巫女みこ(神子・巫子)とは神懸りをして神霊の意を託宣する呪術的宗教能力を有する女性を指す。現在では、主に神社で神職を補佐して巫女舞や清掃、神札授与などの祭事や社務を行う。歴史的には神社に属する女性祠職と、神社を離れて在野で活躍する呪術者や祈祷師に大別できる。『魏志倭人伝』には「卑彌呼 事鬼道 能惑衆(卑弥呼は鬼道で衆を惑わした)」とあり、古来より祭祀に携わる女性がいたことがわかる。また古代日本では男性が政治を司り、女性が祭祀を司るヒメヒコ制と言う統治形態が採られていた。律令制における神祇官の女性神役を御巫みかんなぎと称し、『続日本紀』などに神子と書き「巫女をいふ也。祝詞式に巫をかんことよめり。神子の義なればみこは其略也」とある。その語源は明らかではないが、あるいは神霊の憑依する霊妙なる物実としての神子の略称か、霊威高貴な出自を示す尊称のミコの転用かと思われる。
かつて大神神社に宮能女、熱田神宮に惣ノ市、松尾神社に斎子、鹿島神宮に物忌、厳島神社に内侍、塩竃神社に若、出羽神社(羽黒山)に女別当などの名称が見られた。古代における巫女は、天鈿女命、倭迹迹日百襲媛命、倭姫命、神宮皇后の例などに見られるように、神の司祭者としての呪術的職能が見られたが、やがて男性祠職の神主、祝、禰宜などにその立場をとって代わられ、補助的神職になったとの説がある。
巫女になるには
巫女として神社に雇用される場合、常勤と助勤の二通りの形態がある。常勤の場合は國學院大學神道文化学部または皇學館大学文学部神道学科、及び各地の神職養成所で神職課程を修めた女子学生が奉職(就職)することが多い。短期の雇用形態である助勤の場合も、一般のアルバイトのように求人情報誌や求人サイトで募集されることは珍しい。多くの神社では國學院大學及び皇學館大学、また各地の神職養成所に求人を出し、そこの女子学生、特に神職課程に進んでいるものが課程の一環として赴く。年末年始や七五三、例大祭など神社の繁忙期においては上記の学生以外にも大量の募集を掛けるが、この場合、多くはその神社の縁故者、氏子崇敬者の繋がりで集められる。このように巫女になる道は狭いが、神社によっては毎年人員の確保に苦労しているところもあるため、諦めずに地元の神社に直接連絡するか、神社本庁・各都道府県の神社庁に問い合わせてみると良いだろう。
また神社の中には神田明神のように巫女体験教室を行っているところもある。神田明神は他に『巫女さん入門 初級編』も刊行しているので、興味がある方は一読すると良いだろう。
補足1、大きな神社だと巫女の取りまとめ役として“巫女長”がいる場合もある。
補足2、結婚したりある程度の年齢に達すると、巫女ではなく事務員としての雇用となり袴も緋袴ではなくなる。(仕事の内容自体はあまり変わらない。)
補足3、髪留めの有無や履物の種類で常勤の巫女と助勤の巫女の区別を付けている神社もある。
一般的な巫女の仕事としては境内の掃除や受付、神札や御守りの授与などがある。また、一部の神社や常勤の巫女だと事務全般や手水所役などの祭式補助、結婚式や七五三などの手伝い、巫女舞の奉仕、神幸祭の供奉なども行う。このような特別な奉仕の場合、事前に装束の着装や心構えなどと共に説明があるため、特に心配はいらない。
神社における仕事ではいくつかの注意点がある。
・掃き掃除の際は埃や塵を神様に掛けないために、本殿を上位(上座)としてから下位に向けて掃いていく。
・掃除などの際は神様になるべくお尻を向けないように心がける。
・代金ではなくお初穂おはつほ、お初穂料という。
・神札や御守りを数える際は「一個、二個・・・」ではなく「一体、二体・・・」
・正中せいちゅう(神様の前)を横切る際はどんなに急いでいても軽くお辞儀をする。
以上の他にも一般のアルバイトとは違った点が侭あると思うが、すべて理由があってのことなので神職や先輩の巫女の指示には素直に従うようにしたい。
補足4、創作物で巫女に大麻・大幣おおぬさを持たせているものを見かけるが、修祓は神職の役であり、巫女が大麻を持って祓うことはまず無いと言って良い。
補足5、上とは逆に鉾先鈴や神楽鈴を用いての鈴祓いは巫女が行う所が多い。
巫女になるといくつかの心構えが必要となる。それらは全て、“神様へ御奉仕させていただく”“神様と氏子崇敬者の方々の仲執持ちなかとりもち(仲介者のこと)として御奉仕させていただく”という大前提の下に決められていることで、巫女のみならず神職など神前で御奉仕する全ての人に求められる心構えである。巫女姿が可愛いから、お金が得られるからという動機は、神社・神道に親しむ入り口として否定されるものではないが、安易な気持ちで働くことは大前で奉仕する神職や、信心を持って神社に参拝される方々の気持ちを傷つけることになるため、そこはよく注意したい。
・神社に到着したら鳥居の前で軽く一礼、手水舎で手と口を清め、神前に二礼二拍一礼の作法で礼拝する。
・髪は染色しない。また長髪の場合は華美でない髪留めで留めるか、ゴムで結わえる。
・下着やハンカチは白色を着用する。
・華美でない服装を心がけ、装飾品は身に付けない。また、爪も短くしておく。
・着装の乱れには気を付ける。胸元や袴は緩み易いので小まめにチェックする。
・奉仕する神社の御祭神や御由緒については予め調べておき、参拝者の方の質問に応対できるようにする。
・わからないことがあったら自分の判断で動かず、必ず神職や常勤の巫女に指示を仰ぐ。
・神社のお金は氏子崇敬者の方々の気持ちが込められた御浄財であるという意識を持ち、管理には気を付ける。
・挨拶や返事はしっかりと行い、言葉遣いにも気を付ける。
・奉仕中の私語や携帯電話の使用は慎む。
・休憩中も必要以上に気を緩めない。
・神職や常勤の巫女とともに朝拝に参列する際には正座で座る。
・食事の際はただしい作法を心がけ、食物と生産者の方に感謝してなるべく残さない。
・大きな御祭では大変に忙しく休憩が上手く回らないこともおおい。特に大晦日から元旦にかけては寒さの中、夜通し奉仕するので体調管理には注意したい。
以上の他にも求められることは多いが、同様のことは一般社会でも働く上で必要なマナーとされている。大切なのは“神様へ御奉仕させていただく”“神様と氏子崇敬者の方々の仲執持ちとして御奉仕させていただく”という謙虚な気持ちだ。
補足6、神社によっては食事の前後に“食前感謝・食後感謝”を行う所がある。これについても道彦(先導する人)の指示があるので特に心配はいらない。
最終更新:2009年05月04日 19:28