朱い月の美しい夜だった。
荒涼な大地に少年と少女の死体が転がっており、それを何の感慨もなく見つめる美少女がひとり儚げに佇んでいた。
エリート中のエリート。 人外中の人外。 異常中の異常。 彼女を前にすれば、どんな化物でさえ(喩え吸血鬼でさえ)弱小な生物に成り下がる。
そんな強大な化物……いや、もはや怪異とすら表現してもいいほどの圧倒的な理不尽を内包した規格外。
黒神めだか(改)がそこにいた。
(このまま全ての参加者と戦い、殺し尽くせば私はより『完成』された私に近づくことができる!!)
一人悦に浸っている黒神めだかを遠くから観察する影が二つあった。
「なあ、クマー。あんな化物どうやって仕留めるんだよ? ありゃあ、あたしには手に負えないぜ?
真心だって敵うかどうかわからねえってのに……」
と哀川は、隣にいる死んだ魚のような目をした少年に呟く。
「『……そのクマーって呼び方止めて下さいよ、哀川さん。呼び名だけで、ぼくをここまで不快な気分にしたのは
安心院ちゃん以来ですよ』」
「てめえ、苗字であたしを呼ぶなって何回いえばわかるんだ。わたしを苗字で呼んでいいのは敵だけだ」
ったく、と一発球磨川の頭を殴る赤いひと。
本気で痛そうだった。
「おまえは本当にいーたんに似てやがるな。まあ、『似てる』だけで『同じ』ってわけじゃあなさそうだが……」
「『?』」っと首を傾げる球磨川。
(いーたんって誰だ? まあ、哀川さんの大事なひとには違いなさそうだから覚えとこ~と)
「大事にゃ違いねーが、止めとけ。そういう形ですらあいつには関わらない方がいい。
特におまえみたいな奴はな」
(?)
今度は本気で首を傾げてみせる球磨川。
「気にするな。それより何かいい案はねーのかよ?クマー」
「『……う~ん、そうですね。あなたのそのマイナスなほどの強さと
ぼくの『大嘘憑き』があれば、なんとかなるでしょう』」
そういって、ぞっとするほどマイナスな微笑を浮かべ、球磨川は螺子を取り出した。
だが、おとなしく観察されているだけの黒神めだか(改)ではなかった。
突然、二人のほうを振り向くと、
「見ているな! 貴様ら!!」
と超特大の怒声を上げた。
「―――――!!」
「『―――――!!』」
突如、体の自由を奪われ土下座のような体勢にさせられる人類最強と負完全。
それを嘲笑うかのようにゆっくりとした動作で、獲物に詰め寄る黒神めだか(改)。
月明かりに照らされた黒神めだか(改)は、異様な妖艶さを含んだ美しさに満ちていた。
あまりにも美しい存在は、見るものに否応なく『死』を意識させる。
殺し名七名、序列七位の石凪調査室の者でさえそのような形で『死』を意識させる
死神はいないだろう。
今の黒神めだか(改)は、まさに『死』を振りまく『死神』と化していた。
それに対する哀川潤はどうしようもなく『人間』だった。
『人類最強』の名を冠する哀川潤だが、人類という種から見て最強なのであって、
決して『最強の生物』という訳ではないのだ。
本当の意味での『人外』である黒神めだかと本当の意味での『人間』である哀川潤。
そして、そこが勝敗を分ける決定打となった。
月明かりに照らされた荒涼な戦場に赤い湖が出来上がっていた。哀川潤と球磨川禊の血の湖である。
球磨川はうつ伏せで、腹からは贓物が零れ落ちている。 哀川潤は、黒神めだか(改)に襟首を掴まれ吊られている。
「しかし、分かりません」
と黒神めだか(改)は死にぞこないの二人に問いかける。
「なぜ、あなたたちは私の姿を見て仕留めようなんて馬鹿なことをしようとしたのですか?
逃げていればあなたたちは助かったかもしれないのに」
それに対し哀川潤は
「く、ククク、ハハハハハハ!!」
と笑って答える。
「何がおかしいのですか? これから死ぬというのに何がそんなに楽しいのですか?
それとも気でも違いましたか? まあ、いいでしょう。もう、死になさい」
手刀を構え、そのまま赤き制裁の胸部に、
「あれ?」
胸の辺りに激痛を感じ、目を落とす。
そこには、人類最強の手が突き刺さっていた。
「――――――――!!!!!」
なにが、起きたのか理解できない黒神めだか(改)を人類最強は何の感情も抱いていないドライな
目で見つめる。
「お前に言ってやれる言葉は何もないが、ひとつだけいいことを教えてやる。
いつだって化物を倒すのは化物ではなく、人間だ。
人間でなくちゃあいけないのさ」
(それ、アー、、、カー、、ド)
心の中で突っ込みをいれ、黒神めだか(改)は力尽きた。
『大嘘憑き』によって黒神めだか(改)に負わされた怪我をなかったことにされた哀川潤はピンピンしていたが、
球磨川は『大嘘憑き』の不具合により自身の怪我をなかったことにできなかったため満身創痍だった。
「それにしても無茶苦茶にやられたな、クマー。なんかあいつに怨まれるようなことでもしたのか?」
「『まあ、、、あの娘には、、いろ、い、、ろ、酷いことを、しましたからね。
自業、、自得ですよ』」
それより、と球磨川が今にも死にそうな声で呟く。
「『この、、傷じゃあ、もう、助かり、、そうにありませんから、、、早く殺して、下さい、、よ。
痛くて、、、どうにかなり、、、、そう、なんですよ』」
「ああ、そうだな。じゃあ、一思いに頭を潰してやるよ」
そう言って、頭を軽く踏む哀川。
「『ああ、、最期に、ひとついいですか?』」
「あん?」
「『がんばれ』」
これに満面の笑みを浮かべ
「頑張る!!」
と答え、思いっきり球磨川の頭を踏みつけた。
【黒神めだか@めだかボックス 死亡】
【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【一日目/深夜/B-2】
【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式×4
[思考]
適当にプラプラするか~。
いーたんがいたら適当にからかって遊んでやろう。
[備考]
※時系列的には、人間関係(伊織との関係)後です。
最終更新:2011年03月03日 08:47