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夜向性氏の番外編-03

1

接近してくる機体を見てアスランは驚愕し、そして喜んだ。
ようやく、シンも自分達の意に賛同してくれた。彼はそう思ったのだ。

ジャスティスのそばを取り囲むオーブ軍も、半壊で武装を全く持たないデスティニーを見て安堵し、嘲笑した。
負けを認めて投降しに来たのか?
例えエース機でも、あそこまでやられちゃ何もできまい。
彼等はそう思ったのだ。

人の心が覗けたら、そう思う人間は少なからずいる。
良く似た別の世界には、実際に相手の意思を感じることができる存在もいる。
しかし不幸にも、この世界にはシンの心の中を覗ける人間はいなかった。
もしもいたなら即座にこう叫んだだろう。そいつは危険だ! 早くデスティニーを討て、と。
そう、全てが手遅れになる前に・・・・。

シン「アスラン、レイは・・デュランダル議長は・・タリア艦長は・・・」
シンは残っていた最後の理性を総動員して、ジャスティスに通信を繋いだ。
もしかすると脱出しているのかもしれないと、かすかな希望を持ったのだ。
それとも、自分の信じた者達の辿った悲しき最後を
ただ聞きたかっただけだったのか。
アスラン「・・・彼等は俺たちの目の前で死んだ。タリア艦長もレイも、議長と一緒にあの中に残ることを選んだんだ。」

あいつが・・・自分の死を望んだ・・・?
誰よりも命の重さを知っていたあいつが・・・?

どんな命でも生きられるなら生きたいだろう。
議長には俺のような人間が二度と生まれない世の中を作って欲しい。俺はその世界にはいられないが・・・。シン、お前なら守っていけるはずだ。

彼の中に残っていた理性は、その一言を最後に永遠の終わりを告げた。
シンの中の何かがひび割れ、そして砕けた。
もう嘆くことも悲しむこともありはしない。
『心』が砕けた人間は、ひたすら暴走し破壊し、そして破滅していく。

アスラン「デュランダル議長は俺たちの説得にも耳を貸そうとはしなかった。
     そして、レイは議長を撃・・・」
シン 「・・・・違う。」
アスラン「何?」
シン 「あんた達がそうなるように仕向けたんだ。あいつの大切なものを全部奪って・・・」
 自分とは違い、レイには大切なものがたくさんあった。
タリア艦長、デュランダル議長、ディスティニープラン。
あいつが心中を望んだのは、守りたいものを失った辛さに、あいつ自身が耐えられなかったからだ。
そして、あいつから全てを奪ったのは・・・。
シン「あんた達があいつを追い詰めた。あんた達があいつを殺したんだ!」
アスラン「・・・シン!」
 シンの剣幕にひるむアスラン。所詮、シンの言っていることは論理の飛躍に過ぎない。言うなれば八つ当たりだ。
だが、彼が放つ殺気はアスランに反論を許さなかった。
あるいは、アスランの中にあった少しの罪悪感がそれを止めたのかもしれない。
彼がレイから大切なものを奪い、死に追いやったのは紛れもない事実なのだ。
ネオ「坊主、俺たちが撃たなければオーブが撃たれていたんだ。オーブを守るためには仕方がないだろう」
 たまりかねて、ネオ(ムウ)が止めに入る。
しかし、そんな言い訳がシンに通用すると思っていたのか。
祖国であるオーブですら、今のシンにはどうでもよかったのに。
シン「撃たれていただと、被害妄想も大概にしろ! なにがオーブの理念だ。
   プラントに攻め込んでおいて、俺から大切な人々を奪っておいて。・・・あんた達さえこなければ!」

ここで解説しておくが、レクイエムの標準をオーブに向けたのは、オーブ軍が攻め込んできたあとである。
鹵獲したレクイエムで連合のアルザッヘル基地を撃ったのは、戦争状態にあったなら当然の行為であり、
なんら咎められることではない。
よって、オーブの『議長はデスティニープランに逆らった者にレクイエム向ける』
『次はオーブが狙われるかもしれない』と言うのは、彼等の完全な言いがかりであった。
(議長はオーブとスカンジナビアがプランに反対しても、レクイエムを向けてはこなかった)

