MMPI(ミネソタ多面人格目録)
Minnesota Multiphasic Personality Inventory
MMPIは精神医学的診断に客観的手段を提供することを狙いとして、1943年にミネソタ大学の心理学者である
Hathaway,S.R.と精神医学者である
McKinley,J.C.によって開発された。今日では臨床的観点に立ってパーソナリティの特徴を叙述したり臨床的介入方針を策定するための情報を得る査定手段として使用されている。性格検査の中での利用度、研究文献数が高いテストであり、精神保健や矯正、相談などの諸領域において臨床心理査定や人事選抜、人格研究に利用される。
MMPIが最初に日本語に訳されたのは1951年に行われた児玉らのいわゆる日本女子大版である。その後、数々の大学で開発された。
テスト体裁
MMPIは様々な内容をもった短い自己叙述文
550項目によって構成されるかなり大型のテストである。これらの項目は精神的・身体的健康および家族、職業、教育、性的態度、社会、政治的態度、宗教、文化など26種類の多彩な領域に分けることができる。尺度構成は健康者、大学生、高校生、大学病院と障害度の低い者といった正常群と、精神分裂病やヒステリーなどの臨床群に分けることができる。しかし、これは精神医学的診断の客観化に成功したとはいえない。精神医学診断の心理学的人格や行動特徴と照らし合わせることが必要である。
テストを実施するにあたり、対象となる被験者は15歳以上、MMPIにはカード式と冊子式がある。所要時間はおよそ45~80分である。被験者は各項目を「あてはまる」「あてはまらない」「どちらとも言えない」のいずれかに分類する。どちらとも言えないを選ぶのは10項目以下にするよう努めるように教示することが大切である。
記録・採点・整理
結果の整理は尺度ごとの採点盤によって行う。当てはまる項目に印をつけ、各尺度の粗点を整理用紙に記入する。そしてK修正を行う項目の計算をする。次に、各項目の粗点をT得点に換算する。そして、T得点をプロフィールに記入し、視覚的にテスト結果の全体をとらえるようにする。
MMPIの尺度
MMPIには妥当性尺度、臨床尺度、そして追加尺度の3つの尺度がある。妥当性尺度は被験者の受検態度の偏りやゆがみの程度を調べるものであり、臨床尺度から得られる情報がどの程度信頼できるかを測定するものである。これには疑問尺度(?)、虚構尺度(L)、頻度尺度(F)、修正尺度(K)の4つの尺度がある。まず、?尺度は「どちらでもない」と答えた回答数である。次にL尺度は望ましい行為ではあるが実際には実行不可能に近い内容、F尺度は普通にはめったにそのような回答が見られない項目、そしてK尺度はL尺度ではチェックしきれない防衛的な受検態度を検出する。また、K尺度については任意の臨床尺度に対して修正を入れる必要がある。これは防衛の程度に依存すると考えられる。
次に、臨床尺度は10個の尺度があり、主としてパーソナリティ特徴を査定する目的で作られている。それぞれの尺度について以下に記す。
- 第1尺度は心気症尺度(Hs)であり身体機能に関する幅広い訴え、病気や健康に対する過度の懸念についての尺度である。高い場合には健康に対する並はずれた懸念、身体上の不調を訴えやすい傾向にある。一方、低い場合には身体上の事柄を気にしない。
- 第2尺度は抑うつ尺度(D)で気分の変動を表す指標である。高い場合は抑うつ感情を、低い場合は積極性のある社交的な人柄を表す。
- 第3尺度はヒステリー尺度(Hy)でストレス状況での転換症状、自分の感情の洞察を示す。高い場合はストレスに対して身体症状を作って自分の動機も感情についても洞察がない。一方、低い場合は積極性やのびのびしたところがないとされる。
- 第4尺度は精神病質的偏倚尺度(Pd)で反社会的、衝動性、欲求不満耐性の欠如などの人格特徴に関しての尺度である。高い場合は社会規範を取り込む反抗と敵意を行動に表しやすい。低い場合は受動的、同調的傾向であるといえる。
- 第5尺度は男性性、女性性尺度(Mf)である。性役割の摂取の程度や性役割観に関するもので男性における高得点の場合は伝統的な男性的性格態度よりも女性のそれを取り入れている傾向があり、一方、女性における高得点の場合は伝統的な女性的役割に縛られず、男性的な興味を持っている場合などが挙げられる。低い場合は女性役割への過剰な同一化がみられ、女らしさの誇張などが窺える。
- 第6尺度はパラノイア尺度(Pa)である。対人関係上の敏感さや妄想的な傾向を表す尺度である。高い場合は猜疑傾向や独善性、対人関係における敏感さがみられ、低い場合は人を信用して生活場面にうまく適応していることを示す。
- 第7尺度は精神衰弱尺度(Pt)である。不安からくる神経症傾向や精神衰弱を測定する。これが高い場合は緊張感や不安が強く、優柔不断である。低い場合には情緒が安定しており、くよくよ悩むことが少なく、自分に満足している。
- 第8尺度は精神分裂病尺度(Sc)であり、奇異な思考や言動をはじめ社会的疎外や家族不和、性、恐怖、不満足感など多様である。よって臨床尺度の中で最も項目数が多い。これが高い場合は社会的疎外や非論理的思考、判断不安などの特徴があり、低い場合名は抽象的な事柄に関心を持たない、時には豊かな創造性を表す。
- 第9尺度は軽躁性尺度(Ma)で心的エネルギー活動の水準を示す。高い場合は活動過多、情緒の不安定、衝動性などの特徴がある。逆に低い場合には活動性の乏しさがうかがえる。
- 第10尺度は社会的内向性尺度(Si)であり、独りでいるのを好むか、他人と一緒にいるのを好むかを見る尺度である。高い場合は内向的で対人関係が不安定、ひきこもりなどの特徴がある。これに対して低い場合は社交的傾向を示す。青年期ではやや低めを示すことが多い。
最終更新:2008年07月17日 23:48