平野源五郎&キャスター


永遠が無いことを知りながらも、彼らは"今"を望み続ける。
一年後の自分を想像するのは恐ろしい、十年後の自分は生きているかどうかすらもわからない。
それでも、自分たちには今が――認識すれば一瞬にして過去になってしまう一刹那がある。
夢は自分の掌の中に収まるのか、あるいは夢に破れて――夢に破れて、どうなるのだろう。
未来への希望と絶望、置いてきた過去、永遠に続かない今、それらを混ぜあわせた混沌の街が下北沢だ。

――当時は若くお金が必要でした。たった一度の過ちであり二度と同じ間違いはしません。

混沌に潜む誘惑者は若者の夢を喰らう。
ソドムの街は神の炎により消え去った。
だが、罪は今もなお、そしてこれからも永遠にあり続けるだろう。
悪魔はもう地上にはいない、だが誘惑者は悪魔のように笑う。

堕ちる者もいれば、堕ちぬ者もいる。
ただ――誰かがそれを必要とするが故に、淫夢が終わることはない。

ここは下北沢――夢と混沌、野望と祈り、そして、ソドムの――ソドミストのための街。


「お゜も゜し゜ろ゜い゜こ゜と゜に゜な゜っ゜て゜ま゜す゜ね゜ぇ゜~」
下北沢のとあるビルで複数階層にまたがって存在する漫画喫茶――その名を平野空間。
控室――男はビジネスチェアに腰掛けて、監視カメラから送られる映像をチェックしていた。
その髪も、適度に整えられた髭も――老齢の証であるかのように白に染め上げられていたが、不思議と――否、不自然にその顔に皺は無かった。
付け髭に鬘、そう考えれば納得がいく――だが、それらに人工物の不自然さはない。
老人と言うには若すぎる、だがその年齢を正しく判断する術はない。

男はその、嗜虐性を隠すこと無く嘲笑っていた。
監視カメラに映るのは、漫画喫茶内の映像だけではない――下北沢のあらゆる場所に彼のための監視カメラが備えられていた。

男は全てを愉しんでいた。

平野空間のカウンターで理不尽の権化たるクレーマーが店員に難癖をつけることも、
あずま寿しの前で、男が初めての殺意を固めたことも、
どう考えても年齢設定を間違えた小学生が神話的生物に襲われることも、

何もかもが、男――平野源五郎にとっての娯楽であった。

新時代は遠からず訪れるだろう、と平野源五郎は確信している。

悪夢の時代ではない――淫夢の時代だ。
熟れた果実が地に落ちるよりも容易く強姦は行われる、狂気と愛に区別はなくなる、子は親を喰い、親は子を犯す。金!暴力!SEX!

「あっ、店長」
控室の戸が開く、どうぞの声は必要ない。所詮はただの漫画喫茶、鍵なんか必要ねぇんだよ!

「やあ、キャスター君」
平野は入ってきた男に一瞥すると、その視線をモニターに戻した。
男にそれを気にする様子は無い、むしろさも当然といった面持ちであった。

キャスター、そう呼ばれた男に関して真っ先に目に付くのは、上半身と下半身のアンバランスさであった。
上半身の逞しさに対して、下半身があまりにも貧弱すぎる。
これマ?と――現実を疑いたくなるが、しかしそれは真実である。

キャスターはサングラスで顔を隠し、網のような服からは隠し切れない乳首がもろびでていた(読者の抜きどころ)

ヴォー・・・週刊少年誌で連載している漫画家のようにも、かの有名なミュージシャンのようにも、あるいは、佐村河内守のようにも見える。

平野源五郎はキャスターの、その性質を知っているがゆえに、彼を凝視することはない。
無限の風評被害――キャスターと、かの王道を征くサーヴァントのみが持つ、文字通り無限の可能性。
その存在の不確定性故に、何にでも成ることが出来るスキル。

「申し訳ナス、ひでの殺害に失敗しました」
「フォォーッフォッフォ、構いませんよ……いえ、それでこそゲームは面白くなるというものです」
心底愉しそうに、平野源五郎は笑う。
あるいは、キャスターの失敗こそ織り込み済みであったのかもしれない。

「残りのランサー、アーチャー、アサシン、バーサーカー、そして……」
「そして……?」
「いえ、とにかく他のサーヴァントが召喚されるまで……アクメルくんの召喚を続けて下さい。
マスターを危機に追い込み、召喚の手助けをしてあげるのです」
「かしこまり!」

威勢のよい声と共に、キャスターの声は消える。
指示通り、すぐに行動に移ったのだろう。

「あるいは……」


「わ゜ た゜ し゜ の゜ ほ゜ う゜ ぐ゜ を゜ つ゜ か゜ う゜ こ゜ と゜ に゜ な゜ る゜ か゜ も゜ し゜ れ゜ ま゜ せ゜ ん゜ ね゜ ぇ゜~」

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最終更新:2016年03月12日 22:57