談しようと思ったべ」
「7班って回復専門なんだっけ?」
「そ、オイが唯一の戦闘要員だべ」
「大変じゃない?」
「大体は退路の確保と時間稼ぎだべ。もっと腕を磨けると思ってたべ」
いつのまにか、霧隠の背後を取るイサミ。
「噂には聞いてたが、ワシはそういう向上心のある奴嫌いじゃないけんのぉ」
「うわぁ……」
慌てて霧隠が振り返る。
「ちょっと~、アシュラさん足音消さないで下さいよ」
スピーカーのスイッチが入る音。
作業の手を止める隊員達。
部屋に緊張が走る。
『臨時放送……、帰還中の6班がドグマと思われる一味の奇襲にあい交戦中。
 手の空いている隊員は援護に急行せよ……、繰り返す」

気がつかれぬよう小さく不敵に笑う弥生。
「7班のみんなは大丈夫だべか……」
不安そうな表情を浮かべる霧隠。
「助けに行こう」
真実が勢いよく立ち上がる。
「オイは夜の任務の準備があるけんいけんばい」
「な……、こんなときに……」
軽蔑の視線を向ける真実。
顔を逸らす霧隠。
「夜の任務は大仕事どす。しゃあないことでっしゃろ」
納得のいかない様子の真実。
「おい、小娘いくぞ!」
「マミいくわよ!」
イサミの後に弥生が部屋を出て行く。
慌ててそれを追いかける真実。
「気にすることないどす」
「ええ、わかってます」
突然激しい雨が降り始める。
「なんか嫌な予感がしまんなぁ」
「何も無ければいいんだべが」
顔を見合わせるトトと霧隠。

激しい雨の中、林道の中を走るイサミ・弥生・真実。
「おかしいけん、気をつけい」
緊張した面持ちの真実。
「戦闘に集中しないと死ぬわよ?」
「は……、はい……」
イサミが足を止め、手で合図する。
数十人の武装した男達が茂みの中から出てくる。
「一人は生かして尋問じゃけんのぉ」
イサミは自分に言い聞かせるように呟く。
「マミは他にも出てきたら知らせて」
「了解しました」
イサミと弥生が脇道に飛び出す。
「曲者だ!」
バッサバッサと敵を斬っていくイサミと弥生。
「弱い!弱い!弱い!弱い!」
楽しそうに斬り続ける弥生。
横目でそれを一瞥し無言で戦うイサミ。
最後の一人が断末魔をあげ地面に倒れる。
「しもうた。全滅させてしまったようじゃ」
「この状況じゃ、しょうがないですよ」
地面は雨でぬかるみ、雨と霧で視界は殆ど見えないと言って良い。
「もう出てきて大丈夫よ」
刀を鞘に納めながら弥生が真実を呼ぶ。
3人が脇道を進み奥の茂みに入ると、6班と思われる若い男が倒れている。
駆け寄るイサミと弥生。
「もう大丈夫じゃけんの」
「何があったの?」
目を覆いたくなるような凄惨な現場。
「帰還途中に待ち伏せに遭って……」
息絶える若い男。
地面にへたり込む真実。
雨がさらに激しくなる。
弥生が小声で囁く。
「事態は悪くなる一方ですね。早くしないと手遅れになりますよ?」
「わかっとんじゃが、痕跡が全くないんじゃい」
真実を立たせその場を後にする弥生とイサミ。

その夜
街外れの倉庫。
弥生と真実と数名の隊員がドアを蹴り開け中に踏み込む。
誰も居ない倉庫。
「誰も居ません!」
「見ればわかるわよ」
苛立った様子で中を捜索する弥生。
真っ暗だった倉庫に電気がつく。
シャッターが降りる音。
「あ……」
入口がふさがれる。
物陰に隠れていた数100人の武装したヤクザ風の男女。
後ずさりりする真実。
「別れて分散させましょう」
「わ……、私一人で……」
震える真実。
「大丈夫、絶対に殺させないから」
「3つ数えたら飛び出すわよ」
目を閉じ精神を集中真実。
弥生の数を数える声が小さく聞こえる。
飛び出す真実。
バシュッという何かが斬れる音。
隊員達が次々に倒れる。
「え???」
真実が痛みで思わず目を瞑る。
「ねぇ?殺させなかったでしょ?」
冷笑する弥生。
地面に倒れ意識を失う真実。

倉庫から少し離れた空地。
月明かりに照らされる黒いワンボックスカー。
耳にイヤホンを当てていたトトが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
トトを見る霧隠。
「無線が途絶えたんどす」
「隊長!レーダーに反応が……」
「落ち着きなはれ」
「10……20……30……」
レーダーにドンドン増えていく黄色い丸。
「ウチが出ましょう」
「オイも行くばい」
退路を確保しながら懸命に戦うトトと霧隠。
「いったいどうなっとんじゃい」
イサミが武装した男を斬り倒しながら叫ぶ。

