INTERESTED
人は一人でも生きて行ける。
衣食住さえ整えば満足して生きることだってできる。
しかしそれでも人は
誰かとの一時の交錯にほほ笑み、一時のすれ違いに涙する
在る人はこれを無駄といった
在る人はこれを美しいといった
答えは何?
貴方の答えは何?
「あぁぁぁぁー、ホントについてないよねー、私って人間は。」
「でぇすぅよぉねぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
私のこの公晴高校での初めての友達。山本やまもと小豆あずきはさも満足げにたこさんウィンナーを口に次々と頬張っている。
「このウィンナーの美味しさは格別だよぉー。」
「そんな話、誰もしてねぇよ!?」
怒りをあらわにした私の雄叫びが教室中にこだます。
「まっ、貧乏くじ引いたと思って早々に諦めっちゃってさ。まぁ精々頑張んなって。生活委員会も案外やってみたら楽楽ちんすこうかもよぉぉ、なーんちって、にししししし。」
「って、そんなわけあるかいぃぃぃ。」
一人で乗りノリツッコミまでこなす小豆のハイテンションぶりをよそに私は続ける。
「でも確かに噂だけでさぁ、いまいち具体的にどう厳しいのか分かんないんだよねぇ。」
「にゃははははははははははははははは。」
くるりとこちらを向きかえるないなや高らかと笑う小豆。初対面から思っていたがこんな笑い声良く出るよな……。アニメのキャラかお前は……。
「あんたホントに何にぃも知らないんだね。教えといてあげるけどさ。ここ生活委員は半端無いよ。まず欠席なんてできないしぃ。」
ま、あたしには関係ないけどさぁ と続ける小豆。
「何で生活委員だけそんなに厳しいの?他は普通なんでしょ?そしてなんで小豆はそんなに詳しいの?入学して半年経ってないでしょ?」
私は思わずイスから身を乗り出していた。クラス中の驚きの眼が私を睨む。
「年数は関係ないんだよ。こういうのはね。それより……。」
私のツッコミに小豆は待ってましたと言わんばかりの顔をした。
本当に食えない奴だ。
「人に頼みごとをするときにはまず順序ってもんが有るんじゃぁ無いんですか?山田文子さん?」
そう言って彼女は、私のお弁当の中に愛らしくちょこんとたたずむショウガ焼き君をまじまじと見つめた。
こうやって私は生活委員になったばっかりに時間のみならずとうとうおかずまでも失ってしまうのか……。
「事の起こりは十数年前……。」
口をリスのように膨らませた満足げな表情で小豆は続ける。
「不良でまみれてたどぉーしようも無いこの学校に一人の男子生徒が転校してきたんだって。でさぁ、その人が転校してきてわずか数日のうちに不良の親玉だった極悪風紀委員長をリコールしちゃってよ、自分が風紀委員長に成ってこの公晴学校を改革しちゃったりしたんだと。で、その時にもうこの学校の名誉が二度と不良によってけなされることの無いようにとか何とかカッコいい事言ってさぁ、生活委員会を風紀委員会の下部組織においてぇ、風紀委員会の勢力を拡大してぇ、そののちにぃ、二つまとめて風紀軍団と名付けてさぁ、でっもてぇ、生徒会にも勝るような権限を与えちゃって、そんだけじゃぁ意味無いってんでぇ、それと同時に組織構造を鉄の掟で固めてより強固なものにしたんだとよ。なんでも、それを破ったら反省文どころか、風紀委員長自ら制裁してくださるらしぃぃすよぉぉぉ。こわいよねぇぇぇぇ。ホラーだよねぇぇぇぇぇ。」
ま、あたしには関係ないんだけどさぁ と続ける小豆。
話に余計な物がはさまっていて良く分からなかったが要するに生活委員会は風紀委員会と繋がっているから(サボれなかったりだとか)色々と大変なのだ。ということか……。
「まぁ、半分くらいしか分かんなかったけど、もういいや。」
お弁当をしまいながら吐き捨てるように私は言った。奴の顔はあえて見ない。奴の美味しい物を満足げに食らう顔など見てたまるか。
「今日は塾もあるし、大変なんだ。嫌な事を気にするのは明日からにして、とりあえず今は昼休みを満喫しないと。もったいないよ。明日は明日の風がふくとかっていう言葉もある事だし。」
私がお弁当をしまうために後ろを向いた、その時、私は背中に激しい悪寒を感じた。後ろから聞きなれた声が鼓膜を揺らす。
「じゃあ、良かったじゃんよ。大変な日に成らなくて。まぁもっとも別の意味で大変かも知んないけど……。」
振り向くと意味ありげな微笑を浮かべて小豆はこちらを見ている
まさか!!!!
