グリシャがエレンに自分を食べさせたのは、ディモーション(demotion 降格)のためだと私は考えています。
何らかの理由で、自分の能力を昔に戻す(レベルダウンさせる)必要があったのではないでしょうか。
この仮説のポイントを整理します。
・グリシャやレイス家は壁のシステムの一部である ・グリシャやレイス家の巨人の力は、全ての壁が破壊されると自動的に発動してしまう ・発動を止めるには、巨人の力のディモーション(降格)が必要である |
私はすでに「104期=チェスの駒」という仮説(白と黒の謎(3) 104期=チェスの駒)を書いていますが、チェスにはプロモーション(promotion 昇進)というギミックがあります。
ポーンの駒はいちばん奥まで進むと、プロモーションによって、より強力な駒に変身することができます。
将棋で言えば「歩」が敵陣に入って「と金」に成るのと同じようなものです。
プロモーションやディモーションは、もともと会社や組織などの昇進・降格を意味します。
ゲームで言えば、上位のキャラにクラスチェンジするのがプロモーション、下位のキャラにクラスチェンジするのがディモーション。
また、会社員などが「昇進しない方が良い場合」にわざと昇進しないことを、ポジティブ・ディモーション(positive demotion 前向きな降職)と言います。
歴史上、もっとも有名なポジティブ・ディモーションは、日露戦争(1904~1905)における児玉源太郎の降格人事です。
明治36年(1903年)に日露戦争の計画を立案していた陸軍参謀本部次長の田村怡与造が急死したため、児玉は内務大臣を辞めて、大臣より下位の参謀本部次長に就任し、日露戦争の勝利に大きく貢献します。
ちなみに日本陸軍でポジティブ・ディモーションをしたのは、児玉源太郎だけです。
鳥山明先生の『ドラゴンボール』で言えば、スーパーサイヤ人になるのがプロモーションに当たります。
『ドラゴンボール』には、筋肉ムキムキにプロモーションしたトランクスが、パワーではセルを上回ったのにスピードが落ちて負けてしまうという展開があります。
主人公の孫悟空やベジータはその欠点に気がついており、最初からわざとパワーを落としてスピードとのバランスを取っていました。
これがポジティブ・ディモーションに相当します。
イメージとしては、ダウングレード(downgrade)にも近いでしょう。
WindowsなどのOSやアプリケーションのアップグレード(upgrade)は多くの方がご存じだと思いますが、その逆がダウングレードです。
たとえばアプリケーションの最新バージョンに不具合が見つかった時や、仕様変更で改悪されて使い勝手が悪くなった時に、わざと旧バージョンに戻すことがあります。
これがダウングレードです。
グリシャがエレンに自分を食べさせたのも、このポジティブ・ディモーション(ダウングレード)が目的だったのではないでしょうか。
たとえば、グリシャは巨人の力を持っており、壁が襲撃されるとその力が自動的に発動してしまう、あるいは自分の身を守るためにも発動せざるを得なくなる設定だとします。
(レイス家の継承巨人を倒すほど強力な巨人の力を持つグリシャが、その巨人の力を自分が生き残るためにすら使わないということは、やはり意識的に巨人の力を使わないようにしたと見る方が自然ではないかと、私は考えます。あるいは、レイス家の巨人と戦った時の巨人は1回しか使えないとか)
グリシャは、壁が崩壊すると自動的に最強の巨人に変身し、自由意志を失って敵に向かって進撃し、戦わなくてはならない。
(※現実に、他国から核ミサイルで攻撃されたら、自動的に自国も核ミサイルを発射する報復システムが存在します。アメリカ、ロシア、中華人民共和国などはそのシステムを保有していると見られています)
グリシャは何らかの理由から、そうなりたくなかった。
(ライナーのいう「この争い」に参加しないため?)
