真っ暗な夜。
ときどき黒い雲の合間に、紅い月が見える。
人気の無い薄汚れたアーケード街。
黒服のタルベロス戦闘員や、虎型キメラを小太刀で斬って捨てるイサミ。
爆発する戦闘員。
次々に増えていく戦闘員。
「フォーメーション6!」
数百人の戦闘員達が、素早くフォメーションを変える。
取り囲まれるイサミ。
(アンドロイドじゃし、キリがないのぉ)
イサミが重心を落とし、二刀流の小太刀を構える。
ドンドンと増えていく戦闘員達。
「後がつかえとるけん、一瞬で終わらせちゃるけんのぉ」
フッとイサミの姿が消える。
『熱感知システム起動……』
戦闘員達の目が青く光り出す。
キョロキョロと首を動かす戦闘員。
「無駄じゃて!いくら見えても、反応出来なければ意味がないんじゃて」
バッサバッサと胴体と腹部が切り離されていく戦闘員達。
「小娘も心配じゃし、ちゃちゃっと片付けにゃーの」
狼型キメラが身構える。
誰も居ない闇乃森林公園。
森とアスレチック施設や公園が外観を損なわないように融合されている。
広い公園にアタッシュケースを抱えて立っている藤林。
消えかかった外灯。
「本当にここで合ってるんだろうな」
プリンターで印刷された紙をポケットから取り出す藤林。
グシャグシャの紙。
地図の真ん中の部分が赤丸で囲まれている。
「おっかしいな……」
ボーンボーンという音。
3時を指す時計。
ビュンとふく風。
藤林が思わず手で顔を覆う。
いつのまにか大時計の前に、ヤマトと弥生が立っている。
「この時間にここにアタッシュケースを持ってるってことは、彼が運び屋だろうね」
無言で腕組みをしている黒装束に身を包んだ弥生。
二人に気がついた藤林が恐る恐る近づく。
「アンタらか?買い手ってのは?」
弥生が素早く抜刀し刀を藤林の首筋に突きつける。
少し切れ血がジワッと出た首筋。
「何すんだよ!」
「不用意に近づけば斬る」
チェッと舌打ちする藤林。
「ゴエモン君から聞いてない?合言葉」
「ああ、そういえばあのオッサン言ってたな」
「じゃあ始めるよ?」
頷く藤林。
「紅い月の下で」
「悪魔が笑う」
ヤマトが満足そうに頷く。
刀を鞘にしまった弥生が、アタッシュケースを受け取る。
「おい!バイト代はどうなるんだよ」
「あれ貰ってないの?」
「あのオッサンからは半分しか貰ってねぇよ、アンタから半分貰えってさ」
手を出して報酬を要求する藤林。
「困ったなぁ~。今は持ち合わせないから、僕の出世払いじゃ駄目かな?」
「ふざけんな!こっちはすぐ金がいるんだよ!!!」
顔を真っ赤にしてヤマトに詰め寄る藤林。
ヒュンという音。
「危ない!」
突然ヤマトを突き飛ばす弥生。
外灯に背中をぶつけるヤマト。
鼻先を通過した鎖分銅が地面を割る。
鼻血を出す藤林。
「そこまでよ!ようやく追いついたわ!ドグマ幹部ヤマト・ナギサ、
そして裏切り者雪白弥生!今日こそ成敗してやるわ!」
茂みの中から、赤を基調とした歌舞伎役者のようなメイクをした初芽が姿を見せる。
「転校生???」
首を傾げる藤林。
声の主を見て驚く初芽。
「藤林君!何故ここにいるんですか?まさか既に貴方ドグマの一員?」
「ドグマ?何のことだよ!
俺はただバイトでオッサンからオッサンにアタッシュケースを届けただけだ」
「それ中身なんだか、知ってて言ってませんよね?」
「なもん知るか!俺は金さえ入れば良いんだよ!」
「それはねぇ~。とある研究組織の偉い人の発明品で盗難届が出てるんですよ」
呆れたようにため息をつく初芽。
「こんな時間に夜遊びなんかして、せっかく更生したとご両親も喜ばれていたのに……」
「だから、知らなかったんっつのぉ!バイト代が良かったんだよ!」
「こんな夜中に、ただアタッシュケースを運ぶだけで高額報酬って怪しいと思わなかったんですか?
