『進撃の巨人』の秘密(1) 「外国」が存在しない世界

 

 

 

 

作中で何度も登場人物が口にする「人類」という言葉。

この「人類」という言葉に隠された秘密を考察します。

最初にポイントを整理します。

・『進撃の巨人』は「外国」が存在しない世界のシミュレーション

・『魏志倭人伝』にヒントがある

・ライナーとユミルの会話の意味

エルヴィンの夢

 

 

 

 

「外国」が存在しない世界では何が起こる?

私がこのサイトで自分の考えをメモし始めたのは、オタキングこと岡田斗司夫さんの『進撃の巨人』の分析がきっかけでした。(参考:【レポート】「進撃の巨人」ラストはSFオチ?岡田斗司夫の考える進撃の結末

ここで岡田さんは、「なぜ登場人物たちは人類という二人称を使用するのか」という問題提起をされています。この岡田さんの疑問で思い出したのが、3巻11話「応える」でエレンの巨人化を隠すために守秘義務を課せられたジャンのセリフです。

「隠し通せるような話じゃねぇ・・・ すぐに人類全体に知れ渡るだろう・・・」

「・・・それまでに人類があればな・・・」

01

 

この人類全体に「人類があれば」というセリフには違和感があります。普通なら、主語や目的語が人類なら、「人類全員に」「人類が生き残っていれば」などの表現になるはずです。このセリフはアニメ版9話でも同じですので、原作チームが意図的にこのような表現にしているのは間違いありません。

何故このような不自然な、人類と物体を混同するような言い回しになっているのか?

「人類」という呼称の謎で、おそらく壁内では「国家」または「(人型)生物」のことを人類と呼称しているのだろうと、私は考察しました。

では、「国家」や「(人型)生物」が人類と呼ばれている理由とは?

私はその理由を、『進撃の巨人』の世界では外国が存在せず、その概念すらないからだと考えています。事実、作中では壁内を含めて国名が一切登場せず、「我々以外の人類は…皆」などのセリフは出てきますが外国を示す表現も無く、壁内以外の存在については「壁外」としか言われません。

すなわち、壁内の人類にとっては、「我々以外の人類は存在しない」「人類は自分たちだけ」なのです。

外国の存在や国家という概念を忘れさせられた陸の孤島の住民は、あるいは井戸の中の蛙(かわず)は、どのように世界を認識するのか?

ここでは、作中は「外国が存在しない世界」という前提から、『進撃の巨人』の設定を考察してみます。

 

 

(1)国

外国という概念すら存在しない世界では、「自国」という意識も存在しません。

他者がなければ自己も確立できないという、自我の問題を映像化したのが壁内だとも言えます。

外国という概念が存在しない壁内で、国の代りに使われているのが「人類」という言葉です。

ただし壁内で使われる「人類」は、現実世界の「国」と完全に同じ意味ではなく、壁内の雑多な「住民全体」という意味でも使用されていると思われます。

それに対し、人間を指す言葉が「人(ひと)」だと考えられます。

たとえば私たちの使う「国家と国民」は、壁内では「人類と人」という言い方になります。
 

 

(2)軍と戦争

外国が存在しないということは、外国と利害が衝突しないということです。

国境問題も無く、富や資源、食糧の取り合いで紛争が起こることもなく、しかも壁内は水、鉱物資源、天然ガスなどの資源に恵まれ、食料以外は自給自足が可能です。(少々、壁の中の世界はうまく出来すぎています)

だから壁内では、「外国から侵略される」という発想も、国家戦争という概念も無いため、自国を防衛するための軍も存在しないのです。

しかし、食料問題など不安定要因があるため、治安維持のための武装集団が絶対に必要です。

それが「兵団」であり、要するに警察や公安、機動隊なのです。

【外国が無い】→【だから戦争が無い】→【だから軍が無い】→だから警察だけ。

 

 