だが、それを咎められるものなど、この世界にはもう誰もいはしない。
勝者こそが絶対に正しく、負けたものが必ず間違っている。
それが彼等の住む世界だ。

アスラン「戦争は終わったんだ。もう俺たちが戦う理由はない。」
シン 「また目を背けるのか! 死んでいった人間の意志はどうでも良いって言うのか!」
アスラン「そうじゃない、俺が言いたいのは・・・。」
シン 「ふざけてるのはあんた達だ! 俺を助けて、免罪符でも得る気なのかよ!
    メサイアに攻め込んで大勢の人間を殺しておいて、今更善人面するな!」

 ろくに言い返せずにいたアスランを見かねて、今度はキラのフリーダムが会話に割り込んできた。
シンの憎しみもキラにその矛先を変える。
シン「ディスティニープランの何がいけなかったって言うんだ! 戦争のない世界の何が気に入らないんだよ!」
キラ「デスティニープランじゃ人は一生縛られて生きていかなきゃならない。僕達はただ自由な未来が選びたかっただけなんだ。
   僕達は滅びの無い世界を選ぶことができる。その選択ができる世界なら!」
 議長に向けて話したデスティニープランの否定。
彼にしてみれば、一生懸命説得しているつもりなのだが、シンはそれを一笑に付した。
こいつは、あまりに幼稚だ。世界を知らなさ過ぎる。

シンはここぞとばかりにキラに憎しみをぶつける。
シン「自由? 選択? 笑わせるな、俺たちの周りを見てみろよ! 
   この死体の山があんた達の望んだ未来の結末だ! 
   この世界の人間はあんた達が言うほど『お利口さん』じゃない。
   憎しみと悲しみで、今にも沈みかけているんだ!」
キラ「う、それは・・・」
シン「あんた達はいいさ。自分を守る強い力があるんだからな。
   でも、この世界で虐げられている人々は、力の無い弱い人たちは
   デスティニープラン無しじゃ生きていけないんだよ! 
   『力』のある連中が起こしたベルリンの悲劇を! ユニウスセブンの落下を! 
    あんた達もその目で見てきたんだろうが!!」

キラ「そ、それでも僕は戦う。その覚悟はある!」
シン「戦う? 何とだよ、自分の邪魔になる人間全てか! そうやってまた殺すんだろ、あんた達の理想に歯向かう連中を! 
   殺されたデュランダル議長のように!」
 キラの額に一筋の汗が流れ落ちる。
真っ向から自分の考えを全否定され、これまで自分が正しいと思いこんでいたキラは、
ここにきて始めて動揺を見せた。
キラ「仕方がないじゃないか! そうしないともっと多くの人が苦しむことになるんだ!
   守りたい者のために戦うことが間違ってるって言うのか!」
シン「笑わせるな! 何も守れなかったあんた達なんかに、これから何が守れるって言うんだ! 
   さぁ、言ってみろ、あんたがこの戦争でどれだけの人間を守ったんだ?
   もちろん、前大戦の大エースなんだ。殺した人数より多いんだよな!」

ロゴスが起こしたベルリンの悲劇。 
元ザフトのテロリスト達が起こしたユニウスセブンの落下。
そして、今回のオーブとザフトの戦争。
その中で自分がやってきたことは一体なんだったのか?
事態を悪化させ、戦争を長引かせているのは自分達ではないのか?

それでも、キラは自分の間違いを認めることはできなかった。
認めるわけにはいかないのだ。
ここで認めれば、自分自身がいままで殺してきた人の重みで今度は自分が潰されてしまうのだから。
キラ「僕は・・・僕は殺したくて殺して来たんじゃない!」
 キラはフリーダムのビームライフルを半壊のデスティニーに突きつけた。
それは黙れと言う意思表示。彼は今まで自分の意見が通じない相手をこうやって黙らせてきた。
もっとも、そんな脅しなどもはやシンには無意味だ。
命を捨ててここに来ている者を、命を盾に恫喝するなど不可能である。
シン「俺を撃つのか? いいさ、このまま生き残ってもどうせ戦犯として銃殺刑だ。
   さあ、撃ってみろよ。今まで殺してきた人間と同じように
   ・・・俺もその真っ赤に染まった両手で殺してみろよ!」

 そういってキラを恫喝し返すシンも、どこかで気付いていたのだろうか。
目の前の人間は、レイが言う様な人類の夢でも、まして人の業でもない、ただの人間だ。
スーパーコーディネイターと言う殻にこもり、もって生まれた『力』に流されて生きているだけの
『弱い人間』なのだ、と。
だが例えそうだったとしても、キラが償うべき罪には何の変わりもない。

