祝詞作文

祝詞作文

 祝詞は神祇に奉仕している神職が神祇に申し上げる詞で、神徳を讃えたり、或いは人々のためや自己のために神徳の御発動を乞うものである。
稀には神職でないものが神祇に申し上げることもあるが、その時もこれによって心意を表白するのである。


祝詞作文に当たっての心構え

 祝詞の内容は神社神道を信奉し、神祇の恩徳を奉戴して神社の興隆を図り、斯道の宣揚に努めて、神ながらなる道徳を作興し、以て皇室の弥栄及び氏子崇敬者、天下万民の幸福繁栄を祈る内容であることが望ましい。
祝詞作文に当たっては神社本庁の例文が参考となるが、これはあくまで基準を示しただけであるから、各神社に於いては、その祭神及び由緒ならびに祭儀の情況などにより、適宜に作成すること。
また用語は難解な古語を避け、比較的容易なものを撰び、かつ全文の調子を崩さないように心掛ける事が肝要である。


祝詞の作り方

  • 祝詞は神を斎い奉る詞であるから、まず自分がいま神霊の大前に在る、ということを認識してその祭祀の趣旨を表明する必要がある。
  • 祝詞は神霊に接し、神徳を讃え、幣帛・神饌を供えて感謝の意を表わし、恩頼みたまのふゆを戴いて、信仰心を高めることを基本的な要件とする。
  • 祝詞は元来、神の詔り言を伝えるものと言われ、その神徳を聞かせることによって、祈る者に対し、御恵みを得させるものである。従って、人倫道徳的訓戒もここから出てはならない。
  • 祝詞はいわゆる言霊の信仰に基づき、善言と称辞を以て作成すべきである。ただし誠の心がなければいかに文辞に優れようともそれは空言である。
  • 文章は音律の優美、格調の荘重を期するため、列挙法、反復法、対句法、譬喩ひゆ法などの修辞に意を用いる。
  • 文体は宣命体せんみょうたいとし、用語の語尾や、助辞は細字で万葉仮名を用いる。
  • 現代の祝詞は延喜式の祝詞を根拠とし、一定の体裁を採るものであるが、決して形式的模倣ではんく時代とともに進んでいくものである。


祝詞用万葉仮名



祝詞の種類

 祝詞は神祇に奏上する詞であるから、他の文辞に比べてその用は狭い。しかし、日々の生活が神徳の下にあることを想えば、神祇と人との間に仲執持として立つ神職の奏上する祝詞が多岐、多種に渡ることは否定されるものではない。
ここに祝詞は、その内容から次のように分類される。

奉賽ほうさい
これは謝恩を主とするもので、希望や祈願をするのではなく、ただ頂戴した神祇の恩頼に対して御礼を申し上げるのであって、神祇祭祀の主用となるものであり、いわゆる報本反始*1の儀礼である。秋の収穫を感謝する新嘗祭の祝詞や、事業の成功を感謝するなどがこれにあたる。
祈願きがん
これは各方面にわたる切なる願望を神祇に申し上げるものであって、人生から見る時はその主要を成すものである。豊作祈願や病気平癒などがこれにあたる。
申告しんこく
上は国家の大事を始めとし、下は個人の旅行出発というような細事をも奉告するもの。神社の御造営や御修繕事業に関してこの類の典型である。
祝頌しゅくしょう
慶事を祝い讃えるもの。元旦祭や天長祭といったようなものは、いずれもこの種類である。
鎮斎ちんさい
祝頌の一類とも見られるが、文字のごとく鎮め斎い奉るのであって、“祝”の割合が少なく、むしろ祈願の意のものが多い。地鎮祭など建築に関するものはこれである。
葬祭そうさい
人の死を悲しみ、これを葬る祭儀の祝詞であり、その内容から特殊性がある。

以上は祝詞の主な意図するところを以て分類したものであって、個々の祝詞の表現を子細に見れば、祝頌に鎮祭や祈願を兼ねるとか、奉告に祈願を兼ねるであるというように、内容が複雑になるのは必然的なものである。随って、祝詞の作成には主意を明確にして立案し、附随として申し添える事柄は、その文の主眼と品位を損なわないように巧みに表現する。それには祝詞の構成に気を付けることが必要になる。



祝詞の構文

1.発端拝詞句
 ⇒ 先ず祝詞は氏子崇敬者の奉斎する神明の大前にて、宮司がその仲執持なかとりもちとして奏上する由を述べる。手紙であれば“拝啓”というような書き起こしの句である。
2.由縁神徳句
 ⇒ 次に祭神の御事績に伴う神徳を称賛し、祭儀の主旨や関わる事柄の故事、由縁を述べる。由縁句由縁章句ともいう。
3.感謝句
 ⇒ 次に神徳を蒙っていることに感謝する。感謝章句
4.目的句
 ⇒ 次に祭りを行う趣旨を述べる。
5.献供誠意披瀝句けんくせいいひれきく
 ⇒次に誠意を込めて幣帛・神饌・神宝を献り、また歌舞を奏して神の御心を慰め、真心を捧げて神意を奉戴する旨を述べる。献供章句献供句ともいう。
6.祈願句
 ⇒ 次に皇室の弥栄及び氏子崇敬者の平安、世界万国の隆昌と共存共栄、天下万民の無事のために神の御恵みの遍しことを祈る。祈願章句ともいう。
7.結句拝詞句
 ⇒ 最後に畏みて祭を仕えまつる言葉で結ぶ。神明に対する敬礼として、文の結尾に必ずこの拝詞を申し上げる。結尾章句ともいう。

装飾句
 ⇒祭儀にあたって、社頭・神門・社殿など神前を装飾することを叙述する詞である。装飾章句装束句ともいう。
奉仕句
 ⇒神職・祭員が神前、大前において行う動作・作業を叙述する詞である。奉仕章句作行句ともいう。
祝頌句
 ⇒神祇・国家・天皇・皇室・国民・御代その他を祝福、頌賛する句。祝頌章句ともいう。
最終更新:2010年01月17日 16:29

*1 「本に報い始めに反る」 根本に立ち返ってその恩を改めて肝に銘ずる。天地や先祖の恩恵や功績に感謝し、これに報いる決意を新たにすること。