「思わなかったからここに居るんだよ!」
「頭の中はお花畑ですわね!!!」
素早くダッシュし、藤林の前に立つ初芽。
ヤマトが地面に置かれたアタッシュケースを拾って歩き出す。
「ちょっと待ちなさい!」
初芽の制止を無視してスタスタと歩き出すヤマト。
「
バフ課の人かぁ。任せても良いよね?」
答えを言う前に刀を抜く弥生。
初芽が薙鎌でそれを受け止める。
ガシャンと言う刀身のぶつかる音。
「今日は悪いけど急いでるんだよね」
フフフと笑いながら歩き出すヤマト。
クナイがヤマトの進行方向の地面に突き刺さる。
慌てて右足を引っ込めるヤマト。
紺のスーツ姿の服部が闇の中から姿を現す。
「君は誰だい?見掛けない顔だね」
「答える義理は無い!」
「つれないなぁ……」
「コソ泥風情が興味を示す筈がないと尾行してみれば、ドグマに繋がっていたとはな」
「ゴエモン君死んじゃったの?」
「俺の任務は
ドクトルJのあらゆる不安要素を排除することで、
コソ泥の始末ではない。ここまでいえば要件はわかるな?」
アタッシュケースを背後に回すヤマト。
「これは渡さないよ?」
「ドクトルJの発明品と研究データ。力尽くでも奪還する」
戦闘を始めるヤマトと服部。
何が何やら分からず右往左往する藤林。
地面に置かれたアタッシュケース。
「下がって!」
初芽が自分よりはるかに大きな藤林の首根っこを掴む。
「どうすんだよ転校生!」
「そのデブを守りながら、この私に勝てるとでも思っているの?」
不気味に笑い間合いを詰める弥生。
「あの~藤林君、50m全力で走れますか?」
「当たり前だろうが!デブなめんなよ!!!」
背後の茂みを顎で指す初芽。
「あそこに原付が隠してあるんで、ケース持って逃げてください。
もちろん今夜私を見たことは内緒ですよ」
「でもよぉ」
弥生を見つめる藤林。
「民間人の藤林君を巻き込むわけにはいきません」
「そうだけどよぉ……」
「よそ見とは、偉くなったもんだな!」
目にも写らぬ速さで居合いを繰り出す弥生。
藤林の目には瞬間移動をしたようにでも見えたのか地面に尻餅をつく。
左肩を抑えながら地面に片膝をつく初芽。
「早く行ってください……」
「お……、おうよ……」
地面に置いてあるアタッシュケースを拾い、走り出す藤林。
藤林に向かってクナイを放る服部。
鎖分銅がクナイを弾く。
「邪魔はさせないわよ」
「お前一人で三人を相手にするつもりか?」
次々にクナイを放る服部。
「く……」
歯軋りする初芽。
「よそ見している暇はないぞ」
弥生が初芽に斬り掛かる。
クナイを弾く音。
恐る恐る目を開ける藤林。
「何で小僧がここにおるんじゃい?」
イサミが首を鳴らす。
「先公!」
「あらら~、もう来ちゃったの?」
ヤマトがイサミに斬り掛かる。
それを小太刀で防ぎ、逆の手で斬り付けるイサミ。
「あれれ?さっきから気になってたけど、僕の能力発動してないみたいだね」
「何をぶつくさ言っとるんじゃい」
「まぁ、お互い能力使えないんなら五分ってことだからしょうがないか」
「五分じゃと?」
「え?」
「ワシ等一班がどうして最強と言われるかわかるか?」
「能力が凄い人ばっかり集まってるとか?」
「違うんじゃな、ワシ等15人は全員何らかの古流武術の心得があるけんのぉ」
「武術?」
「そうじゃ、能力にあぐらを掻いてるような奴はおらんっちゅうことじゃ」
距離を取ろうとするヤマト。
「従って能力が使えんくらいで狼狽えること等ありえん」
イサミが腹部に蹴りををいれる。
地面に倒れるヤマト。
真紅の目をした服部が藤林に近づく。
「痛い目に合いたくなければ、それを渡すんだ!」
「何を偉そうに!丸腰なら俺だって!」
藤林が服部に殴りかかる。
軽々とそれを交わし、カウンターをとる服部。
「ふん、体重差考えてみやがれ!」
ふてぶてしく笑う藤林。
無表情で藤林の胸部に一撃喰らわせる服部。
「ば……ばかな」
藤林が仰向けに倒れる。
「発勁とは珍しいもん使いよるのぉ……」
藤林の前に立つイサミ。
その横を素通りする服部。
「体重差など、俺には関係無い……。
約束通り返して貰う」
「ワシらは別にそれをどうこうするつもりは無いんじゃがな」
アタッシュケースの前で止まる手。
「証拠品と押収し人の目に晒すのであろう?」
「まぁ、中身は見るじゃろうが……」
「俺の役目はドクトルJの研究を望まぬ形で世に晒さぬようにすること
最悪の時には闇から闇に葬るように依頼を受けている」
「いったい何もんじゃい?」
「俺の名は服部政宗……」
「覚えておこう……」
アタッシュケースを拾い、暗闇へと消える服部。
「あああ……、逃げられちゃった」
ヤマトが起き上がり服をはたく。
「これ以上の戦闘は無意味だな」
「弥生ちゃんがこの人達全員斬ってくれれば、すぐ追いかけれるんだけど?」
フンと鼻で笑いながら、肩で息をしている初芽とにらみあう弥生。
「こいつ一人ならいざ知らず、流石の私も二人は厳しいな」
両手をあげるヤマト。
「大人しくお縄につくんじゃな」
イサミがヤマトに小太刀を向ける。
「それは嫌だよ。まだバフ課にいくには早いもん」
「どういう意味じゃ?」
「内緒!それじゃ!」
煙玉を地面に叩きつけるヤマト。
一瞬周囲が閃光に包まれ、玉から煙が勢いよく飛び出てくる。
「しもうた!!」
「またね~」
イサミが目を瞑り大きく舌打ちする。
煙が晴れると、そこには初芽が倒れていた。
続く
登場キャラクター
最終更新:2010年10月03日 21:35