シン「どうしたキラ・ヤマト、この世界を平和に導くんだろ。だったら早く撃てよ、
   ラクスに逆らう反逆者を! 平和を阻害する愚か者を!」
キラ「っうぅう、僕は・・・僕は・・・」
シン「俺を殺せ! そして、この世界を平和にして見せろ、キラ・ヤマト!」
キラ「う、うわあああああぁぁぁっ」
 シンに自分の罪の重さを突きつけられ、コクピットの中で錯乱したキラは
満身創痍のデスティニーに対し標準を向け、その引き金を引いた。

ハイマットフルバーストモードとなったストライクフリーダムは、その持てる武装の全てを使い、肩のビームブーメランを破壊し、残った片足を吹き飛ばし、翼を溶かし、片方のガンカメラを潰し・・・。

そして―――コクピットだけを撃たなかった。

シン(やっぱりそうか。フリーダムはコクピットを狙わないんじゃない。こいつは・・・)
 そう、キラはコクピットを狙わないのではなく、コクピットを『狙えない』のだ。
人を殺す恐怖を克服できず、それでも戦う力を持っているから平和のために戦う。
あまりに滑稽で、あまりに悲しく、あまりに愚か。
キラ「・・・僕は・・・もう誰も殺したくない・・・」
――――彼にはシンを撃てなかった。

シン「アスラン、あんたなら撃てるだろ。ザフトにいた多くの仲間を売った裏切り者のあんたなら、俺を殺せるはずだ。
   ヨウランを殺したように!」
アスラン「ヨウランを・・・殺した? 俺が・・・!?」
シン「過去に捕らわれないってそういうことだったんだな。
   自分がやってきたことの責任は取らない。
   裏切った連中のことなんて死のうが生きようがどうでもいい。
   俺を助けようとしたのだって、自分に対する言い訳がしたかっただけなんだろ?
   自分が裏切ったおかげで、こいつの命は助かったんだって!!
アスラン「・・・!!!」
 何も言い返せないアスラン。いや、彼はどんな返答を返すことが出来たのか?
出来るはずがない。
シンの言っていることもまた、彼の過去がもたらした真実の一遍なのだ。

―――――彼にもシンを撃てなかった。

シン「それともあんたが俺を撃つのか? あの時ステラを見捨てたように俺の命も見捨てるのか?」
ネオ「・・・坊主」
シン「指揮官だったあんたなら、エクステンデットのデータを持ってザフトに亡命することもできたはずだ。
   でも、あんたはそれをしなかった。自分の命が惜しかったからだ!」
ネオ「それは違う。あのときの俺は・・・」
シン「それなら何でアークエンジェルに尻尾を振ってるんだよ! 
   ステラ達は助けなかったくせに自分だけは助かりたかったのか!
   あんたもアスランと同じだ。過去を無かったことにして今の自分を正当化してる。
   死んでいった人のことなんて欠片も気にしちゃいない!」
 そうだ、洗脳されていたことなどシンには関係ない。彼と自分は約束した。そして、裏切った。
約束を破り、ステラを戦場に連れ戻した罪。デストロイで三都市を焼き払い、殺戮を指揮した罪。
その罪はどんな言い訳をしても、けっして償えない。

――――――そして、彼もシンを撃てなかった。

何故、言い返せない。
何故、罪を認めようとしない。

シン「なにが平和の歌姫だ。何が三隻連合だ。」

なんのことはない。こいつらはただ流されて生きているだけ。
信念も、誇りも、理念もない。
シンには、戦争に勝利した彼等の姿があまりに脆く情けなく思えた。

シン「こんな奴らに・・・俺は・・・俺たちザフトは・・・」

それじゃあ、こいつ等の犠牲になった人達は何のために殺されたんだ?
信念を持って平和を望んでいた議長は? 
理不尽なほどの力の差に屈し、無残に殺されていった仲間達は?
何の価値もないオーブの理念に殺された自分の家族は?

