和田中学校について
学習塾や受験への社会的な意識が高まる中、東京都杉並区の和田中学校は異例の学習スタイルを導入した。それは学習塾の講師を公立中学校に招き、夜間に特別な課外授業「夜スペ」を行うというものだ。和田中学校の校長である藤原和博氏はこの取り組みにより「私立を超えた公立校」の実現を目指している。私立に行かずに済む受験サポートを地域本部主催で行うという点が特徴である。
この実践には賛否両論が窺える。生徒の学力向上のために学習の機会を与えることは良いことである。さらにプロの講師による授業が受けられるということは各家庭が自ら学習塾を選ぶという不安を解消することができる。しかしその一方で、「夜スペ」には受講料がかかるため結局のところ学習塾と変わらず家庭の経済状況によってサービスを受けられる者と受けられない者が出てくるのではないか、これを学習の機会の均等と言えるだろうか、という批判もある。
このような批判に対して、藤原校長は2008年2月3日に文書を公開している。それによると、「夜スペ」は格差を助長させるもの、機会均等に反するものではなく、逆に
教育の機会均等を実現させるものと位置づけていることを明らかにした。(夜スペはあくまで東京の私立中上位校や都立の進重点校をイメージしており、県立校優位の地方については適応されない)これは夜スペを活用した場合と私立中学校に通っている場合、また中1から3年間塾へ行かせて高校受験をした場合のそれぞれの費用を算出し比較した結果、「夜スペ」を活用した場合が圧倒的に低費用で済むことを明らかにしている。つまり、一概には経済状況によって教育の機会均等に反するものであるとは言えないことになる。
また、このサービスで考えなければならないことは学習塾と学校、塾講師と教師についてである。
公立学校の中に塾産業が入ることによってその塾の宣伝になる。学校推薦の塾となるわけだ。一方、学校にとってのメリットは塾の持っている受験情報を共有することで的確な進路相談を可能にする、教育効果が上がるということだろう。しかし、塾講師と教師という立場を子供たちが混同したとき、正規の
学校教育は崩壊するのではないかという不安もある。実際に、学習塾で個別に学ぶことができるから学校では授業に集中しない、学校へは部活動をするため、友達に会うために通うという状態の子供たちも存在する。
学習塾と学校、塾講師と教師の違いで明らかなことは「個」と「集団」であると考える。塾では知識は身につけることができても他者の自分とは違った多様な考えに触れることはできない。一方で学校教育では集団生活を通して
社会化を促進することはできても生徒一人一人に寄り添って苦手を克服するには塾ほどの結果を出す事が必ずしも可能であるとはいえない。このように、学習塾と学校教育には相互に利点と問題点がある。このことは逆にお互いが寄り添うことによってさらに教育効果を上げることを予期しているともいえる。
今日の教師が大変多忙であることはいうまでもない。そのような時に外部の教育関係者が協力して子どもたちの成長を支えてくれるということは教師にとっても救いの一手となるのかもしれない。これは教師が責任放棄をしているようにも聞こえるが、そうではなく、日本の教師の役割は集団教育の中でいかに子どもたちに学習への関心の芽を育てていくかということであり、塾講師の役割はいかに個々の生徒の能力を高めるかということというようにそれぞれが違った角度から子どもの教育に携わるという点では必要な存在であるように思う。また、子どもに関わる大人は多いに越したことはないだろう。子どもは大人を
モデリングすることによって自己を確立していくこともある。さまざまな大人から話を聞くことで自らの人生を多様な角度から考える、要素を増やすことにも繋がるだろう。
和田中学校の実践は独立した学校教育と社会とを結ぶ新しい取り組みである。それは学校の内部だけでなく地域や教育産業という新しい発想を取り入れ、さらに学校教育を発展させる良い機会ではないかと考える。これは学校に信用がなくなった、ということの表れではなく開かれた学校の実現の第一歩であり社会に根を張る学校の改革にもなるのではないかと思う。
最終更新:2008年03月07日 01:07