「はぁ……気が、重い……」
水に溶かした淡い青色の絵の具を塗ったかのような、パステルカラーの朝の空。遠くに見える発展した大都会のビルの谷間からは真っ白に輝く眩しい朝日が顔を出している。
そこから少し外れた閑静な住宅街の路地に僕はいた。
転校してきて早二日目。父さんの仕事の都合でお姉ちゃんのいるこの街にやってきたんだけど、やっぱり転校とかって苦手だな。
僕は前の学校では「クールで超カッコいー!」だとか「人と馴れ合わないトコが皆と違っててオトナー」だとか……そんな外側の作られたキャラで通っていた。
そして父さんから転校の話を聞かされたとき、チャンスだと思った。今居る世界とおさらばして、〝新しい世界〟にやってきたら本当の自分で接することができるんだー……なんて、
期待しておきながら……自ら大失敗をしてしまった。
時は一日前に遡る。
これから僕が通うことになる、聖夜学園小という名の〝新しい世界〟。
まず僕が思った新しい世界の第一印象は、小学校というには無駄にゴージャスな造りだなという感じだ。
最初に出会った大きく立派な門構え。それをくぐったら……童話に出てくるお城のような形の校舎が堂々と建てられている。
そしてなにより驚いたのは、そのお城のようなドでかい校舎の隣にある温室のような建物だ。ガラスで造られた壁から見えるのは……本当に学校の中なのかと疑うほど豪華絢爛な……。
おっと、そういやここから先は先生から注意されて叱られていた所為でよく覚えてないや。でもとにかく物凄かった……どんなのかは忘れちゃったけど。
さてそんなことよりも、僕はお叱りを受けた先生と一緒に校内に入り、とある部屋の前まで連れて行かれた。この先生が僕の新しい担任教師で、前にある部屋は〝新しい世界〟……らしい。
まず最初に担任教師の先生が部屋に入り、転校生のコトをクラスの子達に話していた。そのとき僕は窓の隙間から中を覗いてたんだけど、先生が話を終わらせて入り口のドアの方にクラスメイトの視線を促した時は本当に怖かった。自分が注目を浴びるのはもうコリゴリだから……。
自然と教室がざわつく。僕のコトを噂してるのだ。「クールで超カッコいー子なんだろーなー」とか「人と馴れ合わない皆と違うオトナな子なんだろなー」とかそんなのを予想してたりするのかな。
それ以上に噂が激しくなるのを恐れて、僕はその部屋に勇気を出して入った。
ガラ。というドアの開く音と同時にクラスの子たちの視線が僕の方に注がれる。ヤだなー……。
僕は教卓の隣に立ち、先生の詳しい僕の紹介を終えるまで佇む。なんか「大人気モデルの桜井優亜ちゃんの弟なんですよー」だとかそんなことを話してたな。あんまりお姉ちゃんの話題をされるのって好きじゃないけどさ……。
とっさに出た言葉がこれだった。
「……別に仲良くとかそんなガキっぽいコトしたくねーし」
あぁ、終わった。今更「釣りですた」なんて言えねーし……。
この一日だけでこの僕、桜井勇太のキャラが決まった。
放課後になると生徒達の話題は僕に持ち切り。そして彼らは僕のコトをこう呼ぶんだ。
二代目・クールアンドスパイシー転校生……ってね。
「……ッフ」
そして現在に至る。とはいっても一日しか経っていないけど……。
ちなみにさっきの小さな笑いは皆の言うクールアンドスパイシーって感じの笑い。スルーしていいよ……っていうかそうして、お願い。
傍からだと「そんなの別にいいじゃん。悪い意味で言われてるわけじゃないんだしさー」とかそんな感じに思われてるかもしれない。実際に僕が前の学校の親友に言われたコトだから。
でもさ、イヤじゃないか? 別に僕はクールってワケでもない。カッコよくもない。ただ口下手でひねくれてるだけなんだ。誤解されるのって普通ツラいだろ?
たとえばそうだ。親とか先生とかに「キミはできるコなんだから」とか誤解されるの。一度は経験したことがあると思う。コレ言われたらイヤだろう?