アスラン「もういいだろう、シン。戦いは終わったんだ。これからはこの世界の平和のために共に戦おう」
シン「・・・この世界の平和?」
その一言がシンを更なる深みへと堕としていく。
自分の憎しみが間違っていないと彼に確信を持たせる。

彼は気が付いたと思ってしまった。
本当に撃つべきなのが誰なのか。
世界の平和に最も邪魔な存在が何者なのか。

ネオ「この先、世界の平和が安定へと向かうためにはお前の力が必要になる」
キラ「まだまだ世界は混乱しているんだ。これからはもっとたくさんの戦いが僕らを待っている」
アスラン「死んで行った連中に報いるためには、平和な世の中を作るのが一番だ」

元々すがるのものない彼等はただそれだけを胸に戦ってきた。
ラクスがそう言った。カガリがそう言った。僕達がやらなければ。そうしなければ。
誰も一人では背負いたくなかったのだ。自分達の犯した罪、殺した人間達の重み。
そうして、彼らは平和のためにと戦った。
背負ったものを少しでも軽くできると信じて。
守れなかったという罪の意識が、彼等を突き動かしていた。
ある意味では、彼等の思いはシンと同じだ。
ただ、そのやり方に違いがあったにすぎない。

しかし、そんな彼等の悲しみなどシンには知る由もなかったし、仮に知っていたとしても
シンは復讐を止めなかっただろう。
どんな理由があろうと、彼らが多くの命を奪ってきたことに変わりはない。
なら、その代償は払わせるのは生きている自分しかいないのだ。

シン「あんた達が・・・」

 ザフトや議長が頑張っていたとき、こいつらがやってきたことは何だ?
前の大戦で両軍を停戦させたのはまだマシだった。
その後はどうだ? 敗戦処理もせずオーブの安全地帯でのんきに暮らしやがって
いざ、戦争が起こったら、各戦場を混乱させて被害者を増やし、
戦争の源であるロゴスを倒したと思ったら、それに便乗してザフトの政権を奪いに来る。

こんな連中が平和な世の中を作る?
戦争のない世の中を作るために手を貸せ?

シン「あんた達がいるから世界は・・・」

前に行ってたよな、アスラン。
『彼らの言葉は一見心地よく聞こえるかもしれない。だが、彼らの言葉はやがて世界の全てを殺す』って。
やっぱりあんたは間違っているよ。
その彼らって言うのは
他でもない『あんた達の事』なんだから。

シン 「・・・そうだな、逃がすわけには行かないよな。この世界の平和を乱す奴らを・・・」
アスラン「シン? お前何を・・」
シン 「簡単なことだ、アスラン。お前達に殺されていった人々の恨みは、俺が今この手で晴らしてやる!」
アスラン「なんだと! 何を言ってるんだ、シン!」
ネオ 「おいおい正気か、坊主!」
 仲間もおらず、敵に囲まれ、半壊のデスティニーは武装がまったくない。
切れない縄で体中をがんじがらめに縛られた男が、お前を殺してやると喚いている様なものだ。
『力』を持たないシンの言葉は、勝者であるオーブ軍にとってはキチガイの戯言にしか聞こえなかった。

シン「あんた達は強すぎる。なら、この先の平和な世界には邪魔だよな。」
キラ「僕達が・・・平和の邪魔・・・?」
シン「強すぎる力は争いを生むって言ったのは、アスハだ。その通りだよ。
   だから、これからの世界の平和のために、俺はあんた達を殺さなくちゃならない。
   この命に代えてもだ!」

 そんなシンを見て、オーブ軍は哀れに思ったり、馬鹿にしたりと、それぞれの反応は違ったものの
『どうやら、本格的に狂い始めたらしい。』
というのが、デスティニーを取り囲んでいるMSパイロットたちの共通の意見だった。
この場で本心から心配しているのは、アスランやキラくらいのものだ。
もしかすると、自分達の犯した罪の意識から来た贖罪の意識の表れだったのかも知れない。

アスラン「もうやめろ、シン。デスティニーにはもう戦う力は残されていない。大人しく投降するんだ!」
武装のないMSなど、動くカンオケに過ぎない。
だからこそ、シンがここまで言おうとも誰もデスティニーを撃とうとはしなかった。
所詮は負け犬の遠吠えだと見下していられたのだ。

シンが一人で乗り込んできた時点で、オーブ軍は気付くべきだった。
知らず知らずのうちに、自分達の手が惨劇の引き金を引いていることに・・・・。

シン「あるさ、まだ一つだけ残っている」
シンがコクピット横のパネルを操作すると、レバーの下から9までの番号が振られたパネルが現われた。
それは機密保持のための最後の手段。デスティニーの自爆コードの入力装置。
本来は敵に奪取されそうになったときのための装置であり、
搭乗者の安全のために核エンジンは切ったまま自爆するように設定されている。
だが、やろうと思えば核エンジンをつけたまま、自爆することも出来た。