「御明答。」
全てを悟った私に、彼女は冷たく言い放つ。その赤い唇はあり得ない程綺麗に歪んでいて、逆に綺麗な形をしていた。どうやらもう私のショウガ焼きを食べ終わったらしい。
「山田やまだ文子あやこさんが配属になった生活委員会広報部は今日の放課後に顔合わせが有りまぁす。」
何という事だ!!!!
容赦なく小豆は続ける。
「何という事だ!!!!みたいな顔しちゃってさ。おもしろすぎでしょ?誰かさんが絶望感に浸ってた四時間目の終わりに先生が大声で仰ってましたよぉ。」
その時私は胸に誓った。コイツだけは許さん。
「ま、安心しなよ。今は昔ほど制度も厳しくなくなって、誰か代理立てれば休んでも良いみたいだし。まぁ、入学したてのこの学校で、わざわざ大して仲も良くないような赤の他人に近い文子さんのためを思って、代わりに放課後潰してくれるようなお人よしなんて珍しい人種はそうやすやすと見つかるとは思えないけど……。」
前言撤回ぃぃぃぃぃぃぃぃいぃ!!!!
もう私にはコイツしかいない。このコンチクショウに頭を下げるのはしゃくだが手段は選べないのだ。私は腹を決めた。
「あぁのぉ、小豆様ぁ、明日なんか奢りますからぁ、どうか今日の当番代わって下さいよぉ、金曜は塾なんですよぉ、お願いしますよぉ。」
一応これでも友達なんだ。奢るって言っているんだし、小豆もそんなに無碍にはしないはず……。
「その誘いは結構魅力的だけどさぁ、残念、今日はあたしも放課後外せない用事が有るんだよねぇ。力にはなれないよ。」
そう言い残して嫌な笑みを浮かべながら彼女は教室から出て行ってしまった。私にはその後ろ姿を見送る事しかできなかった。
前言撤回を撤回ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
やっぱりあいつはろくでもない。出会ったときからそうだ。
「はぁ、とりあえずさがしてみるかぁ。」
気を落としていてもしょうがない、元々駄目もとだったのだ。それにこの高校にも中学時代の友達は数人いるし、頼めば一人くらいは空いているかもしれない。
私はとぼとぼと一年D組を後にした。
?
私には分からない。
今私にできるのはこうやって頭を抱える事だけだった。
何故だ。何故なんだ。
どの友達に頼んでも、皆一様に顔をそらし、眉をハの字にして
「今日は私も用事が有るんだ……。ごめんね。」
と言い残すばかりだった。こんな言葉を聞くために私は昼休みを半分潰して歩き回ったと言うのか!私が聞きたいのはそんな返答では無いのだ。
しかし、今の私には彼女たちのその言葉が嘘なのか本当なのか知るすべは無かった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
溜息を吐くと幸せが逃げるというが、構うものか!もうすでに私の幸福の残高から逃げるだけの福がどうして残って居るというのだ!
