大騒ぎとなった昨夜から一夜が明けた日曜日の午前10時すぎ、この騒動の中心にいるであろう少女、天江衣は今日の待ち合わせ場所である繁華街の駅前にある噴水広場において、彼女と同じように騒動の中心人物である宮永咲の到着を今か今かと待っていた
待ち合わせの時間は午前10時。しかし、その時間を30分程度過ぎても咲がやってくるような雰囲気は全くない。さすがの衣も少し心配になってきたのか先ほどから妙にそわそわとした言動を繰り返していた。
噴水広場は今日が日曜日であることも手伝って、いつもよりも人通りも多くにぎやかだ。
そんな中で、多くの人が衣の近くを通り過ぎていく。そんな人の流れを一瞥して衣は一人、ぼやいた。
「咲・・・遅いな。まだ駅に着いていないのか?」
衣は透華の家の車で送られてきたのだが、咲は普通に電車移動。
来る時間がかみ合わないのは仕方のない話だけれど、時刻表通りに電車が動いている状態である以上、咲はこの駅に着いていると仮定できるといえよう。しかし、そうすれば咲の姿が見えないのはさらにおかしい出来事である。
「道に迷っているのか・・・・?」
衣は辺りを見回し、咲の姿を探すが、勿論いるはずもない。
探しに行きたいのは山々だが、衣にはこの場所から動けない理由がある。その理由とは、透華の言いつけである。
衣本人には自覚は無いが、衣は言うまでもなく方向音痴といわれる人間だ。変に動きまわれば二人ともども道に迷って、デートどころではなくなってしまうだろう。
そのことをもちろん知っている透華はこのデートの成功のために衣が変に動きまわらないようにけん制を入れておいたのだ。
そんな裏事情など知る由も無い衣はその言伝をきちんと守り、噴水広場に留まって咲を待っている。
「咲・・・どこにいるんだ?」
衣は表情を暗くし、俯きながらコンクリートの台に腰掛けて足をパタパタと動かしていたのであった。
一方その頃、気になる本人の咲はというと・・・・
「うぅ・・・道に迷っちゃったよぅ」
案の定、道に迷っていた。
咲が迷い込んだそこには本人が思い描いていたような、賑やかな繁華街ではではなく、バーやクラブなどが多く立ち並ぶ商店街の裏側のような景色が広がっていた。
本当のところ、現在咲がいるのは衣が待つ噴水広場の反対側にあるさびれた商店街の路地であった。どうやら駅の出口を間違ってしまい、逆方向に歩いてきてしまったようである。
「うぅ・・もう10時半近い・・・。衣ちゃん怒ってるかなぁ」
不安げな表情を浮かべる咲は少し瞼に涙を浮かべつつ、ゆっくりと、また逆方向へと歩みを進めていく。
目の前に広がる見たことの無いような景色に咲は嘆息しながら呟いた。
「はぁ・・これからどうしよう」
肩を落としながらとぼとぼと歩く咲。
その様子からは強い落胆の色が窺え、少し痛々しくも思えた。咲が一人で来たことに後悔を感じ始めたそんな時、咲の肩がポンッと叩かれた。驚いた咲は後ろを振り返る
「!!あなたがなぜここに!!」
―それから30分位後の噴水広場―
「宮永咲はまだですの!?」
「まぁまぁ、とーか落ち着いて・・・・」
「・・・決戦どころか戦いにもなってねぇじゃねぇか」
咲が来るべき道を逆行していたその一方で、衣の観察に来ていた透華たち、龍門渕軍団は夏の季節柄には到底そぐわない黒のスーツ、黒いサングラス、黒い帽子の怪しさ爆発の3点セットを身につけて衣のいる噴水広場から数10メートル離れた公衆トイレからその様子をうかがっていた。
最初こそ士気も高く、何だかんだとと言いながらも一や純からも楽しみそうな様子が感じられた。しかし、すでに待ち合わせの時刻から30分以上が経過した今は噴水広場にいる衣の表情と重なるようにその士気も低下していた。
「・・・まったく、だからやめようって言ったんじゃねぇか」
「なっ!?最初は貴方も乗り気だったじゃありませんの!!」
純のこぼした独り言に過剰反応を示す透華。それを見た純は頭を軽く掻いてから透華に言う。
「少しそういう気になっちまったのは認めるけど、やっぱりそういうことはよくねぇんじゃねぇかと俺は思ったわけさ。」
