あの日から、一体どれくらいの時がたったのだろう?
彼の「いつもの夜」を「忘れられない夜」にしてしまった、あの時から……。
私がその話を聞いたのは、嵐の夜だった。
いつものようにパジャマに着替えた私がお母さんと話していると、お母さんの口からこんな言葉が零れ落ちた。
「ガーディア家も残念だったわね。上の人たちに目をつけられるなんて…」
いまいち意味の分からなかった私は、そんなことも忘れて、眠りについたのだった。
それからどれだけ経ったのか分からない。何かを感じて、私は目を覚ました。
悪夢にうなされた後の感じでもなく、何かをしなければいけない、そんな感じだった。
けど、それが何なのか分からない。何か、大変な事でも知ってしまったのだろうか?
私が、何か知ってしまったこと……?
「……ガーディア」
無意識の内に、そう呟いていた。
ガーディア? あれは、確か……!?
そうだ! ネイル!
思い出した私は、何をすればいいのかも分からず家の窓から飛び出していた。
屋敷の窓から飛び込んできた私を迎えてくれたのは、いつも通りのネイルの呆れ顔だった。
ちょっと安心。
「何だよセイラ、お前不法侵入の趣味でもあったのか?」
「違うよ! 大変なことなの!」
私は全てを話した。
…分かっているのはお母さんが言った言葉だけだったから、所々に私の想像も入れたけど。
それで返ってきた言葉は「おいおい、何言ってんだよ」だった。
「ちょっと、母さんに聞いてくる」
「あ、ちょっと……!」
その時、ドアを体当たりで空けたような大きな音が屋敷に響いた。
思わず声をあげそうになった私の口をネイルが抑える。私の事を信じてくれてたのかな? ちょっとうれしい。
「お前の言うことが本当になっちまったな」
それだけ言うと、ネイルは私を引っ張って私が入ってきたまま開いていた窓からとびだした。
あれから5年。
私たちは、辺境の小さな王国の首都、そして私たちの故郷へと帰ってきた。
辺境の小さな王国の首都。
人々が集まる場所としても有名な町。
それは私たちの故郷でもある。
所々が変わっている町並みを眺めながら、二人でしばらく歩いていた。
すると突然
「誰かが巨大なドラゴンに襲われているんだ。誰か助けてくれ」
という叫び声が酒場のほうから聞こえた。
そこに向かった私とネイルは一人の男性から話を聞いた。
洞窟の近くに寄ったときに、誰かが襲われていたらしい。でも誰も信じず、疑うらしい。
「ねぇ、助けに行ってあげない?」私は言った。
「待てよ、面倒事には首をつっこまねえ方が、って聞いてねえし……」
ネイルはやる気がないみたい。
でも……
やっぱり…絶対にやらなきゃ!
結局ネイルは納得しないまま、私たちは町を出た。
外には魔物が沢山いて、洞窟に行くまでの間に何度も魔物と戦った。
でも、ネイルのお陰で無事に進めた。
洞窟の外には男性が倒れていた。見た目からすると、20歳より上くらいの感じだった。
「こいつがそのドラゴンと戦ったやつじゃねえか?」多分ネイルの言ってる通りだと思う。
でも、誰かに助けられた様な感じだった。
そして、洞窟の前に、一人の女性が立っていた。
女性と言うより、少女と言った方が良いかも知れない位の柄の子だった。
「貴方がこの方を助けてくれたんですか?」と聞くと、
「あ、はい。洞窟へ来て見たら、この方が倒れていたので。私は仲間と此処へ来たんです。でも此処で待つ様に言われたので」この人の仲間が洞窟の中にいる様だ。
「とにかく、急ぎましょう、中へ!」私が言うと、
「そうだったな。そういやお前、仲間がいるんだったな、お前は来ないのか?」ネイルが言う。
「え?でも、私は…」動揺している様子。
「行きましょう、仲間も待ってるんじゃない?」
「でも、待つ様に言われたし…」
「大丈夫よ。多分心配してると思うよ!」私が言うと、
「じゃあ…」この人も来る気になったみたい。
そして私たちは洞窟の奥に向かった。
向かう途中、1人の人が小さなドラゴンと戦っていた。
「誰かしら」私が言った。
「さあな」ネイルも知らないみたい。
すると、さっきの少女が、
「あ、あの人です。私の仲間って。」
どうやら仲間みたい。
そうして話している内に、その少年は小さなドラゴンを倒した。
「ドラゴンを倒しに来たのかい?」と、戦っていた少年が言うと、「ええ、そうです。…貴方は?」と私は答えた。
「俺はライル・ロイン。この世界を旅しているんだ。突然悲鳴が聞こえたから来てみたんだが…大変な事になっててね。
あ、ルナ!。洞窟の前で待ってたんじゃ?」と言っていた。
「ルナ?誰だ?」ネイルが言うと、
「あ、私の事です。そう言えば、まだ名前言ってませんでしたね」とさっきの少女が答えた。
名前はルナと言うらしい。
「私はセイラ・カース、こっちがネイル・ガーディア。町の人に頼まれたからここに来たの」
「それより、早くドラゴンを倒しに行かないとね」
ライルの言う通り、早く倒さなきゃ。
4人で奥へ進んで行くと、目の前には大きなドラゴンがいた。
ドラゴンは何故か、入り口側へ進んだ。それも、とても速いスピードで。
すると、ドラゴンはいきなり襲い掛かってきた。
もしかしたら、さっきの小さなドラゴンは、このドラゴンの子供だったのかも…
ついさっきの事を思い出した。でも、それは一旦忘れて、戦闘に専念しないと!