私は何だか鳥にでも成りたいような気分だった。
その時だ。
「そんなに溜息をついていてはただでさえ少ない福が逃げてしまいますよ。山田文子さん。」
聞きなれない声だった。
顔をあげるとそこには一人の男の子が居た。髪はとても薄い茶色をしていて、むしろ金色に近かった。目の中も同様に薄い色をしていた。肌は真っ白で雪のようだ。何だか、全体的に色が薄い……。そういえば前に聞いた事が在る。確か遺伝子異常が起きてある酵素が働かなくなると化学反応が起きず、全体的に色の白い、色素異常を持った子供に成るらしい。
私があんまりにまじまじと見るので、彼は怪訝そうな顔をした。
「僕みたいな人を見るのは初めてですか?」
彼は無表情で尋ねた。
私はこの人に不快な思いをさせたのだと思い、申し訳ない気持ちになった。
「いや、そんなつもりは無くて、ただ、綺麗だなぁと思って……。」
「綺麗?」
彼は少し眉を近づけ、私から顔をそらした。何か考えているようだった。私は余計に彼を不快な気分にさせてしまったのかと思い、困ってしまった。しばらくして、彼はふと、我に返ったように続けた。
「すみません。少し考え事を……。僕は朝日奈あさひな直興なおおき。貴方と同じ一年D組で出席番号は一番です。以後お見知りおきを……。今日は貴方に提案が在って話しかけたんですが。」
聞いていただけますか? と彼は続けた。凛としていて筋の通った聞きとり易い綺麗な声だった。
私が まぁ良いですけど……。と答えると彼は今度はほほ笑みながら続けた。
「今日の生活委員会の集まりは僕が代りに出ましょう。」
私は一瞬信じられなかった。喜びで体が震えるのを感じた。しかし、どういう事だ?なんで今会ったばかりの人がどうして私の代わりに生活委員会に出るなんて言う提案をしてくるのだ……?
私の混乱をよそに、彼は続けた。
「その代わりに、僕が友達を作るのを手伝ってくれませんか?」
真剣な顔だった。確かに顔はほほ笑んではいるが目線は真っ直ぐ私の奥まで突き刺さるように入り込んでくる。こんな事をこんなにも真剣な顔で言われると逆に何だか面白かった。しかし、悩む余地のない事は明らかだった。私は静かにうなずいた。
「あ、あの、朝日奈君?でいいかな?」
「それは、あまりよくはありませんね。僕、その名字は好きではありませんから。直興で構いませんよ。」
笑顔のまま彼は言った。
いきなり初対面の男の人を名前で呼ぶのには抵抗が在ったが、とりあえず私は続けた。
「な、直興…君。友達を作るのを手伝うと言うと……その、誰か良い人を紹介するっていうことなのかな?私は何をすればいいんだろう?……。」
彼は一瞬困ったような顔をした。そしてしばらくしてまた笑顔で話し始めた。彼のそのほほ笑みは絵にかいたようにきれいだった。
「聞いてもなんだかメルヘンチックで信じられないかもしれませんが、実は、僕は昔から体が弱くて、学校にもあまり行けていなかったんです。だから、どういう風にして友達を作ればいいのか、友達が一体どういう物なのかもあまり知らなくて……。自分ではもうそれでも良いと思っていたのですが半年前、約束をしたんです。」
「約束……?」
「はい、半年前、僕の恩人と約束したんです。半年後、会うときにはちゃんと、悩みを相談できる友達を作っているって。なんだか、お恥ずかしいですが、まったく思うようにいかず、どんな本を読んでもあまり参考に成る事がなくて。今年の夏に会うっていうのに、春も真中にきたこの時期に成ってもあまり進展がなく……。」
成るほど、聞けばなかなかに健気な話だ(本当なら)。しかし、世の中こんなにうまい話が在るものだろうか?考えてみたが、私には彼がわざわざ嘘をついてまで私にこんな甘い提案を持ちかける理由は一向に思いつかない。とにもかくにも彼はともかく友達が欲しいらしい。とりあえず私は彼に協力することにした。
「分かった。私に協力できることならお手伝いするよ。」
彼の話や態度について疑問に思う事は二つ三つでは無かったが、五時間目がはじまり、先生が教室に入ってきたため、その場はそれでお開きになった、彼、直興君は、どうか放課後の事は僕に任せて下さい、というような事を言って自分の席に帰っていった。
私は、何だか面倒な事に巻き込まれてしまったなぁと思った。