「やっぱさ、他人の交友関係に他人が干渉するのは良くないんだよ。ロクな事になんねぇ」
「・・・どういうことですの?」
純の話がよく理解できなかったのか、首を傾げる透華。その方に純は改めて向かい直して答える。
「極端な話、もしかしたら俺たちが手を加えようとしなければ、ちゃんとあの二人は会えたかもしれないだろ?変に手を加えない方がかえっていい結果を生むかもしれないし。だからさ、今からでも間に合う。ここから離れようぜ?せっかくの日曜日だ。みんなで買い物に出m」
諭すように透華をやんわりと説得しようと試みる純。
しかし、それを言い終わるよりも先に透華は早い口調でまくし立てるかのようにこう言い放った。
「きゃっかですわ!!せっかくお茶会をキャンセルしてまでここに来たのに、このまま引き下がるなんて・・・・そんなことをしたらこの龍門渕透華の一生の恥!!ぜったいにおそんなことありえませんわ!!!!!」
とキッパリとした調子で体を踏ん反り返すようにしながら透華は言う。
それを聞いた純ははぁっと一つ深いため息を吐くと、もう一度説明をするようにしながらこう言った
「なぁ、透華。俺が言いたいのは」
「何を言っても却下ですわ!!!!!私は衣をお預かりしている身・・・勿論、衣の友人関係を助けるのも私の務めです。だから、引くわけにはまいりません!!!」
「それが大きなお世話なんだって昨日から言ってるだろ!!!!!」
「あーあ、始まっちゃった」
ついに意見が対立してしまった透華と純は口論を始めてしまう。
いつもならば一がすぐに二人の間に入って宥めるような場面であるが、今回はどちらにも強い気迫のようなものが感じられるうえにどちらの気持ちにも頷けるところがあったようで、一は次第にエスカレートしていく言い争いになかなか口を出せずに黙っていることしかできなかった
そんな時、一は向こうから歩いてくる人影に気付くとすぐさまに大きな声を出した
「ねぇねぇ、とーか!あれって宮永咲じゃないかな!?」
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場面は再び戻り、駅前の噴水広場
あれから十五分程度が経過したが、未だ咲が来るようすはない。ふと、時計に目を向けると街灯近くに設置された時計は間もなく11時を指そうとしている。気づけば、太陽は先ほどよりもさらに高く上がり、駅に出入りする人通りもさらに多くなっていた。
いつのまにか衣は立っているのが疲れたのか近くのベンチに腰掛け、顔を俯かせている。その表情は先ほどよりも更に暗さを増していた。
「咲・・・・衣のこと、嫌いになっちゃったのかなぁ」
俯いている衣の顔から水滴が垂れ、アスファルトに落ちたその時であった。
「衣ちゃん!!!」
聞き覚えのある声が響き、靴音が響いた。
衣はその声に気付くと顔をその声が聞こえた方に向けて上げ、前を見据える。
するとそこには衣の待ち人である宮永咲がこちらに向かっている姿が明確に確認できた。
その瞬間、衣の眼がしらが更に急激に熱を上げる。
しかし、衣は涙を堪えると咲に向ってまずは怒りを示した。
「こらぁ!咲!衣を待たせるなんて何を考えている!?それに衣のことを衣ちゃんと呼ぶなぁ~!衣の方がお姉さんなんだぞ!」
「ごめんね?道を間違っちゃって・・・」
怒る衣をなだめるようにして咲が答える。すると、衣は少し頭を垂らしながら咲の服の裾を軽くきゅっと握ると言葉を絞り出すようにして言った。
「・・・心配、したんだからな・・・」
「本当にごめんね?でも、会えてよかった。会えないよりはよっぽどましだもん。・・・もう時間ないね、時間無くなっちゃう前に早く行こうよ!」
「うむ!では最初は携帯電話の店だったな。早く行くぞ!!!咲!」
先ほどまではものすごい勢いで元気を失っていた衣は、咲の到着によってようやく元気を取り戻した。やっとの思いで会うことができた二人はまず最初の目的地である、携帯電話店へと向かって歩き始めたのであった。
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「さぁ!いかがですの!?これでもまだ、あの二人だけでデートが成功するとお思いなのかしら?」