(3)殺し合いのへたな中央憲兵団

私はケニー・アッカーマン率いる中央憲兵団の戦い方を見ると、彼らには戦いの経験そのものがないのだろうと思います。

以下素人の妄想につき、読む必要はありません

数を頼みに地下空洞の奥に誘い込んで包囲殲滅を狙ったのは分かりますが、調査兵団の立体機動能力の高さは知っていたはずです。

自分たちも立体機動を使いたかったのでしょうが、わざわざ敵の長所に合わせた場所で戦うのは愚策と言っていいでしょう。仲間同士の連携もできていたとは言いがたい。

また、地下空洞への通路は一つしか無いのですから、リヴァイ班が必ずそこを通るのはわかりきったことです。

中央憲兵団が人数の多さを利用して2班に分かれ、リヴァイ班が通路に入った時点で上と下から挟撃し、出入り口を閉めて火攻めにすれば、リヴァイ班は立体機動を使えず、炎と煙で肺を焼かれて戦闘能力を失い、憲兵団は最小限の犠牲で勝利していたかもしれないのです。

リヴァイ班やその装備も研究していなかったと思われます。

逆に戦い方がうまいのがアルミンです。

アルミンは敵の装備の構造的欠陥を指摘し、効果的な戦闘方法をレクチャーし、同時に火薬と煙で自分たちに有利な状況を作り出すことまで提案します。

アルミンの方が、よほど戦闘がどのようなものなのかを理解しているように見えます。(私はこのアルミンの能力や性質が作中の秘密に直結していると考えています)

 

ここから見て取れるのは、壁内人類は壁内での争いを異常に怖れているにも関わらず、実は争いの経験が無いのではないかということです。

だから、中央憲兵団でさえ、人同士の殺し合いが下手なのではないでしょうか。

そもそも喧嘩や犯罪レベルの争いしか知らず、一定以上の大きな集団戦を経験したことがないから。

大きな集団戦、言い換えれば、「戦争」の経験が無いということです。

 

だとすると、なぜ壁内人類は争いを怖れるのか?

当然、「何者かが壁内人類が争い=戦争を怖れるように記憶を改竄したから」だと考えられます。

 

しかし、私は上記のように「壁内には戦争という概念すら無い」と考察しています。

人間は知らないものを怖れることは出来ません。

つまり、私の考えでは「壁内人類が戦争を怖れるように記憶を改竄した者は、戦争を知っている」という事になります。

戦争を知っているということは、外国の存在も、その概念も知っている。

壁内人類の知らない「外国」や「戦争」を知っているということは、その何者かは、世界の秘密(の一端)を知っているということになります。

 

 

 

 

『魏志倭人伝』の「邪馬台」は「大和(やまと)」

 

(1)『魏志倭人伝』を読んだことがありますか?

(2)「邪馬台」を当時の発音で言うと?

(3)「倭人」と「輪(和)人」

 

 

 

 

ウトガルド城でのライナーとユミルの会話

 

(1)2人は「外国人」

(2)2人の狙い

(3)ポイントは「缶詰」「ニシン」「文字」

 

 

 

 

エルヴィンの夢

 

(1)エルヴィンの父の仮説

エルヴィンの父は、教員として王政の配布している歴史を教えているうちに、その矛盾と謎に気づきます。

そして息子のエルヴィンの質問に答えて自分の仮説を話したために、中央憲兵(若い頃のサネス)によって拷問され、命を落とします。

その仮説の内容を、エルヴィンは次のように説明しています。

「いつの間にか父の仮説は私の中で真実となり 私の人生の使命は父の仮説を証明することになりました」

(中略)

「今から107年前 この壁に逃げ込んだ当時の人類は 王によって統治しやすいように 記憶を改竄されたのです」

 

つまり、エルヴィンの父は歴史書の矛盾から捏造を見抜き、口伝すら完全に封じるには人間自体の記憶も改竄しなければ無理である、と結論づけたわけです。

そして、記憶改竄の理由は「王が統治しやすくするため」だと、エルヴィンは説明しています。

 

しかし、それだけでしょうか?

「王が統治しやすいよう人類に本当の歴史を忘れさせた」。

これを逆に言うと、「人類が本当の歴史を思い出すと王が統治しにくくなる」ということです。

つまり、本当の歴史には、王が統治の正当性を失ったり、壁内の治安が乱れ、反乱が起きてしまうような「不都合な真実」が含まれているということです。

 

歴史の捏造に気づくことのできる知性の持ち主であれば、当然、その「不都合な真実」についても考察するはずです。

エルヴィンの父は、記憶改竄の理由をどう考えていたのか?