コンテナの上から笑いながらそれをみつめている弥生と風魔。
「お前ほどの人物が本当に裏切るとは思わなかったよ」
「勘違いするな。私はただ自分の力を確かめたいだけだ」
二人に気がついたトトとイサミと霧隠がコンテナの上へ飛ぶ。
「ハンニャはん何してるんどす?」
ニヤニヤと笑う風魔。
「小娘や他の隊員はどうした?」
「マミ達のこと?ああ、斬ったわよ。邪魔だから」
「なんじゃと?」
体を震わせるイサミ。
武装した男が2人の間に着地する。
「邪魔よ」
一瞬で胴体が真っ二つにされる。
「ワシの教えた剣じゃないのぉ?」
「当然でしょ、アンタが潜入任務している間に私は強くなったんだから」
「なに?」
眉間に皺を寄せるイサミ。
「昔のアンタだったら内通者が誰かなんてすぐわかってただろうし、
 この連中だって瞬殺できてたはずでしょ
 アンタは衰えた。もうバフ課に用はない?」
「そんなことのために、こんなことしでかしたっちゅうかい?」
「そうですけど?」
体を震わせるイサミ。
「トト。貴様は小娘の様子を見てこい」
「任せてええんどす?」
「死にたくなければ、小僧を連れて3秒で視界から消えろ!」
「僕も戦います!」
霧隠が刀を構える。
「小僧……、邪魔だ……」
トトの顔を見る霧隠。
頷くトト。
「じゃ任せたどす」
「言っておくが巻き込まれて死んでも恨むんじゃないけんの」
舌打ちして、弥生を睨み付けるイサミ。
「良い目つきだねぇ。本気のアンタに勝たなきゃ意味がないんだよ!」
「弱い犬程よく吠えると教えたはずじゃが?」
斬りかかるイサミ。

翌日
医務室のベッドで真実が目を覚ます。
「い……いったたた」
痛みで思わず目を瞑る真実。
部屋を見回すと、一緒に出撃した隊員達がベットに寝かされている。
「マミはん気がついたんどす?」
「姐さんここは?」
「病院どす」
「あのハンニャさんが……」
残念そうに頷くトト。
「あの子には期待しておったんどすがなぁ」
「何かあったんじゃないでしょうか?」
「わかりまへん。アシュラに刀を向けたらどうなるかは一番わかっとったはずやのに」
携帯電話のアラーム音。
「すんまへん、隊長会議なんどす。また来ますさかい」
会釈して病室を出て行くトト。
人気の無い廊下。
椅子にはイサミがドッシリと座っている。
横に座るトト。
「何か変な気がするんどす」
「どうしたんじゃい?」
「隙だらけの相手に背後から斬りかかって、し損じるような腕やないと思うんどす」
無言でパイプを灰皿にぶつけるイサミ。
「やはりワシにもしもの事があったときに備えて、話しておいた方がよいじゃろう」
「何の話どす?」
「ゴエモンがああなった以上、外から内通者を探すことは難しくなった」
「まさか……」
「ワシは顔も名前も売れすぎておるじゃろ?」
「だからって何もあの子にやらせんでも」
「奴ならゴエモンのように、ミイラ取りがミイラになることもないじゃろう」
「他に知ってるのは?」
「ワシとお前だけじゃ、一応他の隊長各には教えておいた方が良いのかもしれんのぉ
 どう転んでも、ぶつかると無駄死になってしまう」
「何で相談してくれんかったんどす?」
「ワシがこれだけ探して、わからんのじゃからどこに耳があるかわからんじゃろ」
「せやかて、ウチ隊長でっせ」
「だから、こうして謝っとるじゃろ」
「それが謝る態度どすか?」
怒ったように立ち上がるトト。
「これから隊長会議なのに、どない報告したらいいんでっしゃろ?」
「隊長クラスならありのままを伝えても大丈夫じゃろう。
 ただし万が一漏れたら、そのときは……」
「そのときは?」
「問答無用で全員抹殺する。どんな手を使ってもな」
鋭い目でトトを見るイサミ。
「伝えておくどす」
頷くイサミ。

その日の午後
雪白弥生に関する全記録がデータベースから抹消され、
要注意人物リストに加えられた。
またこの日の隊長会の議事録は、
総隊長及び全隊長の許可を得ないと、閲覧できないこととなったが理由は明かされていない。

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最終更新:2010年10月03日 15:24
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