「・・・・・・わーったよ、俺の負けだ。あれじゃぁ、絶対に成功しねぇ」
衣たちの様子を近くで窺っていた透華たちは、会話の内容を盗聴器で確認して2人の危うさを再確認していた。案の定、早速咲が道に迷ったというじじつがかくにんされたことによって
「じゃぁ、決まりですわね!!!まぁ、最初の目的地のケータイショップはすぐそこですし、何もすることは無いんですけど」
「ボクはそれが一番だと思うよ。とーか」
改めて気合を入れ直すも、次は何もすることがないことに気付き少しだけ落ち込んだような表情をする透華に一は軽くフォローを入れる。純はそれに頷いて同調する
それを見た透華は軽く息を吐いてから
「まぁ、それもそうですわね」
と言って肩をなでおろしたのであった。
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はてさて、そんな心配もかくやの二人はやっと、ケータイショップに辿りつかんとしていた。その店舗の前では黒髪の女性とペンギンの着ぐるみが精いっぱいに客引きをしているのが見える。その店の前にさしかかると、店の前のテーブルには機種がいくつか並べられており、これがおススメとばかりに広げられていた。咲は機種をある程度見て回ってから隣の衣に対して呟いた。
「うーん・・・・と。ここで買えばいいんだよね。確か部長は操作が簡単な機種にしなさいって言ってたけど。でも私にはどれが簡単でどれが難しいのかさっぱりわかんないよ」
「衣もだ・・・テレビだとか、地図だとか、衣にはよくわからん。こういうときは店員に聞くのが一番じゃないか?」
咲の言葉に衣は適当な回答を返す。咲は衣の言葉に軽くうなづくと、黒髪の店員に声をかけたのであった。
「すいませーん。ちょっとお聞きしたいんですが・・・」
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衣が困った咲に対して適当な回答を返し、にこやかに笑う。そんな光景を見た透華達はそれぞれに異なった驚きの表情を見せた。一は本当に嬉しそうな笑みを浮かべて瞼に少し涙を含ませていたし、純はまるでわが子の成長を喜ぶ父親のような優しげな笑みをみせてその喜びを表現していた。逆に印象的だったのが透華だ。
最初こそ、あんぐりと大きく口をあけてその衝撃の大きさを表していた。しかし、ある一瞬を境にしてその表情を複雑そうに変えてしまい、こんなことを小さくつぶやいた。
「わたくしたちの知っている昔の衣はもういないのですわね・・・何でしょうか、衣が他人と仲良くやれているというのに私は少し悲しいのです。嬉しいはずなのに、どうして」
「・・・とーか・・・」
小さく、そして寂しそうに呟く透華の気持ちは、いつも透華の近くにいた一には強く理解ができた。手を掛けて、手を掛けて、世話をしてきた手のかかる妹のような存在であった衣が急に自分の手を離れ、羽ばたいていくことは嬉しいけれど、それと同時に親離れとまでは言わなくともそれに近いような虚しさが共存しているのだと一は思った。そんな透華の様子を横からのぞいていた純はいきなりなぁとと口を開くとこんなことを口に出した
「・・・俺たちの衣は、みんなの衣になった。それでいいじゃねーか、明るくなった、友達もできた。よく笑うようになった。最近では楽しみながら麻雀を打っている。衣がここまで元気になってくれるなんて誰が思った?俺は少なくともここまでとは考えもしなかった。これだけでも俺たちはあの県予選に出たことに価値があったと思えた。しかも更に、俺たちも衣と“家族”になることができた。透華、俺たち“家族”の絆ってやつは見えないところで強く繋がっているもんだ。いくら衣が大きく成長しようとも、遠くへ離れて行ってしまおうともそれは未来永劫消えること無い俺たちだけの宝物だ。心配しなくとも、衣はおれたち家族のことを決して忘れはしないさ」
「純くん・・・うん、そうだね!ボクたちは“家族“で“友達”だもん!!!そうだよね?とーか!」
「・・・ぁったりまえですわ!!!!!!私たち龍門渕は最強の絆をもった最高の家族ですわ!」