ライルが指示を掛ける。
「よし、俺がみんなにバイデフをかける。身を守ってて」ライルが言った通りにガードしていた。
でも、ネイルだけは一人で戦おうとしていた。
「みんな、俺の掩護を頼む」ライルが言う。
ルナがスイマをかけた隙に、私はヒートをライルにかけた。ネイルはバイアタクをライルに。
そして、ライルの攻撃。
その一撃は普通では無い、恐ろしい程の威力だった。
「(補助魔法の効果がこんなに凄いなんて…)」
そして洞窟から戻る途中。
「なら一緒に旅をしようよ」ルナが言った言葉に、全員が驚いた。そしてネイル以外全員が賛成した。
ネイルは、ライル達とは行きたくない様子…。
でも結局、一緒に旅をする事になった。
仲間が増えて、私は嬉しかったけど。
そして、私たちは町へ戻っていった。
「あのドラゴンを倒したんだって? 君たちなかなかできそうだね」
町の酒場に戻ると、ネイルに似た服装の男の人が声をかけてきた。
「全部こいつがやったようなもんだけどな」
ネイルが面白くなさそうな顔をしながら、ライルを指差して言った。
「二人が来てくれなかったら勝てなかったと思うよ」
ライルが照れくさそうに頭をさする。
なんだか私も照れくさいな……
「どんなドラゴンだったのか、できれば教えてれないかい?」
男の人に言われ、私たちは洞窟で戦ったあのドラゴンの事を話し出した。
「…そんなドラゴンがいたのか」
この人はジェイクさんって言うらしい。
ちょっとした情報屋みたいなことをやっているそうだ。
「…この国の情報は基本的に網羅したはずだったんだだけど、いったいいつからドラゴンが……?」
「…え? ドラゴンってこの国にはいなかったんですか?」
ルナさんが不思議そうに聞く。
「ああ。…この国の中ではドラゴンは生息していない。ゴールドドラゴンがいるのは内海の方だしね。なのに君たちが言っていたドラゴンはゴールドドラゴンでもない、完全な新種というべき存在だ。いったいどういうことだろう……」
それから少し考えた後「あー駄目だ!」と言って頭をかきむしり、私たちに向き直って言った。
「悪いけど俺だけで解決できる問題じゃないみたいだ。港町のセイゲツって奴に聞いてみてくれ」
そう言いながら紙を取り出し、ペンで住所を書き、それからサインを書き加えた。
「これを見せて、ジェイクに言われてきたって言えば話を聞いてくれるはずだ」
そう言って、紙をライルの手に握らせ、思い出したようにこう言った。
「海路では凶暴な海竜が頻繁に出現する。くれぐれも気をつけるんだよ」
「なんかすごいことになったな」
船を見上げながら、ネイルが呟いた。
ほんと、大変なことになっちゃったね。
私はそう心の中で呟きながら、ライルの方を見る。
ライルはさっきから下を向いて何かを考えているみたい。
私がぼーっと見つめていると、何かを決意したみたいな顔をしてルナさんを呼んで、こう言った。
「ごめんルナ、ここで待っていてくれないか?」
「え、どうして……!? みんなでいた方が心強いじゃない」
ルナさんは動揺している。
「ルナと一緒にいた方が心強いのは分かってる。けど、もしルナがいなくなったときの事を考えると怖くてたまらないんだ」
そう言うと、ルナさんが笑顔になった気がした。
「分かった。けど、絶対に帰ってきてね。約束だよ?」
そう言って、ルナさんとライルは指切りをした。
陸が遠くへ離れて、今は黒い線にしか見えない。
「さっきの二人、いい感じだったね」
私は離れていく陸を見ながら、ネイルに話しかけた。
「俺は何があってもお前に待ってもらうような事はしねえ」
「どうして?」
私が聞くと、ネイルは恥ずかしそうな表情をして言った。
「離れたら最後、二度と会えないってのは嫌だからな」
「…ありがとう」
「…うるせえ、うわっ!?」
突然船が揺れて、ネイルが思いっきり転ぶ。
「海竜が出たぞー! 総員配置につけー!」
船員らしき男の人が叫んでいる声が聞こえた。
「来ちまったな。セイラ、海竜を倒すぞ! 絶対に負けんじゃねえぞ!」
「うん!」
絶対に負けられないんだ。
ライルさんがいなくなった時のルナさんが、どれだけ悲しむか考えたくないから。
カスケイドン。
この海域に生息する大きな体を持つ海竜の一種。その大きな体で暴れまわるのだが、あまり動きは素早くない。
「何かこいつ動きが素早くねぇか?」
ネイルが海竜の尻尾をジャンプしてかわす。確かに体の大きさの割に動きが俊敏だ。
「面白いじゃねぇか! 本気出して一撃で…」
「どけ」
ネイルの後ろにやって来た男の人が、ネイルの頭に手を載せて後ろに押しやった。
黒い髪が肩にかからない程度の長さに伸びていて、漆黒のマントと枯葉のような印象を受ける服を着た男の人。鋭く光っている黒い目の割に、顔は少し可愛いと言った感じがする。
その男の人はマントを翻し、大き目の紅い刀身を持つナイフを取り出す。海竜の方を向いたと思ったがすぐに海流に背を向けた。
男の人はナイフを鞘に収めながら呟く。
「弱いな」
そう呟くのとほぼ同時に、海竜の首が飛び、海に落ちて大きな音を立てる。
「…何だありゃ? 手品か?」
呆然としているネイルの横を通り過ぎ、男は船の中へと消えていった。
~完~(殴