緊張で震えそうな手を、強く握り締める。
引き金を引くことは、何度行っても慣れはしない。
それでいい。
どうせ気軽に引くことなどできないもの。
ならとことんまでこの重みを噛みしめて、握り締めて、引き金を引こう。
握った手が白くなるぐらいに、強く強く力を込めていく。
ぎゅっと皮膚に食い込む爪の痛みでひとまず震えは止まってくれた。
高速移動体を相手取るのも、いつもの射撃の延長でしかない。
パイロットの機体制御――位置取りと。
コパイによる照準調整――予測と。
ガンナーの引く引き金――そのタイミングが、全て。
自分の役目はガンナー、ガンナーだ。
呼吸を合わせて引き金を引くことに集中しろ。
意志を振り絞り、言い聞かせるように呟いた。
全ての感覚を研ぎ澄ます。
今か、今かと震えそうな手を握りしめてタイミングを合わせ――
「撃て!」
――引き金を引き絞る。
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水瀬悠@奇眼藩国
もう何もかもは霞んでしまっていて、青と白のまだら模様しか見えなくなってしまった。
空の青は黒に変わって久しく、いっそ星の瞬きにも手が届きそうだ。
遠くまで来た。
いろんな場所を転々と戦ってきたけれど、ここまで『遠さ』を意識させられたのは初めてのことだ。
だけど、どんなに遠く離れても。
確固として変わりやしない、護るべき我らが世界。
そうだ、いつも背中にするものが今日は足もとにある、ただそれだけのこと。
ここは静かだけど、それさえ分かっていれば、そう、いつもと同じ。
敵は超音速? 知ったことか。
銃弾があって、的があって、その距離をゼロに。
何も変わりやしない。
うん、大丈夫。
こわくないよ。
羽根の代わりにロケットエンジンを背負った天使に乗って、厚顔無恥な覗き魔を叩き落とすんだ。
さぁ、震えることさえ忘れた指はトリガーに。
固唾を飲んで。
さぁ。
「ゲットセット………ファイアっ!」
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木曽池春海@奇眼藩国
[敵艦隊あり、敵艦隊あり、]
室内に機械的な音声が流れる。
オペレーションシステムの画面を見れば、現在の敵の位置や規模が表示されていた。
「連絡班、この情報を各藩国、各隊に伝令。急げ!!」
「了解です!!」
迎撃に備え、作られたばかりの防衛施設が動き始める。
どこの国の施設も参謀と技師が、全身全霊で作った最高傑作ばかりだ。
守りたいものがあった。
倒したい訳でも、殺したい訳でもない。
ただ、守りたい。それだけで作られた施設だった。
「・・・頼むからな」
祈るようにつぶやいて、戦闘を開始した。
鍋衣 千世@鍋の国
ミサイルサイロ及びシステムルームでは、今まさに、ミサイルが発射されようとしていた。
指揮官とオペレーターたちが気ぜわしく動いていた。猶予はない。
「オペレータールームよりデータリンク!射程範囲内に到達まで後4分!」
「全レーダーとリンク開始!」
「アンチジャミングコード入力!」
「ターゲット追尾開始!射程内と同時にロック可能!」
「全ミサイル、発射準備よし!」
指揮官は静かにたたずんでいた。己が動揺すればみなに伝わる。
やることは唯一つ…命令するだけだ
「ミサイル、射程圏内に到達!」
「ロックオン!」
「グリーン・ライト!」
オペレーターの報告に、静かに手を振り上げ、…振り下ろした
「発射せよ!」
山前靖也@無名騎士藩国
ほの暗く赤い照明が施されたCIC(中央戦闘指揮所)にてアラームがなり騒然となる。
「レーダーが敵機を捕捉しました」
一番上の席に座った迎撃管制司令は頷きながら言う。
「迎撃開始。ミサイルの照準はできているな?」
「はい」
「発射だ。我等の空をヤツらに蹂躙させるな。片っ端から打ち落としてやれ」
静かにだが力強く言う司令
「了解!!!」
オペレーターも意気揚々と頷く。
「さてここからが本番だ」
一人のオペレーターが頷きコンソールパネルを操作する。
「発射5秒前」
「4」
「3」
「2」
「1」
カウントダウンが続く
「発射」
その直後レーダースクリーンに発射したミサイルが表示された。
「当たってくれよ。俺たちはこれしか出来ないんだ」
オペレーターはそれぞれ頷く。
藤野俊彦@FEG
最終更新:2007年05月16日 16:05