その手がかりになるのが、子供の頃のエルヴィンの質問です。

 

エルヴィンの質問は、エルヴィンの父がずっと隠していた危険な仮説を話してしまうような内容でした。

おそらくその質問は、エルヴィンの父自身も心密かに考えていた仮説であり、エルヴィンの夢にも繋がっているはずです。

そこで、次にエルヴィンの夢について考察します。

 

 

(2)エルヴィンの夢

13巻第51話「リヴァイ班」で、「巨人の正体は人間で、巨人のうなじに人間が同化しているらしい」というハンジの仮説を聞いたリヴァイは次のようにつぶやきます。

「俺は今まで人を殺して飛び回ってた…ってのか?」

そして、ドット・ピクシス司令は、次のような疑問を口にします。

「もしそうだとすれば…何じゃろうな 普通の巨人とエレンのような巨人との違いは」

「肉体が完全に同化しない所にあるのかのう…」

ピクシス司令のこの言葉の直後、エルヴィンは何かすばらしい発見をしたかのように目を輝かせて、少年のような笑みを浮かべます。

エルヴィンはなぜ笑ったのでしょうか?

 

まず、上記のピクシス司令のセリフと同じコマで、エルヴィンは何か重大なことに気がついたかのような表情をしています。

次のリヴァイがエルヴィンに話しかけるコマでは、エルヴィンの口元が笑いかけていることが見て取れます。

そしてページをめくると最初のコマに、エルヴィンの少年のような笑み。

そして驚愕に目を見開くリヴァイの顔。

ページをめくって最初のコマに描かれているということは、このエルヴィンの笑みが非常に重要だということを、作者チームが読者に知らせようとしているということです。

 

普通に考えれば、エルヴィンが笑ったのは父の仮説を証明する手がかりを得たからでしょう。

しかし、エルヴィンはさらにその向こうを見ているという気がします。

なぜなら、巨人の正体が人間だと発言した時ではなく、上記のようにリヴァイとピクシス司令のセリフの直後にエルヴィンが笑っているからです。(「人間=巨人」であるなら、巨人を操ったエレンが人間(の記憶)も操ることができればエルヴィンの父の仮説も証明できる。にも関わらず、エルヴィンは「巨人の正体は人間」発言のコマでは笑っていない)

そこで、ここでは、エルヴィンの笑みの原因が、リヴァイまたはピクシス指令のセリフであるという仮定で、考察します。

 

a:リヴァイのセリフが原因の場合。

エルヴィンが笑ったのは、「合法的に人を殺せるから」ではないか?

エルヴィンは長距離索敵陣形を考案するなど、巨人との争いを極力避けたい平和主義的人物だと思われてきたが、実は「人同士で知恵と工夫と武力をぶつけ合い、思い切り殺し合ってみたかった」のではないのか?

 

b:ピクシス司令のセリフが原因の場合。

エルヴィンは、こう考えたのではないだろうか。

「同化する巨人」は人間に戻れないが、エレンなど「同化しない巨人」は人間に戻れる

おそらく巨人は人為的に作られた存在で、きっと同化しないためのコントロール可能な仕組みがあるに違いない。

そしてエレンの記憶映像から、巨人化能力者の骨髄液を注射することで巨人化できることは、ほぼ確実だ」

さらに、8巻第34話「戦士は踊る」、およびアニメ版最終話のエルヴィンのセリフから、まだ他にも敵(巨人化能力者)が壁内に潜んでいるとエルヴィンが考えていることは明らかである。

「そう…奴らは必ずいるのです」

「一人残らず追い詰めましょう」

「壁の中に潜む敵を すべて…

ということは、敵を捕まえて、その骨髄液を取り出せば、自分も巨人になれるか、他の人間を巨人化することもできるのではないか?