これこそが、シンの持つ最初で最後の切り札だ。
シン「このデスティニーはあんた達の機体と同じ核動力だ。フル出力で起爆すれば、
   半径百数十キロは6000度以上の熱線で蒸発し、仮に助かってもあらゆる電子機器は電磁パルスで破壊される。
   真っ暗な宇宙を、永遠に一人でさまよう羽目になるか、放射能病で三年以内に死んでいくか。
   さぁ、あと一分でどこまで逃げられるかな?」

 その言葉を聞いたオーブ軍は、とたんに顔が真っ青になった。
撤退を開始したザフトは落ち延びることができるが、
停戦のため停止したままのオーブ艦隊は今から退避しても絶対に間に合わない。
兵士B「デスティニーを破壊しろ!」 
兵士C「やめろ、誘爆するぞ!」 
兵士D「もうお終いだ! あいつを殺した罰が当たったんだ!」 
兵士E「誰か助けてくれ、せっかく生き残ったのに死にたくない!」
我先にと逃げ出すもの、祈りをささげるもの、絶望し早くも自殺するもの。
オーブ軍はあっという間に混乱した。

その中で、唯一アスランだけが、シンを説得しようとデスティニーの前に立ちふさがる。

アスラン「やめろ、シン。こんなことをしても何も解決しない」
シン「解決ならするさ。少なくとも俺の戦いはここで終わる。」

アスラン「今ここでラクスが死ねば状況は更に混乱する。
     お前が欲しかった戦争のない世界が更に遠のくことになるんだぞ!」
シン「そうかな? クライン派の筆頭とザラ派の筆頭。ザフトを二つに割る派閥の代表がいっぺんに消えるんだ。
   過去のわだかまりが消えて、プラントもすっきりするんじゃないか?」

アスラン「そんな理屈・・・!」
シン「ロゴスが消えて、連合も力を失った。オーブだって、カガリが死ねば世襲制なんて維持できなくなる。
   理想へしがみつく馬鹿な連中が消えて民主化への道が開かれるわけだ。はははっ、何だハッピーエンドじゃないか」
アスラン「ふざけるな! そんなもののどこがハッピーエンドだ。いい加減に目を覚ませ。」

シン「皮肉なもんだな、アスラン。平和を望んで戦っている人間が、平和のための一番の障害になってるんだ。
   いや、それは俺も同じか。邪魔者同士ここらで消えるとしようぜ?」
あと、四十秒。シンは最後の仕上げに掛かる。
ビームシールドを展開し、光の翼を広げ、デスティニーは再び稼動を開始した。

アスラン「よせ、もうやめるんだ。」
シン「俺を見ろ、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ。これが・・・あんた達が奪ってきた命の代償だ。
   殺されていった人々の恨みを最後にその身に焼き付けろ」

最後にそう言い残すと、デスティニーは全速力でスラスターを吹かせ、
立ちふさがっていたジャスティスを振り切った。
出力のリミッターを解除したデスティニーの運動性と機動力は、ジャスティスの限界をはるかに越えていた。
デスティニーはビームシールドを展開しながら、すさまじい速度でオーブ艦隊の中央を目指し突っ込んでいく。
アスラン「やめろ、シン!! 行くなあああぁぁっ!」

ヒルダ「撤退を急げ、ラクス様をお守りしろ」
 懸命に撤退しようとするオーブ軍は、迫り来るデスティニー1体に数十のMSを差し向ける。
だが、エンジン部への被弾を恐れてか、圧倒的な速度のためか
まともに狙いが付けられるパイロットはほとんどいない。

いや、ビームライフルを撃っているMS自体が半数にも満たなかった。
もうすぐ自分達が死ぬとわかっているのだ。
残り数十秒であの世行きだというのに、命令など遂行してなんになるのか。

迎撃するオーブ軍の士気は、敗北し撤退していったザフト軍よりもはるかに低かった。

当てる気のない薄い弾幕など、ザフトのエースであるシンには何の障害にもならない。
本能が最後を悟ったのか、いつものように種割れがおき頭がクリアになる。
シンは左手に残った対ビームシールドに余った出力の半分を回すと、勢いそのままにオーブ軍の旗艦。
エターナルとアークエンジェルに特攻をかけた。
残り、二十秒。
シン「これで最後なんだ。これまでのカリは返させてもらう!」