「はぁ、しかしホントに、そんな契約するなんて、ホントに、頭悪いかよっぽどお人よしかどちらかですよ?文子さぁん。」
「なにもそこまで言わなくたっていいじゃないのさ。だって、その話が本当なら彼、あんまりにもかわいそうじゃない。おかげで私も今日塾に行けたし、お互いさまよ。」
本当ならねぇ…… と呟いて、小豆はいかにも呆れましたと言わんばかりの顔をした。
「やはりバカの方か……。」
「なによ!それが友達に対する言動か。この人でなし。」
「人でなしなら、こんな夜遅くにわざわざ時間割いて友達の
忘れものをとりに行くのを手伝ったりしませんよぉだ。もう一〇時半なんですけどぉ。まったく。えっと、何だったっけ。その……。」
「USBよ。今日の六時間目の情報の授業で使ったんだけど、差したまま忘れちゃったのよ。」
うかつだった、情報の授業でUSBを持って来いと言われていたのを忘れていた私は、常時持ち歩いているピンク色の秘密のUSBを使ってしまったのだ。しかもその上、あろうことかそれをコンピューターに差し忘れて帰ってくるとは……。何だか自分で自分が情けなかった。
「そんなの明日でいいじゃないすか隊長ぉ。それより、早く帰って寝たいっすよぉ……。」
全く、お前はそれが隊長に対する言動か……。そう悪態をついて私は続けた。
「それがさぁ、あそこにどぉしても見られたくない物が有ってさぁ、そういう訳にもいかないのよ。何としてもあれを持って帰らないともう不安で眠れないよぉ。」
「成程、それで貴方のそのエロ画像保守のためにこの友達思いで善良な私が駆り出されているという訳ですか……。」
「誰もエロ画像なんて言ってねぇよ、バカ小豆!!!!」
「まぁ、そんなこんなで着き来ましたよ。我らが公晴学校に。」
顔をあげるとそこには巨大なコンクリートの塊が横たわっていた。学校というのは昼見るのと夜見るのでは驚くほどに雰囲気が違う。世の中の建物でこんなにも豹変する建物はあまりないだろう。
はっきり言って、怖い……。
その時、急に背中に強い衝撃を受けた。声に成らない悲鳴が腹の中でこだます。
「はぁ、なんて情けない顔してんすかぁ隊長。尻込みしてないで早く行ってきてくださいよぉ。もう私ねむいんですからぁ。」
どうやら小豆に背中を押されただけらしい。彼女はそう言うとトトロのようにおおきなあくびをした。本当にコイツのこの肝の太さには時々驚かされる。
「まさか、一緒に来てくれないんですか?小豆元帥?」
小豆は無言でグーサインをした。どうやら腹をくくるしかないらしい。
「分かったよ。そこで待っているがいいさ!なにもせずただ待って見守ってくれるがいいさぁ!」
そうだ、そもそもは私の問題なんだ。あまり小豆に迷惑をかける訳にはいかないのだ。
早くも門に寄りかかって寝ている小豆をよそに私は校門を乗り越えた。
速くしてしまおう。早くすればなにも怖くない……。
門から降りると私はコンクリートの上を駆け、階段を跳ね上がった。やっと昇降口だ。
私たちの学校には新校舎と旧校舎に分かれている。なんでも小豆の話によれば旧校舎の方の昇降口のドアは外からカギを掛ける仕組みに成っていいて、しかも校内にはたまに警備員が徘徊している程度であるらしい。
彼女の情報力には感心するばかりである。
ドアのカギを開けて、とうとう私は校内に侵入した。
寒い。津々と冷たい風が私の方に刺さる。校内に入ると空気は余計に冷たさを増した。自分の下駄箱の位置が手持ちの懐中電灯だけでは暗くて探せないので、私は土足のまま校内を歩きまわることにした。意識しないうちに足取りはどんどん速くなる。寒いのに体からは汗が出た。私の学校の昇降口は二階にあるので、旧校舎の一階にあるコンピュータールームまでは階段を上り降りしなくてはならない。なんとも面倒だ。
足もとがよく見えない。慎重に階段を下りなくては足を踏み外してしまいそうだ。全く、こんな手のひらサイズのメイドインダイソーの懐中電灯なんて持ってこずに、重くてももっときちんとした物を持って来るんだった……。私は過去の愚かな自分を殴ってやりたい気分になった。
手すりにつかまって、一歩一歩慎重に踏みしめてゆく……。何時もは聞こえないような自分の足音や、吐く息の音までもが、鮮明に校舎内にこだました。
やっとコンピュータルームだ!