純の言葉に透華も一も嬉しそうに笑うと、透華は声高らかに空を指しながら言う。
そんな時、誰もいないはずの少し離れた所の草むらで何かが動く音が三人の耳に聞こえた。
三人共にその音が聞こえたらしく、とりあえず多少近づいてその不審人物たちの様子をうかがおうということを決めて歩き始めた。その最中、さっきまでは聞こえもしなかった2人の女の子の声が少し筒ではあるが聞き取れるようになっていった。
「ちょっ!南場さん!急に話しかけないで欲しいっす!」
三人は彼女たちの裏側に回ってから身を潜ませ、気付かれないように慎重を期して覗き込む。すると、そこには彼女たちが良く知った人物が二人揃って例のケータイショップを見つめていたのだ。その人物とはー
「ん?まさか・・・あれって・・namberさんと鶴賀の副将?あんなところで何を・・・」
そう、namberこと南浦数絵とステルスモモこと東横桃子がその華奢な体をせばまめながら草陰に身をひそませていたのだ。
純は2人の様子をしばらく観察してから透華に言った。
「こっちが気付いたことに気付いてないみたいだな」
確かに純の言うように、2人は互いの話に夢中になっておりこちらに振り向くような様子を全く見せずにいた。
「・・・見るから怪しいですわね」
「・・・いやぁ、僕達がいえた言葉かな?ソレ」
自分の顎に手を当てながら呟く透華に一は冷静に突っ込みを入れた。
ともあれ、透華達は何かしらのことに関わっていることが明白であるこの現状を無視するわけににも行かず、とりあえず静観を決め込むことを決めたのだった。
小さくであるが漏れてくる声が聞こえ始めた
「というか、南場さん。よくこんな計画に参加する気になったっすね?」
「だって、紫炎姫さんがコスプレをするんですよ?黙っていられるわけ無いじゃないですか!?」
「まぁまぁ、落ち着くっすww。私も理由はわからんではないっすよ。着ぐるみのおっぱいさんはともかく、むらさきさんの変わりっぷりにはわたしもびっくりしたっす!!本当に黒髪ロングの美人お姉さんって感じっすもん!!」
「え・・・・・・・・・・・」
思わず三人の口から声が漏れた。しかし、数絵と桃子はそれにkづかずさらに会話を続けた。
「ホント、綺麗ですよね。のどっちさんと一緒に出てきたときは思わず見とれてしまいました・・・」
「おっぱいさんのメイク技術も半端じゃなかったっすよね、どんだけハイスペックなのかと」
「私、後でのどっちさんにやり方を教えてもらおうかなって思いました。でも、私さっきから思うんですけどこれはやり過ぎじゃ無いですか?」
「いやぁ・・・ホントそう思うっす。おっぱいさんはなりふり構わなすぎっすよ」
「「いくら自分とお揃いの携帯にしたいからって、店に忍び込んで自らそう仕向けようとするなんて」」
その声を聞いた途端急に立ち上がった透華は指をパチンっと鳴らせ、ハギヨシを呼び寄せてこう言った。
「・・・ハギヨシッ!」
「はっ!」
「あの二人をこちらに連れてきなさい。・・・重要参考人です。丁重にお出迎えなさい」
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一方その頃店内の咲と衣はというと・・・
「お客様にはこちらの商品が適当かと」
「え、でもそれ、扱いが難しい奴なんじゃ・・・」
「そんなオカルトありえません。実に簡単ですよ?デコメも豊富に取り揃えてますし」
「いや、ですから。私はメールと電話ができるだけの簡単なので・・・」
「わーい!このペンギン喋るぞー♪」
「コロモチャン。ボクハコロモチャンニハキットコレガイイトオモウヨ」
案の定どちらとも怪しげな店員に捕まり、説明を受けていた。
咲は最低限の性能のみを有していて、値段の安いものを希望していたが、店員は比較的新しいモデルのピンク色の機種をごり押ししている。値段は確かに安いのではあるが、数多くの機能を使いこなせる気がしない咲はそれを買う気にはあまりなれないようだった
その一方の衣はペンギンの着ぐるみと戯れながらデ○ズニー携帯コーナーへ向かい、品定めをしている最中であった。