エターナルのブリッジに鬼神の如き勢いでデスティニーが迫る。
ラクス「か、回避を!」
兵士A「ま、間に合いません、うわあああ」
ブリッジを揺らす凄まじい衝撃。
何とか立ち上がった兵士達が見たのは、ブリッジを睨みつける緑色のガンカメラだった。

上方からエターナルに突撃したデスティニーは、その壊れた体を無理やり起こして、ブリッジを睨み付けた。
その目に映し出されたのは、他でもない敵の大将ラクス・クラインだ。

兵士F「敵MSが上部甲板に、と、取り付かれましたぁっ!!」
護衛のMSもブリッジに取り付かれてはどうすることもできない。
彼らは、甲板を破損したエターナルと半壊で今にも崩壊しそうなデスティニーを前に
成すすべなく見守るしかった。

バルトフェルド「馬鹿な、こんなところで我々が・・・」
ラクス「ひ、引き剥がしなさい!」
兵士H「駄目です、間に合いません!」
シン「あんた達は滅びるんだ。今日・・・ここで・・・俺と一緒にぃぃ!」
 シンはデスティニーの左手を天に掲げると、持てる全ての憎しみを込めてラクス・クラインに向け振り下ろす。
シン「うわああああああああぁぁっ」

ブリッジを叩き潰す瞬間、ハイパーデュートリオンエンジンが臨海を迎え、
デスティニーを中心発生した虹色の光が、
展開していたオーブ艦隊をまるごと包み込んでいった。

光は、崩壊したメサイアも轟沈したミネルバをも取り込み、
巨大な虹色の玉となって辺りに在るもの全てを飲み込んでいく。

  • 撤退中のザフト軍 残存艦隊
ヴィーノ「おいなんだよ、あれ!?」
アーサー「あれはメサイアの方だな。オーブ艦隊に何かあったのか?」
ルナマリア「・・・シン?」

こうして、月には平穏が戻った。
C.Eの世界がその後どうなったのか。オーブ軍は本当に消滅したのか。
そもそも、本当にデュートリオンエンジンは核爆発を起こしたのか。
真実は未だにわからない。
もしかしたら、シンと同じくどこか別の世界に転移して行ったのかもしれない。

唯一つわかっているのは、爆心地であるはずのシン・アスカとデスティニーは生きて別の世界に転移したこと。
シンが元の世界に帰還しない限り、真実は永遠にわからないであろうことだけだ。

2

シンの話が終わってから、インパルスもシンも黙りこくったままだ。
インパルスは、あまりのショックに声が出なかったし、
シンは思い出したくもない過去を思い出したことで少々気鬱になっていた。

 しばしの沈黙のあと、インパルスは一言だけシンに呟く。
インパ「主様、彼らは・・・死んだと思いますか」
シン「さあな、そんなことはどうでもいい。死んで行った連中の代わりに
   奴らに一矢報いることができた。それだけで十分だ」
そっけない意見だ。だが、それがシンの本心だった。
あの世界でのシンの役目はもう終わっているのだ。

インパ「しかし、よりにもよって自爆とは・・・」
シン「う・・・」
インパ「馬鹿ですね、あなたは。とんでもない大馬鹿です! 主様がこんなに馬鹿だとは思いませんでした! 
    あまりの馬鹿さに、私は開いた口がふさがりません!」
シン「馬鹿馬鹿言うな!だから言いたくなかったんだよ。」
 シリアス(?)な雰囲気だ。MSに口なんてあるのかよ、なんてやぼな突っ込みはこの際触れないことにする。

インパ「はぁ、まったく。あなたは私の創造を超える超絶馬鹿でした。
    この世界の友人達にも、さぞや呆れられたでしょうに・・・」
シン「いや、これだけは話してない。戦争に負けたから、やけになって敵軍ごと核爆発した。
   なんて言ったら、いくら俺でも正気を疑われる。」

インパ(素直に心配をかけたくないと言えばいいのに)
 インパルスは長年付き添った主の心中を察し、心の中で心底嬉しそうに微笑んだ。
インパ(そうですか、この世界にはいたのですね。
    あなたが心配をかけたくないと思えるような大切な人々が)


なお、デス子が意思を持った後、いの一番に彼女にボコられたのは言うまでもない。




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最終更新:2009年09月10日 07:31
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