そこで、わざと自分の息子に自分を食べさせることで、自分の巨人の力が発動しないようにポジティブ・ディモーションした。
自分の力は息子のエレンに継承されますが、その代わり、息子は自分が今までにしてきたのと同じ苦難と努力をやり直して、その力を今のグリシャのレベルまでもう一度レベルアップさせなければならない。
ただし、エレンの脳内には、今までのグリシャやその他の意識と記憶が全て保管されており、エレンの意識が彼らの記憶を支配することで、巨人の力を使うことができる。
つまり、エレンは記憶を保持したまま、何度も人生をやり直しているわけです。
この「エレンのグリシャ食い=巨人のディモーション(ダウングレード)」説には必要な前提があります。
それは「巨人(の力)が段階的に成長する」という前提です。
同時に、他者に自分を食べさせることで、「巨人(の力)のレベルや種類を変更できる」ことも必要です。
そして、「グリシャやレイス家の巨人は壁の崩壊と何らかの関係がある」ということです。
ここで、グリシャと共通の秘密を持つと思われるレイス家についても考えます。
16巻第65話「夢と呪い」で、ロッド・レイス卿はこう言いました。
「私が…巨人になるわけには いかないんだ… 理由がある…」
「他の者を… 信用してはいけない…」
ロッド・レイス卿は、なぜ巨人になってはいけないのでしょうか?
もしかしたら、グリシャと同じ理由ではないでしょうか?
これは第67話「オルブド区外壁」考察にも書くことですが、グリシャやエレンも、そしてレイス家も巨人の力と記憶を受け継ぐ血統です。
しかも、グリシャがレイス家を襲撃してロッド・レイス卿以外を皆殺し(現時点で開示されている映像情報では)にするなど、両家にはかなり深い因縁があると考えられます。
それらの事実から見て、両家は世界や壁の秘密も知っている可能性が高い。
両家は、壁の創造と維持、あるいは壁の防衛と攻撃を担当する巨人ではないのか?
たとえば、壁の創造は人体の妊娠のメカニズムを応用したシステムだと仮定し、ロッド・レイス卿の巨人は「巨大な精子」であり、ウォール・シーナ中央の地下に「受精前の卵子」に相当する何かが隠されている、とする。
ロッド・レイス卿の巨人が顔を地面に突っ込んだまま移動していたのは、上半身が重いからというだけでなく、「ロッド・レイス卿の巨人が目指しているのがウォール・シーナ中央の地下だから」ではないか?
ロッド・レイス卿は、ヒストリアにこうも言っています。
「この注射なら強力な巨人になれる」
「最も戦いに向いた巨人を選んだ」
実はレイス家の保管していた巨人注射のうち、「受精させる力が最も強い巨人」を、ロッド・レイス卿が知識不足のために「最も強い=最も戦闘に向いている」という意味だと勘違いしたのではないか。
(あるいは、ロッド・レイス卿がヒストリアを巨人化させるために嘘をついた)
こう考えると、シーナの意味も理解できます。
実の入っていない籾や実が入らずにしなびた果実を、「粃(しいな)」と呼びます。
つまり、「まだ受精していない卵子」を粃=ウォール・シーナと表現しているのではないでしょうか?
だとすれば、壁が三重になっている意味も分かります。
◎ウォール・シーナ(の地下)=「粃=未受精の卵子、卵子殻」
◎ウォール・ローゼ=「子宮」
◎ウォール・マリア=「聖母(母の体)」
◎各壁の突出部をつなぐ中央へのルート=「産道」
そして、各兵団の徽章の意味も分かります。
憲兵団の徽章である「一角獣(ユニコーン)」は、「処女の守護者」です。
処女=未受精卵です。
駐屯兵団の徽章である「二つの薔薇」は、「子宮」です。
2つあるのは、たとえばバックアップとか、白と黒の両方に受精の資格があるという意味かもしれません。
もっとも謎めいているのが調査兵団の徽章である「白と黒の翼」です。
「白と黒、2つの血統をつなぐ者」という意味でしょうか。
壁の元々の支配者は、白(レイス)と黒(アッカーマン)だったのかもしれません。