まさしくそれなんだ。誤解なんだ。こんな変なキャラの所為で……。
さらに……追い討ちをかけるように僕の外向けのキャラのイメージを強くしてしまった原因が……、
『ゆーうーたっ!』
「わわっ!」
コイツだ。
ひょっこりといきなり僕の肩から出てきた人形のような二頭身の図体のコイツ。
ブラウンを基調とした英国風のファッション……なんというか、第一ボタンまで留めた白いシャツに深いブラウンのベスト、同じ色のチェックのハーフパンツに編み上げのブーツ。そんな格好したチビなヤツだ。
名前は……、
「おいソラ……驚かすなよ! 僕が怖いモノが苦手なの知っててやったのかよ!」
『アハッアハハハハハ! 勇太が驚いたぁ~!』
目を不等号みたいに閉じて腹を抱えてコッチを指差すソラ。起きてまだ一時間も経っていないってのにムチャクチャ元気である。
……妖精や人形や、ましてや幽霊にも見える謎の生命物体。自身のソラや同じ境遇のお姉ちゃんによると、この生き物は「
しゅごキャラ」というものらしい。
しゅごキャラ。その正体は全国、いや世界中のありとあらゆる人間が心の中に秘めているという「ココロのたまご」が子供の間に実体化してそれが孵化したモノ。もっと詳しく述べると、ココロのたまごが子供の実体化するのは、そのたまごの持ち主である子供の「なりたい自分」が影響しているらしいんだ。誕生の条件というのはまだ完全に明らかにはなっていないらしいけど……。お姉ちゃん曰く、“勇太はガッコでもチョークールって感じでチョー浮いてるから、ソラくんみたいにチョー明るいキャラになりたいんじゃないっ?”
なんて、「チョー」って言葉を一言に三つも連発しながら言っていた。
たしかに僕はフツーに明るいキャラになりたいって前からなんとなく思っていた。なんとなく思ってたらなんとなくソラが生まれた。そしてなんとなく……ガーディアンに入ってしまった。
……おい、たしか僕は普通の明るいキャラになりたいんじゃなかったのか? なのに何故、あんなゴージャスな温室でロイヤルなお茶会を放課後に満喫してるプレミアムのような生徒会に入ってしまったんだ。
「はぁ……なんで、ガーディアンなんてのに入っちゃったんだろ、僕」
ゆったりとした足取りで学園へ進みながら、独り言で僕は僕に問う。
ただ、その質問に答えるのは謎のもう一人の僕であって……。
『いーじゃん、いーじゃん! みんなキャラ持ち同士だし、仲良くやっていけそーじゃない?』
……これが本当に僕? こんな能天気でポジティブシンキングなキャラだっただろうか。いや、でもお姉ちゃんが教えてくれたんだから、きっとそうだとは思うけどさ……。
「でもなぁ、もしガーディアンの人たちとは仲良くできたとしても……」
そう。仮にキャラ持ち同士が仲良くなったとしても、僕が望んでいる普通の学園生活は送れるのだろうか?
今年で五年生。この学年というのは一番、先輩というものに憧れをものすごーく抱いているものだ。
憧れの先輩が五人も所属しているガーディアンだ。その中に同じ五年生である僕は一人だけ入っている。すると、どうなると思う?
僕も憧れの対象になってしまうということだ。
「うわあ……!」
ただの普通の男子生徒に「うわあ……!」だって? なんで感嘆の溜め息を漏らすんだ?
「ガーディアンの新メンバーの桜井くんだ!」
そうですよ。半強制的にしゅごキャラという謎の存在がいるということ だ け でガーディアンに入れられた桜井勇太ですよ。
「ホントにクール! さすが二代目・クールアンドスパイシー転校生!」
それも半強制的に生徒の方達から勝手につけられたあだ名だけど。非公式なんだけど。……っていうか一代目というのは誰なんだ?
謎の声援が飛び交う学校への道をなんとかクリアした。廊下を歩いている今でも生徒の視線が痛い。
頼む、見ないで、見ないでくれ。ココロの底からそう思いながら僕が向かっているのは、
五年星組。僕の学び舎、そして今日の試練だ。
二日目の登校。まだ友達なんてのもできてない。会話も少し席が近い夏川……っていう女子生徒と一言二言話しただけだし。
なんとかして友達を作らなければ……僕が望む普通の学園生活は望めない!
『でも、ガーディアンの×たま狩りっていう仕事をしてる時点で普通は望めないと思うけどー?』
……。
だが、行くぞ!
『あー! さっき僕のツッコミ華麗に避けたでしょー!?』
「うっさい! オマエは早くカバンの中に隠れてろ!」
最終更新:2009年10月27日 08:54