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嘘予告編

作者:◆EHFtm42Ck2

 ――クリスマス、終了のお知らせ。

 未曾有の隕石災害から十年。驚異的な復興を遂げた人類は、一握りの暗部に目をつむれば、隕石災害以前と
なんら変わることのない生活を享受していた。

 そう、一年のうち、ただある一日のみをのぞいて。

「我は力を手にした」

 それは、たった一人のある男の手によって。

「クリスマスという忌まわしきこの日を、混沌と騒乱で染め上げる力をな。これは天啓なのだ」

 その男は、強固たる意思と、明確なる悪意を胸に抱いて。

「だから、せいぜい待っていろ。不貞の輩どもよ。この国の安寧なるクリスマスは――」

 その悪意は漆黒の雪となり。クリスマス・イブというその日を。電飾に彩られた街を。そこにあるささやかな人々の幸せを。

「今宵で、オシマイだ」

 ――深々と、蝕んでいく。



「ふぃ~、終わった終わった! 明日からはふっゆやっすみっと!」
「嬉しそうだねー陽太。冬休みの宿題はちゃんとやんなよ?」
「ぐはっ! おい晶、まだ冬休み前日だってのに冬休みの宿題の話するなんざフェアじゃねえぞ! 100メートル走
でフライングするようなもんだぞ! そんな話は冬休みに入ってからにしてくれよな」

 浮かれる厨二少年。窘める年上幼馴染。いつもと少し違うだけの日常。


「ムフ、ミニスカサンタ……なんと甘美なる響き。ミニスカなのにサンタ。サンタのくせにミニスカ。寒空の下
太腿とヘソを露出させるという風邪引きルートまっしぐらな格好で鳥肌を立たせながらも気丈に微笑むあの健気な
姿よ……ムフッ、ムフフフフゥぅぐほおぅっ!!」
「はーい陸いかがわしいこと考えてないでバイトちゃんとしてねーっと」
「は、離せ香織! すぐそこにミニスカサンタがいるんだぞ! それを放置しとくなんてどんな修行だよぅごほおぅっ!!」

 狂喜する変態。追撃する女子高生。いつもとほとんど変わらないはずの日常。

「へくちゅんっ」
「ん? アイリン、寒いんか? ほれ、マフラー貸してやるから」
「あ、んーん。平気だよこーちゃん。ちょっとお鼻がむずむずしただけだもん」

 少し頑固なハーフ少女。優しくマフラーを巻く猫耳男。

 等しく、普段よりも少しだけ華やかで心躍るだけの、穏やかで平和な日常。そのはずだった。



『黒雪だるまだあぁぁぁ! 黒雪だるまが出たぞおぉぉぉ!』
「ハルっ、だいじょぶ!? く、黒雪だるま……こいつ今空から降ってきたよ雪だるまなのに!」
「や、やっちー……黒雪だるまを、馬鹿にしちゃ……ダメ……がくっ」
「ちょ、ちょっとハル! 「がくっ」って発音しない! ふざけてないで起きてよ! 黒雪だるまが……あれ? 嘘、何これ?」

『……ただいま入ってきたニュースです。「Mr.ブラックスノー」率いる「黒雪だるま軍団」が、いよいよ首都圏
付近まで迫ってきているとのことです。一団は主にカップルに嫌がらせを行いつつさらに南下。東京の中心街に
達するのも時間の問題と見られています。万全の警戒を……』

「やっぱ今年も来るんスね、あいつは」
「まあ、わかりきってたことだ。だが今年はいいようにはさせん」
「お。自信満々ッスねシルスク隊長」
「当然だ。今年はバフ課全隊を以ってこの件に当たることが決まったからな」

 北国より襲い来る黒い影。そして動き出す、平和の護人達。

「それにしても、たった一人の異常な能力犯罪者相手にバフ課が総力戦とはの」
「フン、嫌なら帰ってくれて構わねえぜラツィームのおっさん。俺もあんたと肩並べて戦うのなんざこれっきりにしてえし」
「ふむ、その言葉、そっくりそのまま返してやるとしようかの毒竜」

 衝突しあう男達。固く譲ることない、隊長としての矜持。

「くっそ、黒雪だるまの数が明らかに増えてきてる……! このままじゃ……」
「ちょっとちょっとー! ラヴィラヴィあきらめるの早いってー!」
「そうね。クリスマス・イブはまだ長いのよ。キングも姿を現していない今、一部隊副長のあなたがそんなんじゃ困るわね」
「し、シェイドさん! マドンナさん! 来てくれたんスね!」

 戦いの中で初めてわかり合う戦士達。芽生え始めた連帯感。バラバラだったバフ課にもたらされる団結。そして――

「メリークリスマス、バフ課の諸君」

 宵闇の街に舞い降りる、漆黒の侵蝕者。



「フハハ、残念だね。実に残念だ。結局最後まで立っていられるのは、今年も君だけだね。シルスク君」
「くっ……Mr.ブラックスノー、貴様は……どうしてここまでクリスマス・イブに執着するんだ」
「どうして……? ああ……? どうして……なんだ……? フ、フハハ……もはや我は、その目的さえ忘れてしまった」

 問われる罪。凝り固まった、澱んだ悪意の残滓。ただそれだけが、男を突き動かす源。

「炎で囲むとは……シルスク君、君はつくづく何を考えているのかわからん男だよ」
「Mr.ブラックスノー。そこにどれほど酌むべき理由があろうと、貴様はただの能力犯罪者だ」
「能力……犯罪者……フ、フフ、ハハハ……ならば君は、我をどうする?」
「決まっている。俺がバフ課の一員である限り、その質問には答えるまでもない」

 漆黒に染まる空。そこから降りしきる、同じ色をした雪。その下で煌煌と燃え上がる、赤き炎の奔流。
 黒と紅のみが存在する世界の真ん中で、二人の男は激突する。それぞれの矜持のみを、その胸に抱いて。

「能力犯罪者Mr.ブラックスノー、観念しろ。貴様が主役のシケたクリスマスパーティは――」
「今宵で、お終いだ!」


 『劇場版Changeling・DAY ~バフ課壊滅! 漆黒が蝕む聖夜(イブ)~』


「なあシルスク、見ろよ。雪だぜ。久しぶりのホワイトクリスマスだ。ほら、見ろって……目……開けろって……頼むから……」


 ――12月24日。列島が、侵蝕される。


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最終更新:2010年12月26日 18:25
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