ガラガラガラ
何時もは心地よい戸を引く音でさえも今はこれ以上ないくらい不気味に聞こえた。
そっと部屋に足を踏み入れる。何十台ものコンピュータが鎮座している様には得も言われぬ威圧感が在り、それが私をより不安にさせた。
私は大きく息を吐いた。落ち着かなくてはいけない。落ち着いて、早くココを抜け出すのだ。確か私が使っていたのは、一番窓際の列の前から三・四番目のコンピューターであったはず……。
そっと窓際に忍び寄る。自分の忘れ物を取りに来ているだけなのに、まるでドロボウの気分である。踏みしめるごとに上履きに伝わるやわらかなカーペットの感触には筆舌に尽くしがたい不快感があった。窓際にたどり着くと私は手当たり次第にコンピューターの側面に手を伸ばした。ザラザラとした埃の感触が伝わるばかりで、一向にUSBは見つからない。
涙のように大きな汗がつたって、頬を落ちてゆくのを私は肌で感じた。
その時だ、何か固く飛び出た物が私の指に当たった。
「あった。私のUSBだ!」
そう叫ぶやいなや私はUSBを引き抜いた。私は思わず喜びで震えた。あとは帰るだけである。たかだか一〇分そこらの時間なのに、私には今までの道のりがとても長いものに思われた。全身が安堵で包まれていた。
ガタン
なにかが動いた音だった。私が気付かないうちに何かを押したのか?それとも……。その時私の安堵感はその瞬間から恐怖に代わった。声にならない悲鳴が全身を這い回った。なにも考えられなかった。とにかく走って、走って、走った。
文子、
誰の声だろう……。
コラ、文子。起きなさい。遅刻するわよ!!
「はぁぁぁぁぁい。」
私はあくび交じりの声で返事をした。母に起こされていたらしい……。
気がつくと私は家のベッドの上だった。
「なんだ、夢か。」
こんな年にもなって夜の学校でお化けにあう夢だなんて。全く私も少しどうかしているのかもしれない。そう思いながらも私は心のどこかで安心していた。しかし、それにしても本当にいやな夢だったぁ……。安堵感で体が緩む。思い切って背伸びをすると、何かが頭の上から落ちて私の足にぶつかった。
「痛っつ。」
ふと足元をみると、そこには一つのUSBが落ちていた。手からでも落ちたのか……。
良く見ればそれは私のピンクのUSBと形はよく似ていた。同じ物かもしれない。しかし、色は似ても似つかなかった。赤い、血のように赤だ。
どうやら私は間違えて誰か違う人のUSBを持って帰って来てしまったらしい……。となると、昨日のことは……
「夢じゃなかったんだ。」
全身の血がサァッとどこかに吸い込まれるような、恐ろしい心地がした。
─―このUSBによって私の生活が一八〇度変わるとは、その時私は知る由もない─―
最終更新:2013年09月21日 23:51