悩む咲。確かに扱い辛そうな携帯電話だと思う。しかし、咲の記憶の中にはこの携帯電話を扱える“身近な存在”がいることを知っていた。迷惑をかけることになるかもしれない。でも、店員の勧めを無視してまで簡素なものにすることに意味などない、そんな風にも考えていた
「うーん・・・そうだ!衣ちゃ―ん。ちょっとこっちに来てー!」
「ん?何だ?咲?それより衣のことを衣ちゃんと呼ぶのはやめろと」
「あのね?聞きたいんだけど、衣ちゃんはこの携帯と、こっちのピンク色の携帯。どっちがいいと思う?私・・決められなくて」
突如、何かを思いついた咲は少し離れた場所において携帯電話を物色していた衣を呼び寄せると、衣に反論を許さず間髪入れてカウンターテーブルの上に置かれた二つの携帯電話を指さして意見を求めた。
すると衣は少しキョトンとした表情になるけれど、すぐにいつものそれに戻すと丁度良かった。と一言つぶやくと、そのまま咲の手首を掴み店の隅の方へと彼女を導いていった
「衣ちゃん、いきなりどうしたの?」
いきなり手首を掴まれて引きずられるようにして連れてこられた咲はまだ少しおどろきの表情をその顔に残したまま、衣に対してその本意を問うた
すると衣はショップの新作コーナーと書かれた赤いシートの掛けられた机から白と青の二つ携帯電話を持ち出してこう言った。
「咲、衣はこれがいいと思う」
「え?どうしてこれなの?」
咲の前の祖の携帯電話を差し出して言う衣に咲はその理由を問い返した。それはそうである、さっきまでは数多くのアプリケーションなどが揃っている最新鋭の携帯電話には興味は無い。そんな風に言っていた衣がいきなりその考えを曲げ、最新型の機種を選んだその理由がよくわからない。
咲が問い返すと、衣はその携帯電話の裏側を見せてこう言った
「電話の性能ではなく、これが衣は気に行ったのだ。」
そこには・・・
「え?これって・・・」
「二つが重なると絵ができるようになっているみたいに見えるだろう。嶺上の花が咲き、海底の月が輝く・・・いわゆる花天月地、を表しているんだろうと衣は感じた」
白い携帯電話の表面には白い花があしらわれ、青い携帯電話の裏面には深海の海を想像させるような、暗い海の中に月の光がさしているそんな様子が彫られていた。ただ、デザイン別で描かれた二つの携帯電話。しかし、この二つの重なりあいで生まれた一つの“絵”がまさにこの二人の麻雀での邂逅を想起させるような図として一つの命を帯びていた。
偶然、なのか、必然なのか。衣にそれを知るすべはない、しかし、この出会いには何らかの意味がある。そう、衣は感じたのであった。
「どうだ?」
暫くその“絵”を見つめている咲に衣は恐る恐る尋ねてみた。
すると、咲は満面の笑みでこちらを見直すと、衣に向かってこう言った
「・・・私、これにするよ!!」
そう言って、白い携帯電話を指さした。
「!?」
「!?」
その咲の行動に今度は店員たちに焦りの色が見え始めた。嬉しそうに会話する二人に駆け寄ると、先ほどの黒髪の店員が二人に近寄り、問題点を指摘し始めた
「あの、お客様。そちらの商品は少々操作性が・・・」
「かまわぬ!!!メールと電話さえ使えれば仔細無い!」
「少々カメラの性能が・・・」
「大丈夫ですよ。あまり使わないと思いますし」
「っ・・・・これはセールの特別割引が適応されない商品になりますので本体価格があまり安くならないのでこちらとしてはお勧めしかねるのですが・・・」
「・・・それは少し困りますね」
様々な質問を投げかけてきた店員が最後に繰り出してきたのは一般市民的にはもっとも問題となってくる“本体価格”の問題であった。父母が残してきた莫大な財産がある衣はいざ知らず、予算に限りのある一般市民の咲には割引があるとないとでは大きな違いになるのであった。
店員はその反応にほくそ笑むと、更にたたみかける。
「割引き無しですと、これくらいお値段違くなってきますね。」
「ぅわ!一万円近く違う・・・これじゃあ私のおこずかいを入れても間に合わないよ・・・」
咲は料金表を見て戦慄しながらそう言う。