それどころか、敵を殺さずに生かしておき、骨髄液を少しずつ貯蓄していけば、巨人の兵団を作ることも可能になるかもしれない。

そして、うまくすれば自分も巨人に乗って壁外を旅することができるかも知れない(ただし、閉鎖空間である壁内には旅という概念も存在しないはずなので、壁内人類は「移動する」という表現しかできないだろう)

 

エルヴィンの少年のような笑顔を見る限り、上記2つの説のどちらか、あるいは両方がエルヴィンの夢に直結していると想像されます。

 

では、エルヴィンの夢とは?

最後に、エルヴィンの夢について仮説を立ててみます。

 

 

(3)外国が存在しない世界の「外国」

以下、上記(1)(2)が真実という前提で考察します。

 

壁内には外国という概念がない。

だから登場人物は、そのまま「壁の外」としか表現しない。できない。

 

 

外国が存在しないため、内乱は存在するが、対外戦争という概念はない。

壁内人類にとっての外敵とは、自分たちを食べる”天敵”である巨人だけ。

それは、中世の孤立した村が狼を怖れるのと同じである。

 

エルヴィンは長距離索敵陣形を提案したことからも分かるように、明らかに「大規模集団が有機的に連携する組織戦」を想定し、実行してみたいという欲求を持っている。

だからこそ長距離索敵陣形を提案した。

 

しかし、当時のキース・シャーディス団長は、エルヴィンの提案を即座に却下した。

この世界では、キースの方が普通なのである。

国家レベルの対人戦闘という概念すら無い世界では、中世の農民が「狼から家畜を守る」程度のレベルでしか、巨人対策を考えられないのだから。

 

エルヴィンがその優れた指揮能力と知性と決断力を思う存分駆使したいのであれば、巨人との戦闘をできるだけ避けるだけの長距離索敵陣形で満足するはずがない。

敵を見つける「索敵」の次の段階、つまり見つけた敵を殲滅する「戦闘」である。

つまり、エルヴィンは大集団を率いて、巨人とより効果的かつ大規模な組織戦をしたいと望んでいるのではないか?

 

そのような大きな戦闘を、現実の世界では「戦争」と呼ぶ。

 

つまり、エルヴィンは戦争が存在しない世界でただ一人、「戦争をしたい」という願望を抱いているのである。

この考えをより進めれば、エルヴィンは巨人を駆逐して「壁外を遠征したい」「征服者になりたい」と望んでいるとも考えられる。

 

 

そこで、エルヴィンが父に聞いた質問を考える。

エルヴィンの言葉を見る限り、エルヴィンの父も「人類が記憶改竄された」と話しただけで、人類が壁に逃げ込んだという点には疑問を呈していないらしい。

 

だとすれば、エルヴィンの父は「人類はどこから壁に逃げてきたのか?」という疑問を持ったはずだ。

どこかに大量の人類が住んでいた場所が一つ以上なければ、壁に逃げ込んでくるはずがない。

 

彼はその疑問にも合理的な仮説を立てただろう。

そして、その仮説はエルヴィンの質問に近い内容のはずである。

 

私は以上の点から、エルヴィンが父に次のような質問をしたのではないかと考えている。

「私達以外の人類は残っていないのですか?」

「他にも壁は無かったのですか?」

 

そして、家に帰った父はそのエルヴィンの質問を肯定し、王政の記憶改竄に続けて、「私達以外にも人類が存在するはずだ」と語ったのではないか。

要するに、エルヴィンの父は「外国が存在する可能性」を示したのではないか。

 

この考えは、外国という概念が存在しない壁内では、「宇宙人が存在している」と主張するに等しい。

他の壁内の住人から見れば、頭がおかしい人、気持ち悪い人と思われても仕方が無いだろう。

惑星という概念の無い天動説の時代に、地動説すら飛び越えて、他の惑星に知的生物が住んでいる可能性を論じるようなものだ。

 

エルヴィンは、父の仮説を証明するのが自分の使命だと言う。

であるならば、エルヴィンは宇宙人の存在を証明したいと考えているはずだ。

すなわち、外国の存在を証明し、外国人と接触することである。

 

エルヴィンが地下室にあることを望んでいる「宝」とは、外国の存在を証明するもの、例えば世界の全体図や地図のようなものや書物ではないだろうか。

 

 

 

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最終更新:2015年08月24日 22:03