ウェクスラー式知能検査


 ウェクスラー式知能検査は1939年、アメリカでウェクスラー(Wechsler)によって開発された知能検査である。ウェクスラーはニューヨーク大学ベルビュー病院の心理学部長であり、当時使用されていたスタンフォード・ビネー式知能検査(1916)の不都合な点を感じていた。そして知能検査を行う事によって性格判断が可能となるのではないかと考え、知能検査に因子説を取り入れた。従来の知能観では、情緒や性格などは知能とは別のものとして区別されてきたが、ウェクスラーは性格的因子を知能と切り離すのではなく、知能の重要な因子として取り上げた。これにより臨床現場では、知能のどの部分に遅れが生じているのか、障害を受けているのかを検討し、どのような治療を行い改善させていくかを考慮することが可能となった。
 ウェクスラーは知的因子の中で、性格因子によって影響されている部分を言語因子群、影響を受けていない部分を動作的因子群とした。そして、動作的因子は言語的因子よりも強く性格因子の影響を受けると考えられている。

 ウェクスラー式検査は1939年ウェクスラー・ベルビュー知能検査第1形式を元に、1955年にはウェクスラー成人知能検査であるWAISが開発され、その後1981年に改訂版WAIS-Rが作成された。

◎ウェクスラー式知能検査の構造と目的
 検査の目的は知能構造の診断である。全体的なIQだけではなく、言語性IQ、動作性IQが算出され、各下位検査 の均衡、不均衡からも知能の構造を診断することができる。全体的なIQで言えば、平均を100、標準偏差15とし、換算表からIQを求める。161以上または40未満は換算表に記載されていないため、他の検査と組み合わせて実施することが望ましい。WAIS-Rには言語性検査が6項目、動作性検査が5項目の計11項目の下位検査がある。それぞれの下位検査により、何が得意、または不得意かなど知能検査をより深く認識することが出来る。 

 さらに、複合的にも考察する必要がある。1つめに言語性知能と動作性知能の差、ディスクレパンシーが挙げられる。臨床的には両方のIQの差が15以上見られる場合に問題があるとされる。ディスクレパンシーからは被験者の適応障害を診断、さらに言語性IQ>動作性IQの場合は精神病、神経症の疑いがもたれ、逆の場合は青年期の性格異常、精神発達遅滞に当てはまることが多いとされる。
 2つめに知能減退率が挙げられる。これは個人が過去に獲得した知的機能がどの程度低下しているかを評価する指標である。そして、加齢によっても持続する機能と低下する能力との開きから算出される。実際にこれは器質的障害者と非器質的障害者を弁別する指標としての検討を加えている。
 3つめにばらつき分析が挙げられる。これは一つの下位検査間の変動性、つまり平均して2~3以内の変動を問題として取り上げる。

 また、その他にもパターン分析、内容分析がある。パターン分析は下位検査をパターン分けすることによって診断の助けにすることであり、例えば精神分析病群では一般的知識、単語問題が高く自発的な言語化を必要とする類似問題ではよく失敗する、数唱問題、積木問題の成績は平均以上、算数問題は平均以下で組み合わせ、絵画完成、符号問題では成績不良となっている。この他にも不安状態、性格異常、精神発達遅滞など多くの異常を診断することが出来る。内容分析においては被験者の反応を見て、投影法的に分析する方法である。自由に答えられる分野を取り上げ、こだわりの状況などについても把握することができる。

 このようにウェクスラー式知能検査からは被験者の知能および能力の高低、さらに精神疾患、精神遅滞などを把握することが出来る。WAIS-Rは高齢化社会に向け、WAISの適用年齢の上限を74歳まで引き上げる、また全検査のIQを40~160まで測定可能とし、時代に合わせて検査内容も考慮されている。

最終更新:2007年12月16日 02:21