その表情には少しだけ涙が滲んでいた。せっかく欲しいものが見つかったのに、それが値段の関係で買うことができないことが悔しい、そんな意味合いも込められている涙であることもその表情からうかがい知ることができた
そんな咲の表情を見た衣は少し何かを思案し始める
「・・・わかりました。じゃぁ、こっちのピンクのケータイに・・・」
咲が料金表を見極めたうえで、白い携帯電話を諦めようとしたその時、衣は声を上げた
「待った!!決めたよ。衣が払う。」
「え」
「え!?」
衣の意外な発言に咲が驚いて、声を出す。しかし、それよりも店員の方が大きな声をあげて驚く。そんな様子に少しだけ衣は驚きを見せた。しかし、すぐに自分を取り戻すと、こんなことを言ってきた
「そんなに驚くことも無かろう。衣の父君と母君は衣に多くの財産を残して行ってくれた。その一部を使うだけにすぎん」
「いやいや、そういうことじゃなくて!私が申し訳なくなってしまうよ!こんなに高価なものをおごってもらうなんて」
先ほどの衣の発言に度肝を抜かれていた咲は少しの時間を要しながらも復活すると衣に反論した。いくら衣の方が年上だとしても、携帯電話という大きなお金が動くものを無償で買い与えてもらうなどあまりにも図々しすぎるからと考えたからだ
そんな咲に衣は余裕を大いに含ませた笑みをその顔に浮かばせると優しげな口調でこんなことを言ってきた
「気にするな。衣が初めて自分で望んだ金の使い方をするのだ。父君も母君もきっと喜んでいてくれるはずだ。だから、気にしないでくれ。」
衣は嬉しそうにほほ笑みながら、咲に言う。そんな衣に咲は嬉しそうに笑うと、衣に言った。
「・・・ありがとう。衣“お姉ちゃん”」
その言葉を聞くや否や衣は顔を真っ赤に染め上げるとあさっての方向を向きながら言う。
「///////は、恥ずかしいことを言うではない!!こ、衣はお姉さんだからなッ!これくらい当然なのだ!!!」
そっぽを向きながら照れる衣の様子を見て、咲はくすっと一笑いするとでもね。と前置きしてからまた話しだした。
「でもね。お昼ごはんくらいはおごらせてちょうだい?これじゃ私の立場がないから」
咲の真面目な表情でのお願いに衣はふぅっと一息ついてからこう言った。
「・・・うむ、じゃぁお願いさせてもらおう。咲、衣はハミレスが良いぞ!!!」
「うん、わかった。じゃぁあそこの
ファミレスでごはん食べよう?衣ちゃん」
「あぁ!また衣ちゃんって言ったなぁ!!!衣の方がお姉さんなんだぞ!もっと年上を敬え!!!」
「あはは」
咲と衣はそんな風に笑いあいながら終始笑顔で会計および書類の記入を行っていったのであった。
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「ありがとうございましたー!」
自動ドアの開閉音と共に咲と衣は店外へと出て行った。その中で店員(智紀)はふぅっとため息をつくと、ぼそっと小さな独り言をつぶやいていた。
「・・・衣、すごい」
嬉しそうだけど、その中に寂しさをも含有したそんな表情をうかべながらひとことだけそう、呟いていた。そしてそれを言い終えた後、表情を緩めた
「・・・お疲れ様です。・・・失敗、しちゃいましたね」
そんな智紀に声を掛けてきたのはペンギンの着ぐるみの上部分だけを外し、あせだくになっていた和。和は手に持った清涼飲料水のペットボトルを智紀に手渡すとその傍らに立ちなおした。彼女が立てた計画は失敗に終わったというのにその表情はどこか、清々しさを感じさせるくらいに晴れやかであった。
「・・・ありがとう。良いの?あの二人を追わなくて」
智紀は受け取った清涼飲料水のペットボトルのキャップを開け、一回口に含んでから和に尋ねた。すると、和も同じように清涼飲料水を口に含み、それを飲みほしてから笑顔で答えた。
「良いんですよ。咲さん、楽しそうでしたし。」
「・・・そう、私もそんな風に考えてた。衣も楽しそうだったし、これでいいと思う」
互いに向き合いながら、智紀と和は言葉を交わしあう。どちらともに笑い合って、とても充足感に満ち溢れた笑みを湛えながら。そんな中、自動ドアが開く音が店内に響いた。2人はそのドアの方向に目をやると、その先にいる人物を見て絶句した。
「お疲れ様でしたわね・・・原村和!!!!!いったいこんなところで何をなさっているのかしら?」
「・・・ごめんなさい。見つかっちゃいました(っす)」
「龍門渕透華さん!?」
そう、店内に大人数を引き連れてやってきたのは透華達。一、純といういつものメンツの他に数絵、桃子がその手を押さえられながら入ってきたのであった。
透華は和たちの前まで来ると、驚愕した様子の二人に向かって話し始める。
「話はこのお二方から伺いましたわ。あなた方・・・」
「・・・ごめんなさい。これは私の非です、何とでもしてください。ただし、紫炎姫さんやみなさんには何もしないと言っていただけませんか?」
「ちょっと!?何を言っているの?」
透華の切り出しに対して、和が透華に頭を下げながら返す。すると智紀は横に座る和の顔をのぞきながらえ!?と言った表情で反論した。
そんな智紀の様子を気にすることも無く、和はなおも透華に対して話を続ける
「紫炎姫さんたちはわたしが無理やり参加させただけなんです!!!この人たちに火はありません。だから・・・」
「ふざけないで・・・私たちは自分の意思でここまで来た。だから責任はみんなにある、責任を一人で覆うなんてわがまま、私は許さない。」
和が透華に自分が責任を追うと主張するけれど、智紀によってその言葉はかき消される。
和も智紀も全くと言っていいほど自分の主張を曲げることをしなかった。それは互いが互いを思うからこそなのであり、それが理解できるからこそこの言いあいは収まりを見せずに均衡しながら続いていた。
しかしそんな中、いきなり透華が大きな声を発してその言いあいをストップさせるとふぅっと一息ついてからまた話しだした。
「良いですか?私がいつあなたたちに対して制裁を加えるなどと言いました。」
「え・・・・・・どういうことです?」
ついさっきまで言い争っていた二人が揃って素っ頓狂な気の抜けた声を出して、意外そうな表情を浮かべて透華を見た。
透華は私の印象って・・・と頭を抱えながら呟いた後で、
「何のために私たちがここに来たとお思いですの?私たちは貴方達四人に対して交渉をするべくここにはせ参じたのです。ハジメ!」
「うん。わかったよ、とーか」
透華に言われるがままに、一が透華に代わって2人の前に立って交渉の説明を始めた
「穏便に終わらせたいから簡潔に済ませるよ。君たちにはデートの邪魔をした罰として、僕達の協力をしてもらいたいんだ。することは、衣たちにはあまり接触せずにあの二人を迷わせることなく最終目的地まであの二人を誘導すること、君たちにとっても悪い話ではないと思うんだけど・・・どうかな?」
その話を聞いた和と智紀はあまりにも都合が良すぎるその話に疑問を抱いた。流石にこれ以上の接触を禁じられたとしても、前科のある人物に対しての後の対応としてはそれはあまりにも甘いものだったからである。
一は警戒する二人に向かって、少し笑いながら言った
「いやいや、そんなにいぶかしんでも他意なんてないよ。これは単に透華の厚意と僕なりの紫炎姫さんへの配慮」
「・・・私への?」
自分の?と不思議そうに智紀は言う
「うん。だって」
そう言うと一は智紀の耳元に近づくと軽く一言囁いた
「だってともきー、透華に身バレしたくないんでしょ?」
「!?どういうこと?」
「実はね、透華は最初。君たちを強制的にお家へ帰らせるつもりだったんだ。それだと、紫炎姫さんには色々と問題が出てくるでしょ?だからさ」
そう言って一は笑って智紀に話しかけた。そうすると、智紀は嬉しそうにほほ笑むと一にお礼を言った。
「・・・ありがとう。国広さん、感謝します」
あまりにも聞きなれないフレーズに少し恥ずかしさを感じたのか一は照れながら返事をした。
「やだな~そんなの言いっこなしだよ。ともきー」
「ん?ともき?」
一の口から放たれた爆弾は見事の透華の耳に届き、その疑いという名の花を咲かせてしまったのだった。
「(はじめーーーーーー!?)」
声にならない叫びをあげる智紀。そして自分の失言に気付いた一は口を押さえてから呟いた。
「あ、やば」
「ともき、ともきがここにいるといいますの?はじめ!」
智紀という単語に超反応した透華はすさまじい勢いをもって一に詰め寄るとその真意を訪ねた。しかし、冷静を保った一はそこまではあわてた様子もなくしっかりと受け答えする
「いや、僕が呼び間違っちゃっただけだよ。ごめんね、紫炎姫さん」
そんな一の様子を見て更に疑心を深めたのか透華は不審そうに言った
「え!?えっとぉ・・・」
そういえばそんな風に教えてたっけ・・・そうつぶやく一は何とかしようと思考をまとめるべく思案していた。そんな中、透華は智紀に肉薄するとこう言い始めた
「そういえばどこかこの方はともきに似ているような・・・」
気付き始めている・・・もう駄目だ!!!そんな空気がこの場を支配していたそんな時、その張本人であるところの智紀がいきなり話し始めた
「・・・いえ、私はあなたの知っている智紀さんではありません。」
「じゃぁ、誰だといいますの!!?」
いきなりそう切り出した智紀に透華は強い口調で聞き返した。
「・・・・・・・・・・・・・津山です」
「はい?」
暫くの無言の中ぼそっと智紀は呟いた。その声が良く聞こえなかった透華がもう一度聞き返す。すると、今度はみんなに聞こえるように大きな声で宣言した。
「私の名前は津山睦月。鶴賀学園の二年生で麻雀部の新部長です。間違えないでください」
あまりにも苦しい言い訳だった。
確かに鬘をかぶっている影響で黒髪に見えはするものの、彼女のチャームポイントであるポニーテールを結えるほどには長くは無い。背丈や骨格も大きく違うし、すぐにバレてしまうだろうと思えるくらいに胡散臭い嘘であった。
しかし、透華はうーむとうなってから少しだんまりを決め込んでから言った
「・・・・・・・・・・・そうでしたか。申し訳ありませんでしたわね。」
ええっ!?そんな空気があたりを支配した。こんなウソがまかり通るとはだれも思っていなかったのだろう、みんな驚愕しながら2人をずっと見ていたのであった
そんな透華の様子を見た智紀はため息をはぁっと吐くと、とりあえずこれ以上透華達と一緒にいるわけにはいかないと思い、その場を離れようとする。しかし、その希望は儚くも散ることとなった。・・・またしても透華の手によって
「では行きましょうか、鶴賀の新部長」
がっちりとつかまれた手を見た智紀は唖然としながら透華を見る。しかし、透華はその手を放そうとは全くしなかった。慌てた智紀はしどろになりながらもこう言う
「え。いや、私は。その、今日はバイトの用事が」
しかし、透華は聞く耳を持たずにこう言い返す
「嘘おっしゃい!!!さぁ、行きますよ!!!!!!!!!!!!!!!」
「そんな・・・帰らせて・・・・・」
泣きねいるような口調で懇願する紫炎姫(津山睦月)
「問答無用!!!!!!ですわ!!!!」
しかし、透華はそれをも問題とせず智紀を引きずって咲と衣の向かったレストランに向けて歩き始めた。そんな中、智紀は一瞬目のあった桃子に向かって助けを求める。が
「・・・むっちゃん先輩。頑張るっす♪」
桃子は必死に笑いをこらえながら引きずられていく智紀をハンカチを振りながら見送ったのであった
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
あーるーはれたひーるさがりーのみちへーつづ(ry
やっと忙しい時期から抜け出せたので、続きを書くことができました。
むっきーさんごめんなさい
- 乙、そしてGJ!透華の中で紫炎姫の正体がエラいことにw結局迷子の咲に道を教えたのは誰だったんだろう? -- 名無しさん (2010-04-05 22:59:24)
- ハギヨシが付き添いを禁じられたのは衣にだから、衣との合流前はハギヨシとか?いや、菫さんかな
紫炎姫の名前が出てきたときには書き間違えかと思ったら、テラカオス -- 名無しさん (2010-04-05 23:14:11)
- 咲ちゃんに道教えたのは通りすがりの小林さんかな -- 名無しさん (2010-04-09 12:27:30)
最終更新:2010年04月19日 23:35